-last episode-





―――3年後


 

 

比呂へ


比呂、お久しぶりです。
何から書いていいのかわからないけど、手紙を書きます。

今、私はアメリカにいます。
アメリカで教員になるために勉強しています。
私が学校の先生なんておかしいかな? 
でも小さなころからの夢だったんです。
比呂には一度くらい話した事あったかな? 
英語にもずいぶん慣れました。
私、実は秋也さんと典子さんのおうちでお世話になってるんです。
比呂は会ったこと無いと思うけど、あの城岩中のプログラムの二人です。
とてもよくしてもらっています。

和くんと綾は幸せに(?)二人で暮らしてます。
和くんはスポーツインストラクターになるために私と同じように勉強してて、綾は秋也さんと典子さんが働いているオフィスで仕事をしています。
週に一度はみんなで集まって食事なんかしてるんだけど、必ず予約は4人でとっています。


比呂。
あなたの席ですよ? 


比呂は生きているんだって信じているんです。
アメリカに渡ってすぐに、秋也さんが政府のコンピュータ(わたしにはよくわからないんだけど)で比呂のデータを探してくれたんです。
でも、見つかりませんでした。
何度も何度も、来る日も来る日も、データを探してくれました。
それでも、比呂のデータも康くんのデータも見つかりません。

秋也さんは"比呂くんの死体でも、康明くんの死体でも、見つかれば必ずその報告があるはずだ"と言っていました。
裏を返せば―――比呂達はまだ生きてるってことですよね?


楽観はするな、といわれましたが私は信じています。


そして今日―――比呂達の捜索を打ち切る政府の通達を見つけました。
もちろん私じゃなくて秋也さんが見つけてくたんだけど。


3年。
あの政府が3年探しても見つからなかったあなたは今、どこにいるのですか? 

その報告を今日、秋也さんから聞いて、思わず筆をとりました。
でも、どこに出していいのか―――わかりません。
昔、絵本で読んだ、不思議なポストがあったらいいなと思います。
そうすれば比呂へこの気持ちを届けることが出来るのに。


比呂。
私は待ってます。
またいつか会えるよね? 
会える日まで待ってます。


さよなら。
















































絵里はその伸びた髪を書き上げながら、颯爽とニューヨークの街を歩く。
バッグには今日の朝書いた比呂への短い手紙が入っていた。
あて先のない、手紙―――

今日は、和彦と綾と食事をする日だった。
いつもの洒落た店は32丁目の新しいショッピングモールの4階だ。
約束の時間は10分ばかり過ぎている。
手紙を書いていたせいだ。
少し急いでエスカレータに飛び乗る。
長いエスカレータ。

ふと、視線を上げる。

















視界に一人の男の姿が目に入った。

東洋人。

珍しいな、と絵里は思う。

その影はゆっくりと近づく。

ゆっくりと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昇る絵里と、下る男。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鼓動が高鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しずつ、はっきりとするその輪郭。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと近づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男は外を向いて、退屈そうな表情。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音楽雑誌のようなものを脇に抱えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

額に大きな傷。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絵里の呼吸が止まりそうなほど、心臓は早鐘のように鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すれ違う二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絵里は振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして男の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声に驚きながら振り返る―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――くわえタバコの男

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――「比呂っ!! 」―――


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――Fin―――

 



 



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