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大東亜共和国専守防衛陸軍富士演習場、第4南砲撃台(I−1)。
演習場の中でも比較的新しい設備だ。


沼田健次郎(男子14番)はその地下にある仮眠室に隠れていた。
演習時に兵士が使うため、小さいが2つのベッドと水道、トイレが完備されている。
見つけた時は危険だと感じたが、
中に入ってみれば出入り口はひとつしかない、
誰か来ても必ずここから入ってくる。
もし、やる気のヤツが来たとしても


「あのドアを開けた瞬間この銃で・・・・撃ってやる。」


そう考えここにとどまることにした。


ラテン系のその顔と毛深いからだからは想像できないほど、健次郎は温室育ちだった。
野宿なんてとんでもない。
シャワーを浴びれないのが残念でしょうがなかった。
が、夜の闇に包まれた山の中にいるよりは数段気分がよかった。


―― 皆、夜中外にいるつもりかな?信じられないな俺には・・・。


こんな言葉を下級生の健次郎親衛隊が聞いたら腰を抜かすだろう。
彼はその野性的なルックスと運動神経のよさ、
ならびにバスの中でも見せたあの歌唱力で絶大な人気を得ていた。
下級生限定なのはそのなよっとした性格が同級生にはばれてしまっているからだった。
彼ももちろん親しい友達(島村祐二たち)との合流は不可能だった。
彼は出発直前に光也の銃声を聞き、そして出発後まもなく一裕の銃声を聞いていた。
とてもじゃないが他人を構ってる余裕などなかった。
一心不乱に走りこの砲撃台にたどり着いたのだ。


「島ちゃんたちどうしてるかな?」


寂しさと不安を紛らわせるためそんな独り言を言ってみた。
もちろん返事はない。
部屋は静まり返っていた。


――TVがみたいなー
ジュースのみたいな-
ああ・・・・日曜のデートもおじゃんかなー


彼はこの現実を直視しないように勤めた。そうすることが、
苦しいことから身を守る最善の方法だと信じていたのだ。
そして銃を点検しドアをにらみつけた。


―― 誰もくるな・・・・誰もくるなよ・・・・


さっきから何度もやっていることだった。
何かしてないと不安でしょうがないからさっきからコレを繰り返している。
ぼやき、
点検、
ドアをにらむ。
ぼやき、
点検、
ドアをにらむ。
ぼやき、
点検、
ドアを

どんどん

 

 


心臓が止まりそうだった。
にらみつけたそのドアを誰かがノックしたのだ。
震える手で銃を構え、ドアが開くのを待った。


しかし・・・・ドアは開かなかった。代わりに声が聞こえた。


「誰か、誰かいるの?」


一裕の声だ。
少しあせっているように聞こえた。
健次郎は警戒した。
さっきの、本部でのあの質問を覚えていたのだ。


――あの状況であの能天気な声、絶対にオカシイ。


そう思っていた。


「おい!誰かいるなら聞いてよ!脱出の方法がわかったんだ!」


――えっ!!??なんだって・・・?。
確かに、一裕は頭が切れる・・・。
でもそうやすやすと・・・
いや罠かもしれない・・
・・返事しちゃ・・・・・ダメだ。


「ねぇ!誰かいるんでしょ?明かりが見えてるよ!」


しまった!と健次郎は思った。
ドアの隙間から中の明かりが見えているのだ。
暗いの嫌だけど我慢して消しとけばよかった。
健次郎は後悔していた。


「おーい!開けてくれー・・・・。」


健次郎は考えた。
その足りない脳みそで。
本当に脱出できるのか?
もしできるとしたら・・・・・。
俺は最大のチャンスを逃すのか?


「島村や千成も一緒なんだ・・・・。脱出は多い方が良い!僕のこと信じれるなら一緒に行こう!」


健次郎はさらに迷った。
島ちゃんや千成も一緒か・・・。
千成は・・・ちょっと気難しいヤツだけど・・・頭良いしな・・・。
島ちゃんも一緒なら大丈夫かな・・・?


