「足、平気? 」
康明は足を休めずに体だけを比呂に向け、そう尋ねた。
比呂も足を休めることなく前へ進みながら頷き、答える。
少しだけ顔をしかめ、右足をかばうように不恰好に走る。
比呂には体が鉛のように重く感じられた。
足が言うことを聞かない。
痛みではなく、もう感覚が薄れているのだ。
たとえ逃げられたとしてももう元通りにはならないだろうな、と感じた。
「ポ・・・ポイント、こっちでいいの? 」
そう尋ねられた康明は左右を見渡しながら答える。
「こっちでいい。方角はね」
「方角は? 」
「兵隊さんが待ってるかもしれないけど、って意味」
「兵隊? ――陸軍? 」
「そう。気付かれたかも知れない」
「――?! 」
「アクシデント。全てのことは簡単に上手くは進まないんだよ。物事が大きければ大きいほどね」
「ちょっ・・・もし、もし陸軍とばったりなんて事になったら――」
「あぁっRiotと陸軍いっしょにしてもらっちゃ困る。悪いけど、その辺の特殊部隊なんか目じゃないよ。Riotの実行は」
「だからって、数が・・・」
「それは言わないでよ。“多勢に無勢”って言葉、和がよく使うけど今回に限りそれは否定させてもらうよ。そうだ、比呂、ガバメント撃ったことあるの? 」
「いや、ベレッタしか撃ってない」
「じゃ、僕のソーコム渡しておく。ベレッタよりは軽いよ。精度も悪くない。格好悪いけど」
康明の伸ばす手に一裕のガバメントを渡し、代わりにソーコムを受け取る。
「ひとつ、聞いていい? 」
「何? 」
「何のために? Riotは・・・活動してるの? 」
「・・・。そんなに大層なことじゃないからあまり言いたくないな」
「それくらい教えてっての。聞きたいことなんかほんとは200くらいあるんだから」
「カタキウチ」
「へ? 」
「僕はね」
「敵? 」
「ちょっとこのプログラムには因縁がね・・・」
そう言いながら康明は胸のあたりにそっと手を当てる。ちょうど、首から下げたロケットのあたりを。
「じゃ―――
比呂が言いかけたところで、目の前に火花が散る。
劈くような破裂音が比呂の鼓膜を乱暴に揺らす。
康明はM4A1を構え、引き金を引く。
3度、連続した破裂音の後、もう一度、3発。
右前方へ銃を構えたまま左後方へ後ずさる。
左手を水平に伸ばしひょいひょいと揺らす。
指先で行けと合図する。
比呂は敵――この場合陸軍だ――の位置を把握し、左後方へ退く。
ちゅんっと弾丸が風を切る音が聞こえた。
比呂の顔の近くを飛んだのだろうか。
ごくりと唾を飲み込み、比呂の体は硬直する。
――ゲームじゃない――
サバイバルゲームのような高揚感などとは程遠い、恐ろしいほどに張り詰めた空気を感じた。
「比呂。射撃の腕、期待してるからね? 」
「そういうの、中学生に言うなよ―――」