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どれくらい時間がたっただろう。
0時の放送を聞いてから―――



俺はそう考えながら、3人の顔を見比べてみる。
慶は、相変わらずに口を真一文字にして膝に頬杖をついて宙を見つめている。
なにかを考えている、すごく重要な事を、そんな感じだった。
時折、視線を右や左にそらす。
迷い、みたいなものも感じ取れた。
どちらにせよ、声をかける雰囲気ではない。



視線を奥に向ければ、すこしすねたような顔で裕也がうつむいている。
何も言わなかったけれど、圭介を仲間に入れたことを快く思っていないようだった。
無理もない。
あの時、圭介は裕也から銃を奪い取ったのだろうから。
ちょっとした揉み合いになって、自分の死を、圭介の殺意を感じたのかもしれない。
そして、それを俺と慶は無視する形で圭介を説得した。
裕也にしてみればあまり気分のいいことじゃないだろうと思う。
いや、あまりなんてもんじゃないだろうと。
”誰も怪我せずに済んだ”
それでも、裕也は納得ができないのだろう。
いつもよりも子供っぽい仕草で、反抗の意思を少しだけ外に向けているように見えた。

わるいな、裕也。
生き残るためだ。
結果オーライなら、文句ないだろ?

そう、ココロの中で裕也に声をかけた。



さらに視線を奥に向ける。
居心地が悪そうに、どんな表情をしたらいいのか?
といった、曖昧な、堅くこわばった表情で、圭介はオイル缶の上に腰をかけている。
そう、今の俺と同じように。
自分の居場所を確認するように、周囲を何度も見渡していた。
一度、目があう。
やはり曖昧な笑みを浮かべ視線を外した。
正直なところ、圭介を100%信用したわけじゃない。
チームメイトとはいえ、ずっときつい練習に耐えてきたとはいえ、知らない部分もたくさんある。
恐らくは知ってる部分より多く。



3人の様子を見比べながら、自分の精神状態がひどく安定している事に気付く。
さっきまでの俺とは別人のように。
でもそれは、余裕があるからといったわけじゃなさそうだった。
どこかに設置されたスピーカーから、読み上げられた7人のクラスメイトの名前。
絶望感がつれてきた脱力感。
きっとそれが、意識だけをクリアにしているのかも知れない。



女子が二人。



松本朋美。
いつも笑顔で、いつも小出と一緒にいた。
千成なんかと仲良かったな。
いい子だった。
クラスの違うチームメイトの何人かは松本に恋をしてたような気がする。



及川亜由美。
美少女。
結構、男好きで人気のある男子に片っ端から色目を使ってた。
あんまりスキじゃなかった。
かわいいとは思ってたけど。



男子は5人。



高橋光也。
ほとんど口利いたことなんかないけど、嫌なやつじゃないのはわかってた。
控えめだけど、ときどきおもしろいことをいう。
”愛嬌のあるヤツ”ってのが高橋を紹介するときに一番適当な表現だろう。



大伴隆弘
こいつとも口を利いたことなんか数えるくらいしかない。
親父かなんかがレストラン系の雑誌の編集長で、わりに金持ちだった。
最新のゲームなんかは大抵持ってた。
借りたことはなかったけど、裕也はたまに借りてたみたいだな。



沼田健次郎。
見た目、ワイルド。性格、乙女。
唄がうまい以外は、胸毛があるくらいが自慢できるもの。
ルックスは悪くない。
下級生にも人気はあったみたいだな。
俺は頼まれても嫌だけど。
島村となぜか仲良かったな。



斉藤信行。
通称クマさん。
クマみたいにデブ。
泣くと強くなるタイプの典型的いじめられっこ。
3年になって、ぱったり誰もいじめなくなった。
結局、いじめてたやつ・・・
高梨とか、佐藤とかが森にシメられるのをびびってただけだろうけど。



高梨英典。
こずるいヤツ。
たいしてケンカも強くないのにいじめだけは上手かった。
陰湿な、冷たい笑い方をする、イヤナヤロウ。



全員分の記憶を麻痺した頭から引っ張り出せば、
”仲良しクラス3−3”
なんてとても言えないようなことしか思い浮かばなかった。



ただ、問題という問題が表に浮かび上がらなかっただけで、表面だけのお付き合いだった。
そんなふうに思えた。

 



信用・・・そんなものこのクラスじゃ眉唾だ。

 




「そろそろ行くか?」

慶が不意に口を開く。
俺は頭のなかで思い返す、3組の教室の風景をどこかに押しやりながら頷いた。




[残り34人]










 

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