「千成さん? 」
康明はインカムに向かい語りかける。
その頬には一筋の傷。
まだ血がしたたり落ちるほど真新しいものだ。
その隣で比呂が忙しくカービンに弾を込める。
はぁはぁと荒い息遣いが緊迫さを演出していた。
「くそっ。まだか」
溜息を吐きながら周囲を伺い、そう呟いた。
比呂は目線を銃から離さずにそのままの姿勢で尋ねる。
「まだ繋がらないの? 」
「うん。ジャミングじゃないとは思うんだけど」
「政府の通信も無線なんだ? 」
「だと思うよ? でも段取りとこっちの数を把握されたらジャミングでも何でも出来る」
「ポイントまでは? 」
「わからない。方角だけしかね」
「歩数数えてなかったの? 」
「ごめん。余裕なかったよ」
「だよね・・・」
「ポイント諦める? 」
「は? 死ぬって事? 」
「違うよ。樹海」
「え―――俺、虫食うのやだよ。もう」
「大丈夫、カレー粉持ってるから」
「だから、カレー粉まぶした虫がやだっての」
「・・・セミも取れるよ。もうすぐ夏だし」
「セミならなんとか――」
「とりあえず――樹海も考慮しておこう。もし、もし、僕がダメになったらそうして」
「そういう遺言みたいなの、かっこ悪いよ」
「同感」
周囲の音はない。
先ほどまでの銃撃はうまく排除できた。
おかげで手榴弾は残りひとつだけになってしまったが。
再び、位置を特定されてしまうと、もう圧倒的に火力が不足していた。
もう一度康明はインカムに語りかける。
「千成さん? こちら康明。ナビして―――千成さん? 」
ガッ―――
一瞬、隆志のランドクルーザの波形モニタが揺れる。そして一瞬だけの声が飛び込む。
ガッ―――ん?―――明――して――――千――さ――
それを最後に康明からの通信は途絶えた。