「千成さん。無理なら離脱ですからね? 」
武士は念を押す。
「わかってる・・・」
隆志は相変わらずに生返事だった。
武士がついてきた理由は一つ。
一人で行かせれば間違いなく判断を見誤ると思ったのだ。
隆志がどれだけ子供を、家族を大切にしていたか、それは武士も他の隊員もわかっていた。
だからこそ、なおさら隆志が心配だった。
常に冷静沈着である隆志が取り乱すのは、決まって家族のことだからだ。
隆志が家族を大切に思うように、Riotの隊員も隆志を大切に思っていた。
そういった意味では反政府組織、Riotは家族なのだ。
ひとつの目的のため、犠牲をいとわないとしても。
車がポイントに到着する。
同時に隆志は車の後部にあるアンテナを目一杯伸ばす。
どんよりとした小雨を落とす空へ。
無線をヘッドセットからさらに高感度の車載に切り替える。
変わらずにノイズだけを拾う無線に隆志は全神経を集中させた。
わずかな音の変化さえも見逃さないと波形のモニタを睨みつける。
武士は仕切りにあたりを警戒する。
いつ陸軍の部隊がこの車を発見するとも限らない。
すでに陸軍はRiotの存在を確認している。
すでに出発した離脱の部隊はまだ、ICの手前で待機していた。
強行突破以外に方法はない様子だ。
ならば一斉に抜けるしかない。
つまりは、そのチャンスを逃すということは自力での脱出を事実上不可能にする事だった。
タイミング。
それが全てだ。
マルフタは無事に回収部隊と合流する。まず綾と絵里が車へ押し込められる。
和以下、2名は後方へ向かい一斉射撃。
でたらめに撃ち込む。
一人の弾が切れると身を翻し車へ向かう。
同時に、イサムが一歩前に出て射撃。
弾幕は変わりなく後方を牽制する。
向うにしてみればたまったものではない。
顔を上げることすらも覚悟が必要だ。
和の弾が切れる。
身を翻した瞬間にイサムは左へ、もう一人の隊員は右へ体を倒す。
回収のワンボックスのバックドアは大きく開かれ、5.56ミリ車載機関銃の銃口が顔をのぞかせた。
隊員がその射程から外れた瞬間に機関銃が火を噴く。
薬莢がすさまじしいスピードで飛び散り、銃口からはマズルフラッシュがバーナーのように絶え間なく吹き上げる。
バババババババババ
とけたたましい銃声を轟かせている間に、イサムは運転席に滑り込みエンジンをかける。
掛かった瞬間に一度思い切りアクセルをふみ、次の瞬間に思い切りブレーキを踏み込んだ。
車がゆれる。
それを合図に機関銃を撃っていた回収部隊員は手榴弾を投げ込む。
タイミングよくバックドアは閉められ、車が動き出した瞬間に後方に爆炎があがった。
回収部隊はマルフタが到着する以前に対地用の爆薬を埋めていた。
それに手榴弾をあて、誘爆させたのだ。
完璧な段取りで回収部隊は一路、ICへ向かう。
まだ息はつけない。
最後の砦が残っている。