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プログラム(ぷろぐらむ)[名詞]
1・出し物の名前と順序を書いたもの
(中略)
4・わが国専守防衛陸軍が防衛上の必要から行っている戦闘シュミレーション。
正式名称は戦闘実験第六十八番プログラム。1947年第一回。
毎年、全国の中学校から任意に三年生の50学級(49年以前は47学級)を選んで実施、各種の統計を重ねている。実験そのものは単純で、各学級内で互いに生徒を戦わせ、最後の一人になるまで続けて、その所要時間などを調べる。各学級の最終生存者(優勝者)には生涯の生活保障と総統陛下直筆の色紙が与えられる。
坂本教授は静かに説明した。恐らくは説明なんて必要なかった。大方の中学生がそうであるように、プログラムの内容も、その残虐なゲーム性も、そして今年自分達が対象になる中学3年生になったと言うこともわかっていた。少し前、3年くらい前に起きた、「プログラム担当教諭殺害事件」が各メディアで話題になり、同時にプログラムの内容も広く国民に知られるようになったのだ。比呂もその事件の事は良く覚えてた。
事件の内容はこうだ。香川県沖木島で行われていた城岩中学3年B組のプログラムでの事件。その担当教諭が(確か、サカモトキンパツとか言う名前だったかな?)プログラム終了後の船内で何物かに殺害。(首に鉛筆?が刺さっていたらしい…)同船内にいた、城岩中学3−B 川田章吾、専守防衛軍兵士十数名も射殺されていた。毒ガス(共和国圧勝2号)がまかれた島内に、警察が上陸できたのは死体発見から2日後、しかし、その島内にいるはず(死体でね)の生徒二人が行方不明、何らかの方法で島を脱出したと予想されサカモトキンパツ教諭殺害の重要参考人として指名手配された。捕まったという話は聞いてないから、恐らくは生き延びているのだろう。
名前は確か−・・・・七原秋也と中川典子だったかな・・・・・。
「逃げようと思えば逃げれるのか・・・プログラムって」と比呂は思った。興味が沸いてきた比呂はプログラムについて調べてみた。もちろん容易なことではなかったが、比呂の父親のサバイバルゲームチーム”RIOT"(ライオット−暴動)には反政府側の人間ばかりだし、中にはマスメディアで相当の権力を持つものもいたので、彼らの協力を得て相当正確にプログラムの内容を把握することができた。すぐにわかった。逃げるなんてとんでもなない。完璧な警備システムのなか逃走することは限りなく、本当に限りなくゼロに近かった。
あの二人がどうやってこのプログラムから逃げおおせたのか、とても見当がつかなかった。
まぁ、ほかの生徒たちがそこまでの情報を知っているとは思わないが。
「反則はありません。何をしても結構です。」
坂本教授は淡々と続けた。
「会場になるのは、わが大東亜共和国専守防衛陸軍富士演習場です。」
ばっとホワイトボードには地図が広げられた。
「えー、このようにもちろん演習場のすべてではありません。富士演習場の一部、約4分の1を金網で囲っています。赤いしるしが、今あなた方のいる作戦本部です。薄い緑はほぼ平らな平地、少し緑はちょっとした林やゆるい斜面です。濃い緑はかなり傾斜の強い山間部です。」坂本教授は続けた。「赤い線で囲っているのはエリアです。このエリアはランダムにコンピューターが危険エリアを選びそのエリアへに出入りを規制します。もし入ると・・・」
比呂は自分の首に手を当てた。ひんやりとした感覚。鉄の首輪が比呂の首に巻き付いている。比呂は知っていた、この首輪が警備システムだということを。このプログラム、実に40人近くの生徒たちの殺し合いを完全に制御する、この首輪があってはじめてプログラムは実行できるのだ。
「そう!いい勘してるね。千成君。」坂本教授は比呂を指差し、そう言った。
「そうです、みんなの首には首輪がついてます。」坂本教授は少しノって来た。
みんないっせいに首に手を当てる、悲鳴こそ上げなかったが(あげたらまた乱射だ)緊張感が部屋中を走る。
和彦もまたちいさく舌打ちをした。
「この首輪が爆発します。」
今度は小さくだが悲鳴が聞こえた。兵士が引き金に指をかけた。しかしその時にはもう誰も声を発していなかった。くそっ自由に悲鳴も上げられない!
「たとえばもうすぐ皆さんにはこの本部を出発してもらうんですが、全員が出発した5分後にはこの、F-6は禁止エリアに入ります。そうしますと皆さんはこの本部に戻ってくることはできません。もちろん、そのままに留まっていても同じです。このエリア内にあるすべての首輪は時間がくればすべて爆発します。」坂本教授はまるで、人気のない講義のように自分のペースで淡々と続けた。
「さて、この禁止エリアはだいたい2時間にひとつずつ増やしていきます。増えた禁止エリアは放送で伝えます。
午前、午後の12時と6時に演習場内のスピーカーを通し禁止エリアとそれまでに死んだ人の名前を放送します。それを参考に作戦などを立ててください。では、これまでで質問などありますか?」
坂本教授はゆっくりと部屋を見渡していた。
誰も口を開かなかった。
[残り36人]
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