「加代ォどうしよう?」
「し!声だすな・・・」
「う、うん、ごめん・・・」
未央はパニック状態に陥っていた。
加代子がレーダーの反応に気付いたその刹那、鳴り響く6発の銃声。
管理小屋の周りを動く人の気配。
死への恐怖が、奇跡の再会の余韻を完全に断ち切った。
「動かないで・・・」
加代子は未央にそう告げて、まだ見ぬ敵への警戒へ全神経を集中させた。
―― 動きはない。
じっとしてる・・・。
レーダーの反応も動いていない。
相手は誰だろう?
男子?女子?
銃を持っているの?
さっきのもうひとつの反応はどこかに消えている。
誰かに追われてた?
だとすると・・・敵意はない?
いや、それはわからない。
加代子はこの状況にしては、非常に冷静だった。
守るべきものがあることと、持ち前のクソ度胸が平常心を保たせていた。
―― さて・・・どうしよう?
向こうの武器は?
銃?刃物?
どちらにしても私たちの存在には気付いてるはず。
だとすると、なんでじっとしてるの?
もしかして、比較的冷静な状態なの?
それとも、武器がない?
・・・至近距離での攻撃しかできない武器?
どうしよう?
このままでは袋の鼠・・・こちらから動くしかない?
加代子は目配せで、ナイフをよこすように未央に伝えた。
ナイフを受け取り、レーダーを確認する。
動きはない。
反応はドアの反対側の壁に面している。
―― 相手が銃でなければ逃げ切れる?
いや、無理かも・・・。
あのフェンスを乗り越えるのに時間がかかる。
それにこっちは二人だし・・・。
ドン
緊張が走る。
――何の音?!
加代子が目にしたのは、机の下で小さな虫を必死に追い払おうとする未央の姿だった。
加代子はすばやく未央の足元を這う虫を踏み潰す。
未央は口を抑え、涙を浮かべている。
こんなときに未央のそばに虫が寄ってきたのは運が悪いとしか言いようがなかった。
この世で一番嫌いな虫を見て、悲鳴をあげなかっただけでも上出来だ。
加代子はすばやくレーダーで、壁の向こうのクラスメイトの動きを確認する。
―― 動きはない・・・。なぜ?
雄太の心臓は飛び出しそうになった。
思わず引き金を引きそうになったが、ギリギリでこらえた。
しかし、恐怖は加速度的に雄太を焦らせた。
足が震えて動けない。
―― なんだ? 今の音。
中にいるのは誰だ?
とにかく、相手が誰だか確認したい。
いや、確認したところでどうしようもない・・・。
相手がやる気でも、やる気じゃなくても生き残れるのは一人だけ・・・。
殺すしかない?
僕が生き残るためには・・・。
もしこれで岩崎が戻ってきたらどうする?
二人に狙われることになるの?
逃げないと・・・。
よ、よし。
逃げよう。
もう一度あのフェンスを越えよう。
さすがに目の前のフェンスは高すぎる。
よじのぼってる間に狙われたらアウト・・・。
一発で超えられるフェンスは正面の、あのフェンスしかない・・・。
いちかばちか・・・やるしかない・・・。
深く呼吸する。気持ちを落ち着ける。
震える足を押さえつける。
――い、いくぞ・・・。
「未央」
加代子は極力抑えた声で未央を呼ぶ。
未央は、恐る恐る机の下から出る。
加代子の手招きに従い、近づく。
加代子は未央に耳打ちした。
「逃げるよ?相手が誰だかわかんないけど・・・すぐに攻撃するつもりはなさそう・・・。
このままじゃどうしようもないから・・・
正面のフェンスだけ低いでしょ?あれを乗り越えて走るよ?」
未央は頷いた。
危険を伴うことは明白。
それでも・・・
――死ぬよりはまし。
殺されるよりはまし。
それにあたしには、加代がいる。
「未央が先に乗り越えて。わかった?いくよ?」
加代子はすっと立ち上がり、ドアを睨む。
未央も即座に動けるようディパックを担ぎ、もう一つを加代子に手渡す。
確認を促すように加代子は頷く。
未央も再度頷く。
手をつないだままドアへ向かい走り出した。
雄太が走り出すのと同時に。
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