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雄太は引き金を引いた。
直接的なきっかけは銃声。
誰かが、誰かを死に至らしめた不吉な音。
空気を震わせ、雄太の鼓膜を揺らした。
間接的なきっかけは定時放送。
一人、一人、告げられたクラスメイトたちの死。
彼の気持ちを焦らせ、疑心を膨らませ、緊張を高めた。
情報の副産物。
疑心をあおる最良の活性剤。
その薬を全身にあびた気の弱い少年は、殺人鬼へ奇跡的な変貌を果たした。
今、雄太のUZIピストルは小さな薬莢を吐き出しながら、
ぱぱぱという火薬の破裂する音とともに刻みに揺れている。
衝撃は彼の腕を伝い、全身を揺らす。
まるで奇妙なダンスを踊るように。
パートナーは未央。
赤い血しぶきが彼女のダンスに花を添える。
悲鳴なんか聞こえなかった。
耳に響くのは、火薬が弾丸を弾く音だけ。
25回目の破裂音のあと、未央のダンスは突然終わりを迎える。
まるで、操り人形の糸が切れるようにぐにゃりと地に伏せる。
――なんだか夢をみてるみたい。
雄太の頭にはそんな言葉が広がっていく。
加代子は手を口に当て、死のダンスを終えた未央の体を見つめる。
すでに、未央ではないタンパク質の塊を。
雄太は空のマガジンを排出する。
まだ若干の熱を帯びている、暖かなマガジン。
左手はディパックの中をまさぐる。
手に触れる金属の感触。
するりと取り出し、UZIピストルに装填する。
――がちゃって音が気持ちいい。
加代子は右手に握るナイフを空にかざす。
肩にかかった髪を揺らし、雄太の左胸をめがけナイフを振り下ろした。
雄太の引き金を引く動作が一瞬遅ければ、加代子のナイフは雄太の心臓を貫いていただろう。
もう一度はじまるダンスタイム。
今度のパートナーは加代子。
UZIピストルはでたらめな動きで銃口の向きを変える。
ぱぱぱ
加代子の耳に届いたのは、いや、加代子の耳が脳に伝えたのは13回目の破裂音までだった。
右手も左手も肩も首もでたらめな方向には跳ね上がる。
UZIピストルの銃口から輝く、マズルフラッシュが眩しかった。
25発、0.9秒の短いダンスを終え加代子も地に伏せた。
未央とは異なり、前のめりに。
雄太が我にかえることはもうなかった。
殺人への抵抗は、合計50の破裂音がかき消していた。
―― なんだ・・・簡単じゃん。
少しだけ、少しだけ力を入れればよかったんだ・・・。
全身を伝わった小刻みな衝撃の余韻を感じながら、雄太は空を見た。
真っ青に晴れ渡る空を見つめ、今日は暑くなるかな?と思った。
もう二度と彼の頭のネジは見つかることはないだろう。
理性をつなぎとめていた小さなネジは。
再び視線を落とし、二つのタンパク質の塊を確認する。
―― 僕は・・・怖がることなんかなかったんだ・・・。
僕は、力を閉じ込めてだけなんだ。
簡単・・・。
死にたくなければ、殺せばいいんだ。
簡単・・・。
誰かを殺すなんて・・・難しく考えちゃダメなんだ。
これでいいんだ・・・。
どうせ・・・みんなやってるんだもん・・・。
簡単・・・。
雄太の頬を伝う液体が、涙と呼べるものならば
この時、雄太は泣いていた。
未央と加代子に向けたものなのか、
それとも・・・
[残り25人]
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