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「段取りは?」
広志が自分のゴムハンマーを懐に突っ込みながら、顔を向けずにそう訊ねた。
格納庫は出発の準備のために、慌しくなる。
圭介は自分の支給武器、伸縮性のある金属の警棒、
いわゆる”特殊警棒”を何度も出し入れしながら、点検する。
ジャキン、ジャキンという重い金属の音が格納庫内の緊張を高めていく。
広志はすばやく身支度を終え、右肩にディパックを担ぐ。
慶も手早く荷物をまとめ、右手にボウガン、左手にディパックを掴み立ち上がる。
そして、広志の質問に答える。
「2人組で行動する事も考えたが、武器が貧弱だ。ちょっと危ないけど、4人で行動する。」
裕也は露骨に嫌な顔をする。
しかし、その意思表示は誰にも気付かれる事はなかった。
慶は、続ける。
「とりあえず、地図上のG−3に向かう。
ここにいきなり軽油があればいいんだが・・・とりあえずだ。」
「ここに何があるんだ?」
間髪いれずに広志は尋ねた。
「わからない。いってみなきゃな。」
慶は溜息混じりに、そう答えた。
「誰かに・・・会ったらどうするんだ?」
圭介がおずおずと口を開く。
その声を聞き、広志と慶は同じタイミングで振り返った。
広志は慶の顔を見る。
どんな反応をするのか、正直、見当がつかなかった。
無表情な目で宙を見つめ、意を決したように口を開く。
「撃つ。」
慶の短く、冷たい言葉を聞き、広志は慌てて口を挟む。
「ちょ、ちょっと待てよ!撃つって・・・。いきなりかよ?」
慶は冷静な、いや、平坦な声で答える。
「あぁ。話合ったとして、これ以上人数を増やすとどうしても意思の疎通が図りづらい。」
「だからって撃たなくてもいいだろ?」
「相手に敵意がなければな・・・。」
「・・・。」
「向こうが警戒なり、コチラに敵意を見せれば撃つ。」
「で、でも・・・」
広志がそう言いかけるのを慶が遮る。
「やらなきゃ、やられる。それがルールだろ?」
広志は口をつぐみ、視線を落とす。
慶の冷徹なその意見に戸惑いを隠せなかった。
「もちろん、時と場合による。話し合える状況で、信用できる奴ならナ。
絶対に全員を撃つって訳じゃない。基本方針だ。」
何も言えなかった。
ここでそれについて討論をしたところで、らちが開かない事は明白だった。
慶はしっかりとした口調ではっきりと自分の意見を言う。
そしてその意見は提案ではなく、既に決定された事項だ。
例え異論を唱えたところで、お互いの信頼関係そのものを壊しかねない。
既に、空気としてはあまり良いとはいえない方向へ流れていっている。
そしてそれは、4人の信頼を粉々にしてしまう危機感を含んでいた。
「最低限、俺たちだけでも首輪を外すんだ。」
そう慶は言い切り、すたすたとドアへ向かい、歩き出した。
その背中を見つめながら、小さな不安が広志の胸のなかで小さく産声を上げていた。
[残り34人]
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