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闇に包まれた、「プログラム」会場は静まり返っていた。
比呂は右手にベレッタを握り、ゆっくりと周囲を警戒しながら進む。
絵里はそんな比呂の背中を見つめながら思い出していた。
今までのことを。
――こんなに背中広かったかな・・・・?
絵里はこの状況にしては少し落ち着いていた。
――さっきの比呂、いつもの比呂だった。
絵里は、比呂が少し落ち着きを取り戻していることを知って、なんとなく安心した。
絵里には、言葉の端々や顔の表情で比呂の気持ちはわかる。
二人が幼馴染である証明だった。
比呂の話してくれたトランシーバーはそれほど大きな効果は望めないはず・・・と絵里は感じていた。
――綾はずいぶん安心してるみたいだけど・・・。
もし、そんなとっておきがあるのなら比呂はもっと早く動いていただろうし、
そんなに長くいろんなことを考える必要もないはずなのだ。
―― きっと、私や、綾を安心させるためのちょっとしたお芝居。
いつもの比呂だ。
いつもの比呂なら大丈夫。
絵里は確信していた。
――比呂はいつだって、私を守ってくれた。
小さな時、近所にいた大きな犬に追いかけられた時だって、犬を追い払ってくれたのは比呂だった。
自分だって怖かったくせに・・・・。
小学生の時、クラスの乱暴な男のこにいじめられた時だって助けてくれた。
まだ小さな身体だった比呂はすぐやられちゃったけど・・・。
家族で行ったキャンプで二人で迷子になった時も、「大丈夫」って言ってくれた。
半べそだったけど・・・。
いつも比呂は私のそばにいて、いつも私を助けてくれた。
だから、きっと大丈夫。
私だって少しは強くなったんだから・・・・。さっきは泣いちゃったけど・・・。
でも・・・。もう最後かもしれないね・・・。
絵里は決して投げやりな気持ちになっているわけではなかった・・・。
それでも、このゲームから生きて出ることは絶対に不可能だと感じていた。
それでもいい・・・・・。最後に好きな人といられるなら・・・・・・・・・・・・・。
月は、この演習場をやさしく照らしていた。
[残り35人]
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