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月の灯りを鈍く反射させる、グロック19の銃身は慶に狙いを定めている。
しかし、圭介はすぐに引き金を引こうとは思ってはいないだろう。
その証拠に、銃を持つ手はだらりとのばされ腰のあたりから銃口だけが慶に向いていた。
圭介の顔はへらへらとしたどこか不透明な笑顔だ。
力の誇示。
それがグロック19の銃口。
精神的優位。
それが笑顔の理由。
それに反して慶の表情はこわばっている。

緊張の糸がぴぃんという音をたてた。
広志は口を半開きにしたまま、圭介の顔を眺めた。


余裕。

一言でいうとそういうものが浮かび上がっていた。
しかし、それは”仲間に会えたから”といったような親密な輝きはなく、牽制の銃口をたてに力関係的な優位を確信しているように見えた。



慶はこのとき二つの選択肢が頭を駆け巡る。

1:すばやく右手に握るボウガンの引き金を引く。
2:抵抗しない。

1に関していえばそれは有効な戦術だったかもしれない。
圭介は銃に扱いに慣れている様子は全くなかった。
圭介の手に握られているグロックは居心地が悪そうにその手に治まっている。
オートのピストルとはいえこの距離なら当たるはずはない。
もし、銃を構えられれば右か左にとび、ボウガンの引き金を引く。
矢は一本だけ装填されている。
自分の命を守るためだけなら最善の方法だった。

問題は一つ。

広志と裕也に対しての自分の信用が失われる事。


その結果が”首輪はずし”に大きく影響・・・というより”首輪はずし”そのものを台無しにすることは、文字通り火を見るよりも明らかだった。

慶は次の選択肢、”2:抵抗しない”について考える。

圭介は好戦的とは言い難かった。
銃口を向け力を誇示しているものの、それはこちらの出方を伺っているようにも見えた。
疑心というハードルがあるものの、協力を仰ぐ事が不可能ではない。
圭介の笑みは時間がたつほどに引きつり始めていた。
選択の猶予はもうそれほど長くはないだろう。
緊張の糸がテンションに耐え切れず、切れてしまえば選択する余地はない。
1を実行する他ない。
そこで、もう一つの選択肢が生まれる。

3:圭介を説得し、仲間に引き込む。

成功すれば得られる結果はこの3つの中でもベストだろう。

問題は・・・圭介の気持ちだ。

大塚圭介。
サッカー部補欠。
一言でいうと中途半端な男。
容姿は悪くないが、良いとも言い難い。
身長も標準。
サッカーの腕は・・・補欠ということからもおわかりいただけるだろう。
どちらかといえばお調子ものの部類にはいるが、その人気も中途半端。
成績は中の下。
得意なものをみつけられない、哀れな男。
女好きながら、モテない。
先月、クラスの上村未央に思いのたけをぶつけるも即答でNO。
要するに凡庸で、どこにでもいる冴えない男。

そんな圭介が恐らく生まれて初めてであろう、グロックという名のチカラを手に入れた。

無法地帯。
チカラのあるものだけが生き残る。

圭介が”人殺しなどしたくない、殺し合いなどしたくない”と思っていれば説得は簡単。
”脱出”というキーワードで間違いなく食いついてくるはずだ。
そう、慶は確信している。
しかし、チカラを手に入れたことで生まれる征服欲が圭介の中で大きくなっているならば・・・。
圭介は裕也から銃を奪ったのだと、慶は予想していた。
裕也は圭介の2mうしろで、尻餅をついたまま事の成り行きをぼぉっとみつめている。
そこには揉み合いがあったような”痕跡”ともいえる雰囲気が残っている。
裕也の意に反してグロックは大塚圭介の手に握られているのだろう。

「な、なぁ・・・。ちょっとその物騒な銃を下ろせよ。」
ふいに広志が口を開く。
圭介は広志をグロックのその照準にあわせる。
広志は額にしっとりと汗を浮かばせていた。
緊迫したこの空間が動き出した。
「慶も・・・ボウガンを捨ててさ・・・はなしあおうぜ・・・?な?」
広志は少し苛立っているように見えた。

慶はその提案を考慮しながら、圭介の様子を伺う。
圭介はじっと慶を見つめていた。
その顔から、にやにやとした曖昧な余裕を漂わせる笑みは消えている。
崩れた均衡に警戒した気持ちを走らせていた。

慶は迷う。

もしボウガンを降ろしてしまえば自分の命さえ怪しくなってしまうだろう。
そして、それは圭介も同様のようだった。

動かない二人に対して苛立ちをあわらにし、広志は訴えかける。
「おい、俺たちクラスメイトだろ?チームメイトだろ?協力しあってきただろ?」
圭介も慶も、お互いの目から視線をはずさない。
それでも広志の言葉は確実に届いている。

「圭介。俺たち首輪はずすんだ。首輪はずしてこのプログラムから逃げるんだ。」
圭介の眉がくっとあがる。
反応アリ。
慶は気持ちのなかでニヤリとした。

「俺たちガソリンを探しに行ってたんだ。
ほら、そこに発電機あるだろ?
電動工具が使えないと首輪外せないんだ。
・・・で、その発電機にはもうガソリンが入ってないんだ。
だから、今は外せないけど・・・
ガソリンを見つければ首輪、外せるんだ。」

広志の必死の訴えに、圭介の警戒が解かれていくのが手に取るように慶にはわかった。

そして、事の成り行きを広志に託すことに決める。




バカトハサミハツカイヨウ・・・




[残り34人]










 

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