-82-





井上慶は、血なまぐさい2体の死体が転がる小屋の、
埃と工具の散らばった机の上に腰を掛けたまま、ぼうっと宙を見つめていた。



喪失感。



いうなればそういった感情が彼を襲い、そこに留まらせていたのかもしれない。





あの、かび臭い独房のなか、慶はこのシナリオを完成させた。
もっとも、そのときはキィになるのが”首輪はずし”であることは予想もしていなかったが。







仲間を集め、脱出を図る。

信用できるのは、信用してもらえるのは、部活のメンバー。

自分が生き残る為に最善の方法。

たとえ、親友を、この世で最も信用している相手を―――欺くとしても。

脱出がうまくいけば何の問題もない。

確立は低い。

中学3年生の子供が思いつく簡単な方法で、
50年以上続く”プログラム”から逃げ出せるわけが無い。

うまくいかなければ・・・。

”仲間”を逆手にとり、殺す。

やりかたは何でもいい。

そのために、仲間うちで最も殺傷能力の高い武器なり、なんなりを自分が持つ権利をつかむ。

メンバー内のイニシアティブを手にすれば、それは造作も無い。

あくまで、最悪のケースを考え。

目的はひとつ。

自分が生き残る。

結末がハッピーエンドだとしても、凄惨なアンハッピーエンドだとしても。

ラストシーンに自分が生きて、立っていればいい。





そして、そのシナリオは凄惨なアンハッピーエンドへ向かい始める。
言葉巧みに、一人。
その手に握られたグロックで、一人。







反則は無い。

慶は自分にそう言い聞かせる。



人生だって、同じだ。

もう一度、自分に言い聞かせる。



それでも喪失感は、姿を消しはしない。

むしろ、更に大きく、慶に覆い被さる。




机から投げ出された自分の足をぶらぶらと揺さぶる。
体が揺れる。






外は朝日が昇りきっただろうか?

小屋の、だらしなく開いた壁の隙間や、いたるところに朝の気配を感じていた。








俺は―――
きっと。

自分のために、誰かを殺し―――
そして。

殺したやつの分だけ―――
何かを。







失うんだ。







その結論に達し、それでも尚、慶は生への執着を捨てる事は出来なかった。






圭介と、裕也のディパックから必要な食料と、
弾丸、水を1リットル抜き出し、まとめておいた。



長期戦を見越して、用意した。



うまく、体を動かす事が出来そうだと判断して、慶はディパックを肩に担ぐ。





たっとひとつだけ誤算だった、広志の行動。




このチームから抜けてくれたことを慶は感謝する。




”待て”、”行くな”といいながら心の裏側では”行ってくれ”と叫んでいた。














慶は願う。



小屋のドアを開け、周囲の気配に耳を済ませながら。












―――広志。














―――頼む



















―――誰かに






























殺されてくれ―――


















[残り21人]

 

[image]
[impression]
←back index next→

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル