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比呂はただ押し黙っていた。
目をつぶっているが、眠っているわけではない。
―― こんな状況で眠れる奴がいれば紹介してほしい。
これからのことを考えていた。
――さて・・・・・・一体どうしたら良い?
こんな糞ゲーム一刻も早く抜け出したいけど・・・・。
とてもそんなことはできそうもない。
だったらこのまま・・・
みんなが殺し合いをしていくのをただ黙って見守るのか?
「がんばって友達を殺しましょう」
ふざけるな!
和彦は・・・・
今どこにいる?
放送で名前を呼ばれないって事はまだ生きてる。
まぁそんな簡単に死ぬような奴じゃないけど・・・。
あいつは・・・何かアイディアあるかな?
・・・・・。ねぇだろうな・・・。
でもこんなところでじっとしてても何も始まらないだろう?
動かなければ・・・。
危険は伴うけど・・・・。
・・・・・。
俺は二人を守れるか?
自信・・・あるか?
武器はベレッタ。
・・・・・・・・・。
考えてても何も始まらないな・・・・。
このままじゃ、死ぬのを待つだけだ。
じたばたしてやろうかな?
どうせ死ぬなら・・・。
消極的だけど・・・・こっちのほうが俺らしいかな?
和彦と合流できれば、話ができれば・・・。
なんか脱出の方法とか浮かぶかも・・・。
根拠ねェけど・・・・・・・。
「比呂?」
絵里が声をかける。心配そうな顔だ。
「ん?」
「大丈夫?どこか怪我したの?さっきからずっと動かないけど・・・・。」
「いや・・・・・。考えてた・・。」
「これからのこと?」
「そうだよ」
「どうするの?」
比呂は起きあがった。
背中についた草を払い落とす。
絵里と綾の顔を交互に見てから言った。
「動くぞ。」
綾の顔は少しほっとしたような表情を浮かべた。
絵里は真剣な顔でその続きを待ってる。
「はっきり言って。かなり危険だ。
さっきの放送で山口が・・・やられたって言ってたよな?
丸木もやる気になってる。高橋も・・・。」
比呂は続けた。
「だけど・・・。このまま何もしないで、何もやらないで死んでいくのは俺は嫌だ。」
そこで言葉を切りもう一度二人の顔を見比べる。
「でも、俺達はチームだ。
生き残るため、このゲームから何とか脱出するため協力しなきゃならない。
二人の意見を聞きたい。」
先の口を開いたのは綾だ。
「あたしは構わない。和くん捜すんでしょ?あたしもこのままじゃ嫌だ」
絵里はその綾の顔を見て少し腹を立てていた。
絵里もまた朋美のことを心配していたし、すぐにでも捜しに行きたいと思っていた。
でも自分の勝手な言動で、比呂を困らせたくなかった。
比呂が訳もなく誰かを見殺しにしたりしないって事を、
絵里は誰よりも良く知っていたから あえて口には出さずにいた。
現に朋美が本部を出てすぐに銃声が鳴ったときも、比呂は走っていった。
自分のバッグの事など忘れて。
そして比呂が朋美のこと和彦のことを口に出さないのは何か訳がある。
―― 私なんかばかがわからいような・・・何か訳があるんだと、そう信じていた。
なのに、綾は・・・。
自分の好きな人のことばかり・・・。
「あぁ・・・。和彦と・・・・朋美と・・・とにかく信用できる奴を捜す。」
比呂の言葉を聞いて絵里は少しほっとした。
―― 朋美のこと、忘れてなんかいなかった。良かった・・・。
「絵里は?どうだ?」
「うん。大丈夫。比呂の考えに私ついてくよ?」
絵里は、綾に対する嫌悪感を胸の奥に押し込んだ。
―― ダメ。こんな時に自分の感情で動いちゃ・・・。
「わかった。」
比呂は短く言い、ディパックを担いだ。
綾と絵里もそれに続いて仕度を整える。
「とにかく、西に行く・・・・・。俺がもし一人なら・・・・きっと西に向かうはずだ。」
あくまで予想に過ぎなかった。
が、自信があった。
―― あいつのことなら100%とは言わないけど・・・90%ぐらいならわかる。
だてに毎日つるんでたわけじゃない。
あいつは、この状況なら人の集まりそうな川や本部周辺は避ける。
かといって傾斜が急だといわれてる山間部には行かないだろう。
視界がせまい見渡しの悪いところにいるのは分が悪い。
万が一教われた時、移動が困難でないほうを選ぶはずだ。
まぁ・・・サバイバルのセオリーなんだけど・・・。――
「比呂・・・。どうやって捜すの?何か方法とかあるの?」
絵里は聞いた。言い質問だ。そう、比呂は思った。絵里・・・少し冷静になったな。と、も思った。
「方法はこれだ。」
一度上げた腰を落ち着けて、ポケットから小型ラジオのようなものを取り出した。
絵里も綾も目を丸くしている。
少し得意そうに比呂は説明した。
「これは小型のトランシーバーだ。俺がサバイバルゲームやってんのは知ってるよな?」
「うん。」
絵里は頷いたが、綾はなお目を丸くしている。
比呂は続ける。
「これは非常用、メインのやつはもっとでかいんだけどそれがだめになった時の非常用だ。
小型だしバッテリーもそんなに持たない。
それに受信、発信できる範囲も狭い。
いいとこ100メートルぐらいだろう。
これと同じものを和彦も持ってる。
お互いなんかあった時のためにお守りみたいにして持ち歩いてるんだ。」
一度言葉を切った。
―― ふぅっ・・。タバコを吸いたいな。
ちょっと調子出てきたかな?
