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「――ガッ― こちらマルフタ班、配置完了。千成さんどうぞ? ―ガッ――」

「―ガッ―― 千成だ。了解、第2種警戒態勢のまま別命あるまで待機。以上。ガッ――」

「――ガガ―― マルフタ班了解。以上。 ―ガッ―――。」


千成隆志は、小さく息をつく。
今の報告により、全ての実行部隊の初期配置が完了した。
すばやく時計の針を確認する。
10時を少し回ったPM10:02。
予定の誤差5分以内。
上出来の内容と再び小さな息をつく。
ほとんど反射的に胸のポケットに手が伸びるが、当然タバコは入ってない。
禁煙をはじめた事を思い出し、小さな舌打ちを一つ。



テント内のハードウェアのセットアップもあらかた終っているらしく、
動き回っていた工作員や、技術員はモニターの前で初期起動を始めている。
声のないテント内に、キーボードのぱたぱたという音が幾重にも重なり始めていた。



そのテントの中心。3台のモニターと2台のノート。
その中央で、典子と秋也は忙しくキーボードを叩く。
実行部隊の初期配置が終わり、指揮官としての隆志の仕事は一段落ついていた。
手元に並べてある何種類かの缶ジュースからなるべく濃い缶コーヒーを選び、プルタブを引く。
作戦が次の段階に進むには、セットアップを待たなければならない。
隆志は緊張を少しだけ緩め、二人のキーボードさばきをぼうっと眺め始めた。



秋也はまるで弾くようにキィを叩く。一定のリズムを保ち。
ぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱた・・・。
典子は秋也とは対照的に、優雅にキィを叩く。まるでピアノを弾くように。
ぱた、たたたたた、ぱた、ぱたた、たたたた。
そしてモニターには、そのキィを叩くリズムとともに英文が並ぶ。
ダイアログが閉じては消え、そしてまた開く。
いくつかの窓が開き、英文を打ち込む。閉じる。
目まぐるしく変わるその様子はまるで、シューティングゲームのようにも思えた。



やがて、秋也の目の前のモニターがブラックアウトする。
再起動をかけているようだ。
立ち上がり、大きく背筋を伸ばす。
典子もリターンキィを景気よく”ターン”と鳴らし、モニターをブラックアウトさせる。



秋也は典子に声をかけている。
何を話しているのかは隆志の位置からは聞こえない。
質問のようだった。典子は頷き、微笑む。
秋也はその微笑を受け、その場を離れる。
そして、隆志が浅く腰を掛けるジュースの並んだ業務用の長机に向ってくる。



「準備は整ったか? 」

隆志はぼうっと、再起動のかかる典子の目の前のモニターを見つめたまま尋ねる。
秋也は無造作に並んだジュースから適当に二本選びながら答える。

「ええ。あとは、通信の立ち上げを待つだけです。」

そう言って、テントの端に設置された19インチモニターを4つ並べた、
巨大なインターフェースを見る。
やはりそこにもいくつもの、ダイアログが浮かび、消えている。
秋也は2本のジュースを抱え、ゆっくりとした足取りでテント中央の二人のデスクに戻る。
隆志もそれに続いた。



秋也からジュースの缶を受け取った典子が、隆志の存在に気付き、小さく微笑む。
隆志もそれに答えるように、控えめな笑顔を見せた。

「時差ぼけは大丈夫か? 」

低い声でそう尋ねる。
濃い目とはいえ甘ったるいコーヒーのせいで、若干口が粘つくような気がした。

「はい。車の中でゆっくり休ませてもらいましたから。」

はっきりとした口調で典子は答える。
気負いはないな。と隆志は感じた。
秋也は終始、落ち着く様子がなくデスクをとんとんと指で叩いている。

「予定通りか? 」

二人に尋ねる。
二人はゆっくりと黙ったまま頷く。




ふと、技術員の一人が声をあげる。

「千成さん、通信起動します。」

隆志が頷くと同時に、典子がメインマシンのリターンキィを弾く。
いくつかのアプリケーションが走り出すのが見えた。
秋也が腕まくりをしながら、呟く。

「政府に偽者の鏡を見せてやる。」

典子はそれを見て、やはりにっこりと微笑む。
そして、目の前の二人の子供の写真をゆっくりとなでた。




秋也は隆志に告げる。

「これより、政府運営のプログラム本部メインコンピュータシステムをアタックします。
15分後には全ての認証を突破し、rootアカウントを奪取します。」

隆志は一言「任せた。」と告げ、インカムのマイクをONにする。








「―ガッ― 千成だ。実行部隊全班に告ぐ。作戦開始までもうすぐだ。
第2種警戒態勢より、第2種戦闘態勢に入れ。
安全装置はまだ外さなくていい。どうぞ? ―ッ」




「ッ―― マルヒト班了解です。以上。 ―ガ―――――」

「ガッ― マルフタ班了解。以上。 ――ンガッ―ッ――」

「ッガ― マルサン班了解しましたー。以上ー。 ―ガー」

「ンガ― マルヨン班了解ッス。以上ッス。 ―ガッガ―」

「―ガ― マルゴー班了解。―ッガ―  以上。 ―ガ―」

「ガ―ッ― マルロク班リョーカイ。以上っ。 ―ガッ―ッ」






「ガッ― 千成、全班了解。以上。 ガッ―」







[残り21人]

 

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