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「男子12番。高橋光也。」
光也は名前を呼ばれると即座に立ち上がった。
しかし、その顔はこわばりやはり視線は定まっていなかった。
教授はじっと光也の目を見つめていた。
やがて震える足を押さえつけるように少しづつ歩き始めた。
教授によりデイパックが手渡され光也は逃げ去るようにドアの外へ走り出した。
大分慌てていたのか、そこまで気が回らなかったのか
修学旅行用に持ってきている自分のドラムバッグは置いたままだ。
光也はつかの間ながら、自由を手に入れたのだ。
比呂達には2分間のインターバルが与えられた。
もちろんUZIの銃口は睨みを利かせている。
重苦しい空気の中、秒針は2週した。
「女子12番松本朋美」
朋美もやはり即座に立ち上がった。
しかしすぐには歩き出さなかった。
絵里へ視線を向け頷いた。
その顔からいつものふんわりとした印象は消えていた。
強い怒りがその目からは伺えた。
不条理な殺人ゲームへ朋美も反抗する意思があるのだと比呂はその目から読み取った。
自分のバッグを肩に担ぎ、ゆっくりと前へ進んだ。
デイパックを受け取り、ドアへ向かうため教授に背を向けるまで一度も視線を教授からそらさなかった。
朋美は本当は強い女の子なのだ。
強いからこそ、いつも笑顔でいられたのだ。
絵里は親友の、朋美の背中を見守っていた。
肩まで伸びた髪は少しだけ風にゆれた。
朋美が部屋を出るとまた2分間のインターバル。
その直後、銃声が聞こえた。
外からだ。
―― まさか!撃ったのか?
今外に出ているのは光也と朋美だけだ。
朋美が受け取った武器が銃だったとして、すぐにその引き金を引いたとは考えにくかった。
―― あの朋美が、自分が生き残るためにクラスメイトを撃つなんて・・・。
だとすると、光也だ。
この建物を出て行くものを狙い撃ちするというやり方は、理にかなっていたし、このゲームではかなり有効な作戦だろう。
「男子13番。千成・・・」
比呂はそう呼ばれる前に走り出していた。
兵士はさっと比呂に銃口を向ける。
襲撃だと警戒したのだろう。
デイパックをほぼひったくるように部屋を飛び出した。
狭い階段が見えた。
2つフロアを下ると開かれた扉が見えた。
一瞬にして比呂は状況を把握した。
朋美が走り去る姿が見えたのだ。
―― やはり・・・光也だ。
光也−−−いつも明るく楽しそうに笑う男だった。
笑うと細い目が一層細くなった。
少しぽっちゃりとしたその体はぬいぐるみのような愛嬌があり、
比呂は比較的光也を好意的に見ていた。
明るいがおとなしい、気の良い奴だと。
――そんな光也が、殺そうとした。
朋美を。
殺すつもりで銃を撃った。
比呂は冷たい汗が背中を伝わるのを感じていた。
俺も撃たれるのか?
今、外に出れば・・・。
光也にとってクラスメイトは敵なのか?
あのやさしく微笑む、朋美ですら・・・・
朋美は無我夢中で走った。
林の中を。どこへ向かうでもなく。
怖かった。
幸い弾丸は朋美の体のどこにも当たらなかった。
しかし、殺意は感じ取れた。
――誰か――そう、自分の前に本部を出たのは高橋君だけだ。
彼が私を…殺そうとした?
信じられない!
私は何もしてない!
私はこんなゲームに参加する意思なんかない!
なのに、自分が助かりたいがために!
銃を撃った!
怖い!
みんなそうなの?
みんな私を殺すの?
自分のために?
あんなに仲良かったクラスなのに?
私達、殺し合うの?
朋美の思考はぐるぐると同じところを回りつづけた。
とにかくここを離れなければ。
できるだけ遠くへ。
生きようとする動物的な本能だけが彼女を走らせていた。
比呂はまだドアから離れられなかった。
見通しの良いこの出口を出てしまえば、きっと今も銃を構えている光也の格好の標的だ。
林までは、約20メートルといったところか?
走れば約3秒前後だろう。
―― 果たして光也に3秒間で照準をあわせることなどできるだろうか?
まず無理だろう・・・・。
きっと、銃を持つのも撃ったのも初めてのはずだ。
低い姿勢でいきなり飛び出せば・・・捕捉できないはず。
比呂は約2秒の間にそこまで考えた。
彼の集中力は、極度の緊張を強いられるこの状況でも遺憾無く発揮されている。
「いける!」
比呂は確信し、飛び出した。
光也は銃こそ構えていたものの、クラスメイトに向けて発砲してしまったことに酷く混乱していた。
比呂は、走った。
―― あの林に飛び込む。
一点だけに集中し、地面を蹴った。
光也が急に飛び出した比呂に銃を向けようとする前に比呂は、難なく林の中に姿を隠すことに成功した。
光也は更に混乱した。
この出口で、自分が殺されてしまう前に、全員迎え撃ってやるはずが、すでに二人取り逃してる。
――まずい、自分の殺意を二人は感じ取ったはずだ。
もしかしたら、千成も松本もこの俺に報復するかもしれない。
ましてや、千成は呼べば聞こえる位置にいるはず。
まずい・・・まずい!
場所を変えなければ。
逃げなければ!・
・・・俺が・殺?される?
光也は走り出していた。
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