「これをはじめて親父からもらった時、二人で話したんだ。
・・・なんか・・・そうだな・・・災害とか、まぁ・・・・戦争が突然起きたときとか・・・・・
なんかあった時、これを偶数の時間に・・・2時・・・4時・・・6時・・・とかに電源を入れる。
1分間だ。それを移動しながら続ける。」
「でも携帯なんかはつながらないんじゃないの?」
絵里は更に突っ込む。
「うん。実はさっき、4時と6時に試してみたけど、ジャミング・・・・・・
えーっと・・・電波妨害だ。は・・・されてる様子はない。
かけてみな?多分・・・本部とかにつながると思うから。」
綾は早速天気予報の番号をかけてみた。
RRRRRR
RRRRRR
がちゃ。
「どうした?山岸?なにか相談かな?」
その声は坂本教授だ。
綾はすぐにその電話を放り投げた。
「な?」
比呂は少しだけ得意そうな顔をした。そして携帯電話を拾い上げ電源を切った。
「そう言うことだ。前にこのプログラムのこと話題になったことあるだろ?
そんときニュースでやってたろ?
携帯なりPHS、一般電話は全部本部につながるように仕組んである。
地元の中継基地を全部押さえているんだろ?
でも、トランシーバーみたいな無線は平気だ。
ジャミングはされない。」
二人とも不思議そうな顔をしている。
「・・・・いい機会だから説明しとこうか?」
二人とも同じタイミングで頷いた。
妙におかしかった。
しゃべりつづけることで緊張感が少し和らいでいるのかもしれない。
ぐちゃぐちゃだった頭にス−っと風が吹き込むようだった。
「俺達につけられたこの首輪。」
比呂は首輪を指差した。
二人とも首輪を触る。
その存在を確かめるように。
「こいつは俺達の心音や脈といった情報をリアルタイムで本部なり、
どこかのコンピューターに送っている。
だから死体・・・・を確認しなくても、死んだか生きてるかわかる。
それに発信機もついてる。高機能だ。
俺達3人が一緒にいるのも坂本教授は知ってるよ。
さらに・・・・・盗聴機能付だ。この情報を無線で送っている。
ジャミングなんかしたらこの首輪の意味がなくなる。
リモートで爆発させることも禁止エリアもだめになる。
だから絶対に大丈夫なんだよ。
あくまで予想だけど大きくは、ずれていないはずだ。 」
二人を顔を見合わせている。
「盗聴・・・されてるの・・・?」
絵里は怯えながら言った。
「あぁ・・・。俺が政府なら、する。」
絵里も綾も押し黙っている。
やはり盗聴されていたことはショックだったみたいだ。
―― 俺だって良い気分はしない。
だけど、知ってるのと知らないのとじゃショックの度合いも違うだろう。
二人が口を開くのを比呂は待っていた。この事実を消化しないで先に進むことはできない。
沈黙。
比呂はタバコが恋しかった。
―― くそっ。禁煙しとけば良かった・・・。
「うん・・・・。良くわかった。」
絵里が先に声を出した。
「綾は?」
「うん。・・・・・・大丈夫。」
あまり大丈夫には見えなかったが、比呂はよしとした。
「動くぞ。」
再び比呂は腰を上げた。
日は完全に沈み、演習場は闇に包まれていた。
本当の惨劇は
これから始まる。
[残り35人]
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