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「井上・・・慎重にな? 慎重に・・・」
圭介は震える首筋を慶に預け、念仏のようにそう繰り返す。

説得に3時間かかった。

放置されていたジープは幸いディーゼルエンジンだった。
当然、燃料は軽油。
状態が不安だったが、発電機のセルモーターは機嫌よく立ち上がる。
電源の確保。
ディパックに詰め込んだ、あらゆる工具を埃の積もった机にぶちまける。
持ってきたサンダーの調子は良好。
準備は完了。


そして、再び持ち上がる問題。
誰の首輪で”首輪はずし”を決行するのか。

首輪はずしが成功する保証はどこにも無い。
誤爆のリスクは飛躍的に飛び上がる。
喜んで名乗り出る者はきっと自殺志願者だけだろう。

圭介も裕也も、その問題に直面した瞬間に口をつぐむ。
慶は溜息をひとつ。

「ひ、広志を待てばいいじゃないか。ここの場所はわかっているんだろ?」
と圭介。


しばらくの無言の後、慶が答える。
「冷静に考えろ。広志が無事でいる保証はどこにも無い。仮に、無事だとして―――
ここに辿り着くのはいつだ? 時間の余裕は一秒だってないんだ。」


圭介はその答えを聞き、うつむく。


ふ、と裕也を指差し圭介は言う。
「どうして俺なんだよ、裕也だっているだろうがっ」

慶は無表情のまま裕也に問い掛ける。
「だってさ?・・・おまえの首輪でやるか?」

裕也はただ、黙って首を振る。

ほらな? と呆れた表情で顔を圭介に向けながら、慶は言う。
「お前しかいないみたいだな。」


「なっ・・・―――汚ェな・・・」
圭介は絶句した。




「なぁ、大丈夫だよ。無理はしない。外す事が不可能ならすぐに別の手段を考る。」

「別の手段? 他にあるのか? 脱出の方法が?」

「わからないよ。ただ、次を考える前に、今ある能性を試したいんだ。」

「・・・。」

「首輪はずしを試さないと次にはいけない。」

「・・・。」

「もし、お前に出来るのなら俺は黙って自分の首を差し出すよ。でも、出来ないだろ? 圭介は。」

「・・・。」

「裕也はあんな調子だ。びびって暴れられでもしたらうまくいくものもうまくいかない。」
「・・・。」


「お前はスーパーサブなんだろ? そう、監督に言われただろ?」

「・・・。で、でも・・・。」

「広志はいない。お前が広志の代わりにピッチに出ないと。今がその時じゃないのか?」

「サッカーとは違うだろ・・・。」

「一緒だよ。俺は圭介がサッカー部だからサインを出したんだ。クラスメイトは信用できなかった。サッカー部以外のやつは信用できなかったんだ。」

「・・・。」

「お前しかいないんだよ。」

「・・・。」





こんなやり取りを何十回も繰り返す。
そして3時間が経過する午後6時を回ったころ―――
放送が聞こえた。

一人一人読み上げられる、クラスメイトの死。
圭介の気持ちの焦りは、まるでターボを利かせたように加速する。
焦燥感が不安を吸気し、タービンを回す。
死への恐怖へ、速度を上げる。




「わかった・・・。でもっ、約束しろっ。慎重に・・・慎重にやれ・・・。」




慶の殺し文句、”お前しかいないんだよ”の後に圭介がこういったとき、夜はしらじらと明けていった。









[残り33人]

 

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