「マルゴー、状況を」
隆志はインカムをヘッドセットに代え、電波の具合をみながら尋ねる。
雑音は少ない。
クリアだ。
「サイアク。一回接触した。被害ゼロ。向うは偵察みたいで装備が貧弱だった。数も少ない。二人。排除したけど」
「サイレンサーは? 」
「ついてないのも撃った」
「向うの通信は? 」
「わかんないヨ。多分持ってるでしょ? 」
「聞かれたか・・・」
「可能性もある」
「わかった。ランディングポイントは変更無し」
「リョーカイ」
隆志はすぐさま待機中の実行部隊数名をマルゴー回収予定ポイントへ配置する支持を出す。
きびきびとした動きでテント内から二人の実行部隊が飛び出した。
そのまま車に乗り込み、エンジンがかかったと同時に走り出す。
「マルフタ状況を」
「―――」
隆志の表情が一気に険しくなる。
ヘッドセットに手をあて、息を殺すようにあたりを見渡す。
応答がない。
「マルフタ。状況を」
「――ガッ――」
かすかに混じるノイズ。
「マルフタ?! 」
「――ッ――」
立ち込める不穏な空気に隆志の表情が同調する。
無言のままマルフタ回収ポイントへ向かおうとする実行部員を、手の動きだけで静止させる。
武士は心配そうに隆志の顔を見つめたままインカムを耳に押し付ける。
そして同時に、この状況で自分ならどう指示を出すかを考える。
予想されるケースは。
1、 戦闘中
2、 全滅
3、 ジャミング(電波妨害)
4、 機器のトラブル
ベストな選択は最悪のケースを中心に。
これが鉄則だ。
全滅であれば回収は中止。
回収の部隊二人は撤収。
しかし状況がまだはっきりしない今は待機。
応答がなければ撤収。
つまり、機器のトラブル、ジャミングであれば撤収。
見捨てるわけだ。
残酷なようだがこれが現実。
今のところ武士と隆志の判断は同じ。
「ガッ―ち―――こち――」
「マルフタっ! 」
「ガッギィィ――ごめ――ちょっと電波が――」
「無事か? 」
「――よ――無事――ごめん、ぜんぜん聞こえなかった。雑音入っ――る? 」
「少し。状況を」
「――無事。ああ、大分きれいになってきた。――康明とはぐれたまま。接触は今のところなし。あ
いつ通信生きてる? 俺ダメなんだけど。で、みんな無事。以上」
「了解した。ポイントは変更なし。急げ」
「了解」
ほっと胸をなでおろすように隆志は息をつく。
そして顔を向けずに指だけをポイントの方角に向ける。
回収部隊二名はすばやく車に乗り込み飛び出していく。
息をつくのも束の間、ほか全部隊へ撤収を告げる。
全部隊の了解が返ってくる事を確認して、再びヘッドセットを押さえ込む。
「康明。聞こえるか? 」
「―――」
「康明」
「―――」
先ほどからずっとこのままだった。
応答は無し。
最後の通信は比呂回収の報告だ。
それ以来、応答は返ってこない。
すでに12分。
最悪のケースを考慮しなければならない――