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日は昇り、既に朝の気配は残ってはいない。


G−3を後にした慶はなぜか、あの、格納庫へ向かっていた。
特に理由などなく、それは気まぐれと言っても良かった。
ただなんとなく、慶にとって格納庫が戻るべき場所であると、
心理の奥深い所で感じていたのかも知れない。


このプログラムから、その厚い巨大な鉄の扉が自分を守ってくれる。


慶はおぼろげながら、そう感じていた。
もちろん、本人は全く自覚がない。
人を殺めてしまったショックは思いのほか大きく、それは慶の想像を遥かに越えていた。


まともな思考は出来そうも無い。
落ち着けなければ、気持ちを、体を。


結論は結局そこに行き着く。
そして、それに適した場所を慶は格納庫以外には知らない。
的確な判断か、と問われればそれは間違った判断だった。
目立つ格納庫に戻ると言う事は、誰かとの接触の可能性を引き上げる。
閉鎖された、不利な状況で。
それでも、慶の脳裏によぎるのは格納庫の冷たい、広い空間だけだった。


重いと言うにはいささか語弊があるが、決して軽いとはいえない足取りで、
あの巨大な鉄の扉が見える場所に辿り着く。
すぐに近づいたりはしない。
若干ではあるが、冷静な判断力は残っていたようだ。


深夜から朝の間に、誰かが中に潜り込んだ可能性は充分にある。
まずは動きを見る。


慶は、鉄の扉から直線距離で最も近いであろう茂みに身を伏せた。
当然、逃げ道のルートも3つほど決める。
禁止エリアの絡みも頭に入れ。


約一時間、慶はじっと時が過ぎていくのを待った。
何も考えず、耳を澄まし、呼吸だけして。
グロックを何度か握り直す以外、身動ぎ一つしなかった。
ただ、待つ。
鉄の扉を睨み付けるように。


午前11時47分。
地面に伏してから丁度1時間が経過した。
慶は思い出したように立ち上がり、一直線に扉へ向かう。
半ば小走りのように。
一度、茂みを振り返り、左右を確認。
人影は見えない。
格納庫の重い、巨大な扉に手をつき、すばやく体を反転。
ドアを背に立ち止まる。
荒い呼吸を少しだけ整えた。
後ろ手でドアノブを回す。
鍵はかかってない。
慶たちが深夜、出て行ったままだ。


半分だけドアを開き、その隙間に体を滑り込ませる。
ドアを閉めると同時に今度は格納庫内に向き直り、グロックを構える。
すばやく、あのテーブルを確認する。
出発前に、広志や、裕也や、圭介が現れる前に、慶が用意した簡易の応接セットだ。
ブリキの缶や、木箱のテーブル。
小さな頃に作った、ヒミツ基地みたいだと、慶は一人でそれらを運んでいる時に思い、
すこしだけ顔をほころばせていたのを思い出す。












しかし、そこに見えたのはオイル缶にたたずむ、一人の少女だった。




女子7番 佐々木芽衣。




慶の背中に一筋の汗が滑り落ちる。










[残り21人]

 

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