-51-


千成比呂が勢い良く部屋を飛び出していく。
窓のない血の匂いのする部屋を。
突然聞こえた、銃声。
その音で確信した。
このゲームは始まってる。













柳原広志(男子20番)は、手のひらに浮かび上がるぬめり気のある汗を感じながら震えた。
窓のない部屋。
ちらつく、玉が切れかけた蛍光灯。
プログラムの説明。
張り出される地図。
呼ばれるクラスメイトの名。
撃ち殺された山崎冴子。
肩を打ち抜かれた高梨英典。
血の匂い。
質問。
怯える松島弘。
なぜかいつもと変わらない丸木一裕。
涙を流す斉藤知子。
担当官の答え。
張り詰める緊張。
出発していくクラスメイト。
手渡される武器。
聞こえた銃声。
飛び出す千成比呂。 

それが、柳原広志が見たもの全てだった。





























怖い。






























生まれて初めて感じる、死への恐怖。
平和な生活の中で、一度として感じたことなのない強烈な圧迫感。
15歳の中学生達の心を掌握するための条件。
それが、このプログラムには全て揃っていた。
疑心を煽り、防衛本能だけを際立たせる。
タガを外すには余りある演出。
見せしめのためか、撃ち殺されたクラスメイト。
それほど仲が良いわけでなくても、曲がりなりにも同じ教室で机を並べ学んだ友達。
血の匂いが広志の胃を圧迫した。
甘酸っぱい液体が喉の手前まで押し寄せる。


































怖い。
































その感情だけが、恐怖だけが広志の頭の中ではっきりとした形をみせる。
友達に殺される恐怖。
死への恐怖。
痛みへの恐怖。
グロテスクな感情が渦を巻く。
呼吸が荒い。
視界がぼやける。
何も考えられない。















「20番――柳原広志。」













遠くで自分の名前が聞こえた。
鼓膜を震わす空気の振動。
広志は呼ばれた事に気付かない。
ただ、自分の名前が聞こえた事だけを認識した。















「柳原広志。あなたの順番だ。早く立ちなさい。」















俺の順番?
何の順番?
立つ?
俺は座っているのか?
なぜ立つ?
どうして俺の順番だから立つ?


















「柳原。やる気がないなら射殺します。」

















射殺――――
―――殺される?
















広志は深い混沌から飛び上がるように意識を覚醒させる。
我に返りもう一度教室を見渡した。
心配そうに見つめるクラスメイトたちの顔。
その視界の端に銃を構える兵士の姿が見えた。
視線を向ける。
その引き金には指がかかっていた。
即座に立ち上がる。
緊張が張り詰めている。
額に浮かび上がる汗を拭う。
脅しではない。

本当に撃たれる









危なかった。










広志は殺される寸前で現実に意識を引き戻す事に成功する。
困惑が時間を引き延ばし、まるで夢の中にいたような錯覚を起こしていた。










「はい・・・。」
広志はそう、小さな声で返事をする。
蚊の泣くような声だが、完全に萎縮した広志にしてみれば上出来だった。














そうだ、プログラムだ。
俺は、俺のクラスは、プログラムに選ばれた。
出発の順番が俺に回ってきた。
兵士に渡されるディパックを受け取り、この部屋を出発しなきゃならない。
ゲームは始まっている。
さっき銃声が聞こえた。
誰かが、殺されたかもしれない。
息苦しい。
びびってる。
うまく歩けるか。
大丈夫だ。
歩ける。
自分のバッグも持っていかないと。
役に立つかはわかんねぇけど。
あぁ、なんか重い。
こんなに重かったけな?
慶――
そうだ、あいつは―――
いた。
冷静な顔してんな。
さすが。
びびってないのか?
ああ、でも唇ふるえてんじゃん。
一緒だ。
俺もびびってる。
ちびりそうだよ。

ジェスチャーゲーム?
なんの真似だ?
なんかのまじないか?
え?




井上慶(男子3番)は右手の指を三本立てて広志にみせた。
その後ゆっくりもう二本、指を立てる。
五本。
それを二回、くりかえした。




慶?
どういう意味だ?
3・・・と5?
頭おかしくなったか?
あ―――




広志は、背中に何かを押し付けられたことに気付く。
サブマシンガン。
兵士が言う。
「早くしろ。」
広志は目を見開き何度も頷いた。
無意識に両手を上げていた。




かっこわりぃ。
みんなみてたよな?
びびってんのばればれ。
でもしょうがねーよ。
ちびってないだけましだ。
めちゃめちゃ怖い。
死にたくねーよ。
痛ぇのいやだよ。






広志は自分のバッグを肩に担ぎ、ゆっくりと教授の元へ向かった。
ゆっくりとしか歩けなかった。
足は若干震えている。
雲の上を歩く、というのを広志ははじめて実感していた。






すげーな。
千成。
この状況で走ったよ。
びびってねーのかな?
森とか。
あの二人はびびらなそうだな。
あいつら特別だ。
頭おかしいよ。
きっと。






ぼんやりとそんな事を考えながらゆっくりと足を引きずるように進む。
ふと、顔を上げると教授の無表情な顔が見えた。
目の前までいけば無言で手渡されるディパック。
緑色で所々どす黒い染みがついている、薄汚いバッグ。
血の染みのように見える。
よれよれではあったが、しっかりとしたつくりなのは見ただけでも直ぐにわかった。
見た目より重さがあった。
無言で受け取り、それも肩に担ぐ。
右手に開かれたドアが見えた。







あそこから外に出んのか?
こえぇよ。
泣いたら許してくんね―かな?
無理だろうな。
次こそ殺されちまう。
もういやだ。
帰りてぇ。
あのドアでたらみんあ殺し合いやってんのかな?
俺のことも殺すかな?
こぇぇ。
あぁ、でも女子に殺されたらかっこわりいな。
あと、松島とか。
なるべく強そうな奴に殺されねぇと。
って、死ぬのいやだよ。







ゆっくりと歩を進める。
歩を進めるしかなった。
ドアを目指し。
殺し合いに向かうために。
最後にもう一度振り返る、クラスメイトの顔をもう一度見たかった。
仲の良かった、3−3のみんなの顔を。






































しかし、広志と目を合わせたのは井上慶ただ一人だった。






[残り36人]

 

[image]
[impression]
←back index next→

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル