ゆっくりと近づく兵士。
康明は政府の動きを予想していた。
少ない情報量ではあったが、恐らく政府は自分達を生かしたまま捕えようとしている、と。
そうなれば無茶は出来ない。
そこが付け入る隙だと。
右後方と、左方向に気配を感じる。
木や茂みに紛れ、銃口を向けているのだろう。
生臭い殺気が立ち込めていた。
前方の兵士の数は7。
妥当な数だ。
銃を構えたままゆっくりと距離を縮める。
お互いの存在は確認している。
兵士達は腫れ物を触るように距離を縮める。
康明はおもむろに背中のリュックに手をまわす
。そして、"あるモノ"を握りこんだ。
兵士達との距離はもう5メートルほど。
兵士が口を開く。
「おとなしく投降しろ。すでに周囲は包囲している。逃げられると思うな? 」
康明は答えない。
にやりと口元を歪ませる。
比呂はソーコムを握りなおす。
照準はあわせない。
銃口は地に向けたままだ。
はりつめた緊張。
部隊の小隊長らしき人間が前に出る。
そして後ろの隊員へ静止の合図を出した。
「もう、逃げられない。ここまでだ。銃を捨て、投降しろ。殺しはしない」
康明はその言葉を思い切り笑い飛ばす。
そして告げた。
「政府の言うことだけは信じない。七年前そう決めた」
言い終わった瞬間に後ろに回した手を前に出した。
手榴弾。
右手だけでピンを外し、すばやく握りなおす。
同時にセーフティレバーを落とす。
目の前の7人の兵士がたじろぐ。
2秒後、下手投げでそれを兵士に向け放った。
小隊長はそのとき、違和感を覚える。
康明たちは伏せる様子がなかった。
この距離で手榴弾が爆発させれば、金属片によって康明たちにも被害が及ぶ。
セオリーでは伏せるべきなのだ。
ころんと転がる手榴弾が約束の5秒を数え終えた。
兵士達は一気に後ずさる。
何人かはすばやくその場に体を伏せた。
しかし手榴弾は予想に反してポンっという軽い音と共に弾けた。
同時に物凄い勢いの白煙を吐き出す。
ダミー。
康明の投げたソレは手榴弾の形を模した煙幕だった。
小隊長はまんまとはめられ、それに気づく。
康明は立ち込める白煙の中、今度は左手をリュックに回す。
そして、リュックと背中の間に仕込んであった10cm四方の包みを取り出す。
ナイロンの包みに入れられた包み。
康明は歪んだ口元のままそれをダミー手榴弾と同じ場所へ放る。
兵士達はその動きにまたしても翻弄される。
戸惑う。
"次はなんだ? "と。
比呂の腕があがる。
照準を包みに合わせる。
煙幕の中、正確に包みを打ち抜く。
時が止まる。
―――閃光が走る。