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ガチャンっと、金属の重なる音が響く。
忠正はその新しいマガジンを装填したブローニングを、再び慶の額に押し当てる。
「僕の記念すべき最初の獲物だぁ。」
にやりと笑う。
頭がいかれてるんだなと、慶は思う。
もう、ほとんど右手の感覚はなかった。
冷たい銃口は額にぴたりとくっついている。
抵抗する気はなかった。
むしろ早く引き金を引いて欲しいとさえ、願った。
右手の痛みは、まるで燃やされているかのように熱い。
忠正は少しつまらなそうに顔をしかめる。
そしてその感情を言葉にする。
「つまらないなぁ。」
と。
「もっとさぁ、あるでしょ? ”殺さないでェ” とかさ。」
慶は、”勝手にしてくれ”と思う。
忠正は芽衣を見る。
そして、その口を歪め、嬉しそうに目を細める。
「芽衣ちゃぁん。君からイっとく? 」
芽衣は目を見開き首を横に振る。
「いや・・・あんたなんかに殺されたくない。」
忠正はさらにその目を細める。
「それっ、グレイトゥ。それだよ、ソレ。」
銃口を慶の額からはがす。
照準は芽衣を追う。
芽衣は動かない。いや、動けない。
ただ、首を横に振りつづけながら、抜けた腰のまま後ず去る。
「い、イヤ・・・。」
「来た来たァ!! これだよ、まさにっ。うーん、サディスティックゥッ。」
その銃口と芽衣の間に慶が割り込む。
「芽衣だけはダメだ。」
そう告げる。
何故だか、慶にも説明はできないだろう。
さっきまで、ほんの数十分前まで忘れていた女。
ほんの数十分前まで、仲間すらもためらい無く撃ち殺した自分。
恐らくそれは、慶の本来の姿ではなかったのだろう。
状況に合わせ、自分を歪めていたのだ。
非情なジェノサイダーを演じていたのだ。
大切なものの死と、それを天秤にかけたとき、そのメッキは剥がれる。
いとも簡単に。
罪の意識があったのかも知れない。
辛い思いをさせた芽衣に。
それでも尚、自分を想ってくれる芽衣に。
慶は両手を広げ、芽衣の前に立ちはだかる。
忠正は露骨に嫌な顔する。
「嫌いなんだよなぁ。そういうの。青春ドラマなら他のとこでやってくれない? 」
忠正はそういうと右手で慶を押しのける。
慶は簡単にぐらりと体制を崩す。
痛みでまともに立つ事もままならない。
親指がきれいに吹っ飛び、掌の骨がぐちゃぐちゃになっているのだから
ソレも当然の事だった。
ガァン!
芽衣が弾け飛ぶ。
どこを撃たれたのかは分からなかった。
ただ、体が弾け飛ぶ。
ガァン!
再び芽衣は弾け飛ぶ。
血しぶきが舞う。
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