-72-






広志は自分の見たものを整理する。
逃げるように茂みに隠れようとする、由布子。
それを追うかのように、髪を振り乱しソコに現れた斉藤知子。
右手にはナイフ、左手には拳銃。

目の前で始まる戦闘を予感した。
慶は、硬直したように固まる広志に近づく。

「どうした?」
「谷津だ。・・・谷津由布子だ。」
「かまってる暇はない。」
「斉藤知子が追っている。」
「何?」

慶は広志の視線を追う。
息を荒げ、周りを見渡す斉藤知子が見えた。
リーダーシップを振りかざし、クラスをまとめる仕切り屋。
成績優秀、明朗活発。
間違いなく、このクラスで、
このゲームに乗らないであろう人物のトップに名前をあげるだろう。

しかし、その両手には殺戮の道具を握っている。
状況からみれば、谷津を追い、殺すであろうことは明らかだった。
このゲームでは常識は通じない。
それは慶の持論だった。
どんなイイコチャンでも自分の命はかわいい。
人は簡単に裏切る。
保身という名の大義名分がある限り。

慶は広志の腕を掴む。
もういくぞ?と唇だけで伝える。

一体どうしたことかと、不安げな表情で、裕也も圭介も二人の様子を見つめていた。

広志は留まろうとする。
慶はもう一度小さな声で告げる。
「助けよう――なんて考えてんのか?」
広志は何も答えずに状況を見つめている。
「状況を考えろ。するべき事が他にある。」
広志は答えない。
「死んだら、そこまでだ。おまえはチームの一員なんだ。勝手は許さない。」

目の前に広がる光景は変化を見せない。
知子はゆっくりと辺りを見回しながらゆっくりと歩を進める。

広志はやっと口を開く。

「見てみぬふりをしろって言うのか?」
「そうだ。」
「クラスメイトなんだぜ?」
「そうだ。」
「じゃぁ・・・」
「これはプログラムだ。」
「だからって――」
「今、おまえが出てって何が出来る?」
「・・・。」
「いくぞ。」

慶は短くそういい捨てながら、二人に進めと、先を指差す。
広志は唇を噛み締めながらボウガンを持ち替えた。

しかし、状況は変化する。

由布子が恐怖に耐え切れずに茂みを飛び出したのだ。
突如動き出す由布子に、知子はポイントを合わせ、ナイフを振りかざし追う。
由布子は木の根につまづき、転ぶ。
知子はすばやく距離を縮める。
恐怖に歪む、由布子の顔。

広志は汗が噴出すのを感じていた。

「広志――まさか・・・。」

広志はボウガンを抱えたまま飛び出した。

由布子に対する罪悪感がいま、吹き上がったのだ。
出来る事があった、それを気づかないフリをした。
言い訳を用意して、見てみぬフリをした。
そして今、目の前で殺されようとしている。
再び気づかないフリをしようとした。
我慢ならなかった。
自分に。

後悔していた。
何か出来たはずだと、ずっと気持ちの奥で後悔していた。
顔を見るのがつらかった。
何度か声をかけてみた、それでも何も言わずにうつむくだけだった。
あんなふうにしたのは、自分だと、責めた。
自意識過剰だと慶に笑われた。
それでも、何か出来たはずだと、後悔しつづけていた。

死ぬ。

でも、後悔しつづけるのはもっと怖い。
助かったとしても、俺は誰かを殺したのと変わりはない。
見殺し。
立派な人殺しだ。

孤立していったのを見て見ぬフリをしただけで、これだけキツいんだ。
もし、これを見て見ぬフリをすれば・・・死ぬほど後悔する。

エゴイズム。
広志のソレは単なるエゴイズムだった。
罪悪感と過剰な自意識が彼を飛び出させた。

林をすり抜け、月の明かりが差し込む平地に踊り出る。
すばやくボウガンの照準を合わせる。
呼吸がしづらい。
そう感じながら知子をにらみつける。

突如飛び出してきた、広志を見、知子は舌打ちをひとつ。
由布子に合わせたポイントを広志に合わせなおす。

慶は行ってしまった広志を見つめたまま硬直する。
どうするべきか?―――
裕也も、圭介も呆然と広志を見詰めていた。

加勢するならば、確実に知子を仕留める。
谷津を仲間にするのは得策ではない。
広志を回収して再び作戦に移る。
問題点は二つ。

確実に知子を仕留める事が出来るか?
もうひとつは由布子が危害を加えない保証はない。
という事だった。
メリットは少ない。

広志を見捨て、作戦を遂行する。
問題点はやはり二つ。
重要な戦力を一人失う。ボウガンと一緒に。
そして、生き残ったのが知子だった場合、自分達の危険は高まる。
既にこの状態でも相当な危険を強いられている。

慶は迷った。
広志を失ったとしても、作戦は遂行できる。
困難になったとしても。
飛び出せば、自らの命も危ない、
しかしうまくいけば作戦遂行は今までどおりに進む。

裕也と圭介は事の次第を理解する。
広志が正義感を振りかざし勝手な行動に出たと、理解した。
慶の頭脳が音を立ててフル回転する。

広志と知子の睨み合いは続いていた。












[残り33人]

 

[image]
[impression]
←back index next→

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル