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亜由美は震えている。
その手に構えたレミントンはかちゃかちゃと音を立て、比呂を狙っている。
目の焦点はあってない。
生まれてはじめて自分への殺意を感じていた。


――こいつは撃つ。


理屈ではなく肌で感じる空気がそれを確信させた。


「銃を・・・おろせ。及川。」


出来るだけ静かに無表情に言う。
しかし亜由美は銃を下ろさない。
比呂に照準を合わせなおす。


「銃を下ろせば・・・? 撃つんでしょ・・・?」


「撃たないよ・・・。」


「嘘。」


比呂は表情を変えない。
亜由美も比呂も引き金から指を離さない。
二人の距離約5メートル。
飛び出して銃を奪える距離じゃない。


「・・・あたしを殺すつもりでしょ・・・?」


体は震えている。
そして声はヒステリックに張り詰めている。


「そんな・・・・・ことはない。」


自分で言って呆れた。
銃を向けていったところでそんな言葉に説得力など期待できない。


「なぁ・・・・その物騒な銃を下ろせよ・・・・。」


「さ、先に降ろ・・して!!・・。」


降ろせるわけない。
間違いなく亜由美は錯乱している。
銃を降ろせば撃たれる・・・。
綾たちは動かない。
いや・・・動けない。


「あんたち・・・・・は!・・何人こ、殺したの・・・?!」


次第に声が大きくなっていく。


「俺達は・・・誰も殺してない・・・。」


「じゃ、最初に殺されるのはあたし・・・?!あたしなの?!!」


「何言ってんだよ・・・俺達は誰も殺さない・・・・」


「じゃぁ・・・・なんで・・・なんで銃を向けるのよ!!!!・・」


比呂は言葉に詰まった。


「あなたの嘘なんか御見通しなのよ!!
そういってあたしが安心するとでも思ってるの!!?
今まで殺してきたやつらとは違うわよ!!!」


疑心暗鬼。
このゲームの最も恐ろしい部分。
こんなルールじゃ誰も信じることなど出来ない。





「わたしは・・・・・・・・!!
死にたくなんかない!!・・・・!
間抜けに死ぬのはいや!!
3人であたしを殺すつもりなんでしょ!!
誰も信じない!!
馬鹿にしないで!
まだやってない事だってたくさんあるの!!!
だから!!
家に帰るのはあたし!!!!!!
ぶっ殺してやる!!!!!!!!!
おまえら全員ぶっ殺してやる!!!!」




その顔はもう美少女ではなかった。完全に狂った狂人の顔。
銃を持つ手を突っ張る。
レミントンは、女の子が撃つには手を突っ張らなければ反動には耐えられない。
そしてそれを知ってるということは・・・やはりさっきの銃声は亜由美。
狙いは比呂。
顔がこわばる。
比呂にはスローモーションのように見えていた。
歯を食いしばる。
引き金がひか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ぱんっ!

 

 

 

 

 


亜由美の銃が弾かれる。
撃ったのは比呂、もちろん狙ったのは銃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


どんっ!




 

 

 

 


あさっての方向を向いたレミントンの銃口から白い煙が上がる。
比呂には当たってはいない。



「及川ぁ!!!やめろ!」


照準を合わせなおす。
はじめて撃った本物の拳銃の衝撃で手はしびれている。
信じられないという表情で亜由美は銃を構えなおす。
すばやくポンプを操作して薬莢を出す。



「ぶっ殺してやる!!!」




「伏せろ!!!」


二人はすばやく地面に伏せた。
絵里も綾も何がなんだかわからなかった。




どんっ






比呂は右に飛んだ。草の上に倒れこみながら撃つ。




ぱんっ!




亜由美の右肩に当たる。
たじろぐ。


ショットガンは当たってない・・・痛みはない。
すばやく振り向く。
絵里も綾もしゃがみこんでいるが血は見えなかった。
確信はないが多分大丈夫。
向きなおす。
亜由美はまだレミントンを離してはいない。
が、右肩から血が流れている。
もう撃てないだろう。


そんな比呂の考えは甘かった。
亜由美は背中に手を回す。
出てきたのは拳銃・・・。
ワルサーだ。
比呂に銃口を向け、引き金を引く。
躊躇はしない。




ばんっ




右足に激痛が走る。
着弾。
目の前が真っ暗になる。


―― くそっ・・


あまりの激痛に亜由美に照準が合わせられない。
勝ち誇る亜由美の顔が見えた。
照準は尚、比呂の顔を狙っている。


――殺される。
もう動けない。
くそったれ――


亜由美は勝利を確信した。


――やった。
わたしは、勝った。
生き残れる。
帰れる。
あは・・・・はは・・・・は・・・


正常な思考能力は残ってはいない。
亜由美に残っていたのは自衛本能のみだった。
顔が緩む。
口元から唾液がこぼれる。
はは・・・は・・・・・。
もう・・・・美少女どころか人間の顔にも見えなかった。


































亜由美は背後に気配を感じた。だれだ!?
ふりかえりざま亜由美の左腕に焼けるような痛み。
鋭利な刃物で切り裂かれたように縦に一筋赤い血がにじむ。
深くはない。
一瞬遅ければ致命傷だったがすばやく身を翻しかわしていた。


亜由美の目に飛び込んでいたのはカマを構える和彦の姿だった。


「おいたが過ぎるよ及川ぁ・・・・」


――今度は森かよ!


亜由美は痛みをこらえワルサーを構える。


―― 死ね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ぱんっ!ぱんっ!!






























一瞬、時間が止まった。






火を吹いたのはベレッタだった。
亜由美の背中に2つの弾痕・・・・。










崩れ落ちる体を支えることは、亜由美にはできなかった。
弾丸は肺と、心臓を確実に撃ちぬいている。
痛みのショックで意識は薄れていく。
自分が死ぬということも弾丸が当たったことも認識できなかった。


首は力なく空を仰ぐようにがくんとおちる。






亜由美が最後に見たのは

呆れるぐらい綺麗な・・・・・・・星空だった・・・・・・








































あたしが好きなのは、比呂くん












[残り30人]


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