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午前4:31。
丸木一裕は北の山間部を東へ移動する。
A-6にある地図に記された施設がなんであるかを確認するために。
施設が建物であった場合誰かいるだろうと踏んでいた。
極力、音を立てぬようにしなやかな身のこなしで森の中を移動する。
右手にはコルトガバメントMK4シリーズ80ブルーフィニッシュ。
45口径。
装弾数7+1。
先ほど沼田健次郎の頭をふっとばした銃だ。
45口径の割にはそれほど反動は大きくなく(その分、銃そのものが重い)、
一裕にとってはなんの苦もなかった。
――早くまた打ちたいな。
さっきの発砲の衝撃がたまらなく気持ちよく、その快感の虜になってしまっていた。
―― 早く誰かに会いたいな・・・。
0:00の放送では何人かの生徒が死んだことを教授は告げた。
合計7人。
少なくても一裕以外にヤル気になっている生徒がいることは容易に想像できた。
「急がないと・・・・僕のたのしみが少なくなっちゃう♪」
空はうっすらと青みを帯びていく。
少し木々の背が低い林の中に入ると、空が少しづつ明るくなっていくことに一裕は気づく。
その美しい壮大な自然のキャンバスにふっと足を止める。
そう言えばこのゲームが始まってこのかたずっと動き回り、少しばかり疲労がたまっている。
――この辺で一呼吸おいてもいいかな?
すこし奥まった茂みの中へ移動し、休憩を取るために座り込んだ。
空を見上げれば息を呑むほどの圧倒的なスケールで空の青みは増していく。
この空のしたではクラスメイト同士が殺し合っている。
この美しい夜明けの空にも気づかずに・・・・。
―― なんかかわいそうだね?僕達・・・・・。
その空の下。
一裕から約10メートル離れた距離に人影が見えた。
一裕は表情は変化させず、銃を握りなおし体制を整える。
口元がにっと緩む。
移動しているわけではない。
ただ立ち尽くし空を見つめている。
人影は女子。
少し開けた林の谷間で空を見上げ立っている姿は異様な光景だった。
一裕と同じようにぼーっと空でも眺めているのだろうか?
一裕はすっと立ちあがる。
まったくの無防備。
銃は正面から見えないように背中に回す。
ゆっくりと歩き出す。
人影は一裕に気づいたようだ。
しかし、動かない。
一裕の存在を確かめた後、視線はまた夜明けの空に注がれた。
その人影は女子10番船岡直子。
距離約3メートル。
「きれいな空だね?」
おおよそこの状況下では不釣合いなセリフを投げかける。
「そうね・・・。」
一裕は直子の返答に少し驚いた。
―― 僕のこと怖くないのかな?
「こんなところでなにしてるのかな?あぶないよ?誰かに殺されちゃうかも・・・・」
一裕は銃を再び握りなおす。人差し指を引き金にかける。
「空が・・・・・綺麗だから・・・・見てた・・・。」
直子は無表情に答えた。
視線はまだ空に貼りついてる。
「怖くないの・・・?僕が君を殺すかもしれないんだよ?」
期待通りの反応をしてくれない直子に対し意地悪く揺さぶりをかけた。
「そうね・・・・。そうかもしれないわね・・・。」
まるでそんな事はまったく問題ではないかのように、ただ平坦な声で答える。
「くく・・・・」
一裕は思わず吹き出してしまった。
「君は面白い子だね?」
「・・・・・・そうかしら・・・・・あなたほどじゃないわ・・・・」
視線を一裕の目線に合わせ答える。
直子はクラスではあまり目立たない女子だった。
いつも中国の古い詩集や、あまり中学生の読まないような難しい哲学書なんかを読んでいた。
和彦あたりが「なに読んでんだよ?」と話しかけても
黙って背表紙を見せるような愛想の悪い態度を取っていたが、不思議と同姓には人気があった。
普段はクラスのリーダー格の斉藤知子なんかといっしょに行動していた。
かなり大人びた言動や態度は、なにか神々しささえも感じさせていた。
「少し君と話しがたいな?いいかな?」
一裕はこの不思議な少女に興味を持ったのかそう、提案した。
「構わないけど?」
やはり表情は変わらない。
「こんなところじゃなんだし・・・。少し奥に移動しよう?」
直子はなにもいわず林の奥に入っていった。
まったく警戒していないのか、それとももう死を覚悟して死ぬ瞬間を待っているのか、
投げやりな態度のように一裕には見えた。
その後ろ姿を撃ってしまうのはひどくつまらない行為のように思えた。
一裕はコルトガバメントを内ポケットにしまった。
「たのしーおはなしできるといいな♪」
誰に向けたわけでもなく一裕はそうつぶやいた。
[残り29人]
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