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加代子は未央の手を引いたまま、すばやくドアノブをまわす。
一気に外へ駆け出す。
目の前に広がる朝の穏やかな風景。
少しだけ霧のようなもやがかかっている視界の先に、フェンス。
ぐるりと変電所を囲うフェンス。
正面入り口だけ、車の出入りや機材の搬入のために低く作られている。
短時間でここから脱出するには、あの低いフェンスを越えるほか方法はない。


「あのフェンスをこえて・・・とにかくこの危険な状況を脱する」


そのことだけに集中し、フェンスへ駆け寄る。
しかし、距離約3m手前で視界の端に人影を捉える。
息が詰まる。やはり誰かいた。
すばやく足を止める。
その人影もやはりこちらに気付き、立ち止まる。
距離約7m。
加代子の視界の端に飛び込んだ影は男子。
武士沢雄太。
手には銃。
怯えたような、驚いたような目で加代子と未央を見る。
すばやくポイントを加代子に合わせる。
恐怖。
雄太は、銃の安全装置のロックが外れていることを確認する。
未央は声にならない恐怖を必死に押し殺す。
最悪のタイミングでの鉢合わせ。
お互いがお互いを警戒する。


「相手はやる気か?」


出方を伺う。
沈黙。
加代子は冷静になることに全神経を集中する。
視線をなるべく動かさないように雄太を観察する。
雄太は震えていた。
小刻みに。
しかし、指は引き金にかかっている。
下手に動けば、錯乱状態の人間はいともたやすく引き金を引く。
加代子は、そう判断し動かない。
正解。
雄太は少しでも動けば即座に引き金を引くつもりだった。
未央はからだが硬直して動けない。
再び沈黙。


先に動くのは加代子。


「私たちはあなたを殺す気はない。」


簡潔に、はっきりとした口調で言い放つ。
銃口は加代子の頭をポイントし続ける。
加代子は雄太の答えを待つ。
20秒。
痺れをきらし、再び加代子が口を開く。


「私たちはこのゲームにのるつもりはない。逃がしてくれる?」


雄太は加代子の目を見つめたまま硬直。
20秒。
足を一歩、フェンスに向け進める。


「ま、まて・・・いや、待ってくれ・・・。」


雄太はやっとの思いで声を絞り出す。
加代子は足を止める。
未央は泣き出してしまうのを必死でこらえる。
ぎりぎりの状況。


「・・・なに?」


加代子はこの緊張感に耐え切れなかった。
そのままフェンスを乗り越え逃げだしたかった。
未央を置き去りにしてでもこの状況から解放されたかった。
逃げ出したい本能を、守りたいという理性で押し殺している。
30秒。
沈黙のあと、震える声で雄太は話しだす。


「こ、殺す気はない。ぼ、僕もゲームに乗る気はない。」


しかし、言葉と裏腹に銃口はなおも加代子を狙いつづける。
未央は押し黙り、加代子の対応を見守る。


「・・・ならその銃をしまってくれる?そして私たちを逃がしてくれる?」


雄太は銃口を下ろさない。
相手の武器がなんであるか確認しないままで、銃口を下ろすことはできない。
現に加代子の右手は背中の向こうに隠されている。
その手に銃が握られていれば、銃口を下ろした瞬間撃たれかねない。
不正解。
加代子の右手に握られているのは、ただの折りたたみ式ナイフ。
さらに殺意は全くない。
しかし、雄太の疑心は当たり前のように加代子を警戒する。


「だ、だめだ。銃口は下ろせない。逃げるなら・・先に逃げろ・・・。」


罠?背中を見せた瞬間撃つ気?
加代子は信用できなかった。雄太の言葉を鵜呑みにすることはできなかった。
睨み合いは続く。
40秒。
たまらず未央が口を開く。


「ぶっしー・・・」


武士沢雄太の愛称を押し殺すように呟く。
雄太はびくっと肩を震わせポイントを未央に移す。


「やめよ・・・?ね?あたしたちクラスメイトだったじゃんかぁ・・・。」


雄太はその言葉を聞いても警戒を解かなかった。
自分が殺される恐怖、誰かを殺めてしまう恐怖。
その二つに挟まれ、もがき苦しんでいた。
3人は一歩も動けないまま、ただ時が過ぎ去っていく。

 

 

 



PM6:02。
変電所の隣のエリア。B−7。
岩崎美穂すでに20分以上、拳銃を突きつけられたままだった。
美穂は変電所で、マガジンの中身を全部撃ち切った。
そして予備のマガジンを取りにこのB−7エリアに戻ってきたのだ。
しかし、マガジンはあるべき場所にはなく、代わりに拳銃を突きつけられた。






丸木一裕に





[残り28人]


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