「・・・・時間がない・・・・嫌ならいい・・・・・・。」


一裕が立ち去ろうとする足音が聞こえた。


「ま、待ってくれ!俺だ!沼田だ!!」


健次郎は決心した。なんていっても逃げることが出きるラストチャンスかもしれない・・・・。


「健ちゃんか・・・よかった・・・開けてくれ・・・。」


健次郎はつっかえ棒をはずしドアを開けた。


「よかったー健ちゃんなら安心できるよ・・・!」


一裕はひとなつこい笑顔見せた。
健次郎も少し安心した。






「健ちゃん!脱出できるよ!」


一裕は健次郎に抱きついた。


「本当に?!」


健次郎は心のそこから!神に感謝した!


「みんなは?どこにいるの?どうやって脱出するの?!」


健次郎は立て続けに質問を浴びせた。


「ちょ、ちょっと待ってよーのどがからから。なんか飲ませて-?」


「え?ペットボトルの水しかないけど・・・・一裕バッグは?」


当然の質問だ。


「あぁ・・・・皆のいるところにおいて来ちゃった。」


「ふー・・・・ん」


「今皆は、俺みたいに仲間探してるんだ♪でもそろそろ時間だから集まってきてると思う♪」


一裕は部屋に入りペットボトルを探していた。


「あ!あった!ごめんね!もらうよ!」


一裕はうまそうに水を飲んでいた。
健次郎は開けっぱなしのドアを閉めようと一裕に背中を向けた。


「ぐっ!」


うめき声をあげたのは・・・・・・もちろん健次郎だ。


「あは!こんなに簡単にひっかるなんてね♪」


一裕は健次郎の首を後ろから締め上げていた。


「だめだよ・・・・・・簡単に人を信じちゃ・・・・。」


健次郎はまたも激しく後悔した!


―― 甘かった、何もかも甘かった。


健次郎の右手に衝撃が走った。


―― そうだ、俺は銃を持ってたんだ!


一裕に銃をはじかれてやっと気付いた。


締める力を少しづつ上げながら一裕は笑った。
悪魔のような笑いだった。


「よかったーー・・・・銃・・・欲しかったんだ・・・・・。」


返事は出来なかった。
声が出ない、息が出来ない・・・・。
健次郎の意識は少しづつ薄れていく。


「ばーーーーーーーか。脱出なんかできるわけないだろ!くっくっく」


健次郎は悪魔の声を始めて聞いた。
明らかに楽しんでいた殺しを・・・このゲームを。
さらに締め上げる力は強くなる・・・。


「助けて欲しい?」


一裕は聞いた。


健次郎は激しくうなづいた。
もっとも締め上げられてるせいで思うようには動かない。


「じゃあ・・・・・俺の仲間になる?」


もちろんうなづいた。


「俺の代わりにみんな殺してくれる?」


助かりたい、という生への執着だけが健次郎の首を縦に動かしていた。


「じゃ・・・・・・・・助けたげる♪・・・・」


ぱっと一裕は手を離した。


―― げほーっ!!げほっ!ぐほぅ!


健次郎は床に手をつき激しく咳き込んだ。
苦しかった・・・。でも、助かった。


「け-んちゃん♪」


健次郎はふっと頭を上げた。

 

 

 

 

 

 

 


だーーーーーーーん!

 

 

 

 

 

 



健次郎の頭の右半分が綺麗に吹っ飛んだ。
一裕はくすっと笑い、腰を下ろした姿勢のまま、
健次郎の頭を吹き飛ばした銃の銃身から出る白い煙をふーっと吹いた。



「知ってる?首締めて殺すと体からいろんなものが出てきて臭いんだ・・・・・・・・」




健次郎の左側の頭は反応しない。ただゆっくりと床に倒れた。





























「さっき・・・・大伴くんで試したんだ・・・・・・・・・・。」






またくすっと笑った。





[残り33人]



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