「千成さん。撤収します! 」
「段取り忘れんなよっ! 」
テント内から次々と飛び出していく通信技師や、技術員を隆志は同じ言葉で送り出していく。
"段取り"
この演習場まで乗りつけた車で、まずI.C周辺へ出る。
その場で陸軍が待機しているのならば強行突破。
なんとしても高速へ入る。河口湖から北西へ。
甲府の手前でその車を放置し、中央分離帯を越え名古屋方面から来る別部隊と合流。
隠しシートで富士エリア周辺の検問を突破。
千葉に入る前に車を捨て、散開。
すでに名古屋方面の回収部隊は行動を開始している。
一刻の猶予、いや、一秒の余裕も隆志たちには与えられてはいない。
「秋也、おまえたちも行け」
そう言われた秋也は一度典子の顔をみて、口を開く。
「しかし――」
すばやくそれを隆志はさえぎった。
「次だ。次がある」
「千成さんの息子さんがっ・・・」
「次だ。この作戦は失敗なんだ。次だ・・・」
隆志は押し殺すようにそう言うと、典子が空気を悟り秋也の袖を引っ張った。
「秋也。私たちがいても、千成さんの足手まといだよ・・・」
「そうだ。足手まといだ。君たちには章吾君がいる。子供のためにもここは退け」
「千成さん・・・」
隆志は典子へ目配せをする。
典子はその意図を汲み取り、さらに秋也の袖を引っ張った。
「わかりました。必ず、生きて戻ってください」
「あぁ。いつかいっしょに酒でも飲もう。政府のほえ面を肴にな」
「はい。必ず」
テントの前に黒いワンボックス滑り込む。
勢いよくスライドドアが開き、通信技師が手を伸ばした。
「大丈夫、あと6台ある。千成さんはどうせ最後まで残るつもりだ。はやく」
秋也はもう一度振り返り、隆志へ目を合わせる。
隆志は腕を胸の前で組んだまま黙って頷く。
秋也もそれに答えるように頷き、ワンボックスに滑り込んだ。
来た時と同様に、ワンボックスは土ぼこりをあげ、勢い欲走り去った。
「頭のイイコですね。典子ちゃんは」
テントの奥から戦闘準備を整えた武士が出てくる。
「ああ、熱血バカと冷静女房。お似合いだね」
武士は隆志の前に黙ってM4A1カービンを差し出す。
「どうせ、最後まで残るつもりでしょ? 千成さん」
隆志は銃を受け取りながら
「大分わかってきたみたいだな。俺って人間を。でも、俺のサポートはおまえじゃ役不足じゃないか? 」
武士はそれを鼻で笑い飛ばす。
「光栄って言うんですよ。こういうのは。なんせ次にRiotをしょってたつのは俺ですからね」
「そういうセリフは康明に一回でも勝ってから言うんだな」
「・・・必ずちゃんと、勝負をつけますよ。だから、死なれちゃ困る」
そういうとヘルメットを深くかぶり、ふーと息を吐いた。
緊張を少しでも和らげようとしているのだろう。
隆志はそれを境に口を真一文字に引き締めた。