「―――ブッ―――」
マルゴーからの実況が突然のノイズに消える。
そして隆志は悟る。
もう二度と、この無線は回復しないと。
マルゴーはダメだ。
そう自分に言い聞かせ、空を仰いだ。
「――こちらマルフタ! 金網を越えた! ただ、お客さんがいる。どうする?! 」
突然に隆志の耳に響く。
マルフタ――イサムと和彦、絵里、綾からの報告だ。
「囲まれているのか? 」
気持ちを切り替え、尋ねる。
「いや、左後方からの銃撃」
「牽制しろ、回収に5.56ミリを積んである。一斉掃射の前に車まで辿り着け! 」
「了解っ。康からの連絡は? 」
「"まだ"だ。まだ、ない」
「ちっ。とにかく南ね? 」
「急げっ! 」
マルフタとの通信が切れた瞬間にまた別の部隊から通信が入る。
「――ガッ――・・・はっはっ・・・マルヒト、東屋です・・・千成さん――逃げて。無理だよ・・・この数・・・逃げて――はっはっ・・・」
「春臣っ! どうした? 無事か? 」
「――ガッ――俺? 無事なわけ・・・ないじゃんよ。俺以外は、全滅――俺ももうすぐかな? ――逃げて。――無理だって・・・」
「諦めるなっ! まだ諦めるなっ! 」
「――ガッ――わり、俺、拷問とか嫌だからさ・・・"あいつらんとこ"、行くわ。ごめん――」
「おいっ! おいっ! 」
すぐ横で武士が舌打ちをつく。
くそったれ――
「ガッ――マルサン後藤だっ! 千成聞こえるか? ――」
隆志の目が見開かれる。ヘッドセットを耳に押し当てひとつ呼吸を置いた。
「後藤か? 無事か? 」
「ガッ――おかげさまでな。二人削られたが。4人は無事だ。ポイントに到着した。これから離脱する。問題は? 」
「ない。I.C、気をつけろ。この様子だとかなり硬いはずだ」
「―ッ―わかってる。比呂は? 康明は? 」
「まだ、わからん」
「――ガ――わかった。無茶するな」
「わかった」
武士がほっとした顔で隆志を見る。
「後藤さんは無事みたいスね。マルロクは離脱完了してるし。あとはマルヨンですか」
「ああ。恐らくマルヨンも――」
第4班からの応答はない。
離脱の了解以来、音沙汰はなかった。
大きな溜息を隆志は飲み込む。
"まだ"終わってはいないのだ。
隆志は身を翻し、ランドクルーザに乗り込む。
武士もそれに続く。
武士がドアを閉めるのも確認せずに、隆志は思い切りアクセルを踏み込みランドクルーザは土ぼこりをあげながら走りだす。
康明とのランディングポイントへ。