-12-
「第一回目の放送です。」
富士演習場の静寂を破ったその声は、スピーカーから発せられる坂本の物だった。
時刻は6時。
坂本が作戦本部と称されたあの部屋で言っていた、死亡者と禁止エリアを知らせる放送だ。
「ただいま午後6時です。最初に言ったとおり、すでにF-6エリアは禁止エリアになっています。近づかないでください。」
事務的な声だ。
その平坦な声はこのゲーム同様、非現実的な響きがあった。
その声は続けた。
「それでは禁止エリアを発表します。地図などにメモを取ってください。」
比呂は動かなかった。
極度の緊張感で体は幾分衰弱していたし、精神的にも疲れていた。
あれから銃声などは聞こえなかったが、この演習場のどこかでは誰かが、誰かを殺そうとしているのだ。
そしてそれは、昨日まで・・・いや、今朝までは中の良いクラスメイトだった奴らなのだ。
そんなことを考えてまた、比呂の胸には言いようもない絶望感が襲って来ていた。
「まず・・・・午後8時から・・・・・J−0。
・・・・・それから・・・・
午後10時から・・G−6。
そして、午後12時からH−7です。」
絵里と綾はすばやくメモをとった。
比呂たちが隠れている茂みはF−5。
とりあえずは移動の必要はなかった。
比呂は少しほっとした。
―― このゲームではあまり動かないほうが危険は少ない。
そう考えていた。
確かに動く必要がなければ動かないに越したことはない。
それは十分理解していたが、綾は少しじれている。
和彦のことが気になっていたのだ。
一刻も早く捜しに行きたい気持ちを比呂に伝えたのだが、
帰ってきたこと答えは「動かないほうが良い」の一言だけだった。
「次にこれまでに死んだ人を発表します。」
綾の胸がどくんと鳴った。
「女子15番 山口恭子。ただ一人だけです。」
綾は不謹慎ながらも胸をなでおろした。
―― 和くんは大丈夫。
まだ生きている。
「ちょっとペースが悪いですね。
このままだと禁止エリアをもっと増やさなければならなくなります。
皆さんもう少しがんばって友達を殺しましょう。
それでは、次の放送は夜の12時です。」
放送はぶつりときれた。
比呂はまた少し嫌な気持ちになっていた。
―― もうすこしがんばって?
友達を殺す?
ふざけるな・・・。
絵里はそんな比呂を心配そうに見ていた。
絵里もまだ不安定ながら、少しづついろんな事が見えてきていた。
このゲームは始まっている。
そして恭子は殺された。
誰か・・・・・クラスメイトのうちの誰かに・・・・。
どうしようもない絶望感の中、絵里はどうすることもできなかった。
比呂はもう投げてしまっているのだろうか?
生きる事を。
このゲームから逃げ出すことを。
そして自分や和彦や綾のことを・・・・・。
疑心に似たなにかが絵里の頭を駆け巡っていた。
ただ・・・時は流れていた。
綾のあせりは少しづつ大きくなり始めている。
日はもう傾きかけていた。
「比呂くん・・・・・。」
綾は比呂に呼びかけた。
「・・・・・・・ん・・・?」
横になっている比呂は顔だけ向け、返事をした。
絵里も綾の言おうとしてる事に耳を傾けた。
「和くんを捜しに行こう?きっと和くんも捜してるよ・・・・・。」
比呂は起きあがり、綾の目を見た。が、何も言わない。
「ここでじっとしてても何も始まらないよ・・・・・とにかく和くんだけでも捜そ?ね?」
絵里も同じ気持ちだった。
「もう少し待て・・・・・。」
比呂は静かに言った。
「でももうすぐ夜になっちゃうよ?暗くなったら捜せないよ!」
綾は反論する。
「明るいうちは動けない。何せこっちは武器と呼べそうなものはこの銃だけだ。」
比呂は綾にベレッタを見せた。
確かに比呂の言うとおり3人のディパックに入っていたものは
塩と胡椒、
十徳ナイフ、
フリスビー
というわけのわからないものばかりだった。
「この武器でどれだけ戦えると思う?この銃だって残りの弾は15発こっきりだ。
予備の弾はない。なるべく戦闘は避けたい。」
比呂はゆっくりと、静かに言った。
「俺だって何も考えていないわけじゃない。
和彦だって心配だ。
だけど、俺は二人を守らなきゃならない。
だから最も危険の少ない方法で行動するしかないんだ。」
綾は何も言わなかった。
比呂の言っていることは良く理解できた。
それでも綾の不安までは消し去れなかった。
「大丈夫だ。あいつは簡単に死にはしないよ。
だから・・・もう少し待て。夜になったら動き出す。
それまでは体を休めろ。」
比呂はそこまで言うとまた横になった。
綾は・・・・ただ黙っていた。
三人ともこの史上最低の殺人ゲームの中でいらだっていた。
気持ちはひとつにならなかった・・・・・・。
[残り35人]
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