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慶は投げ出した足を見つめる。
ただ、呆然と。
傍らには芽衣の遺体。
まぶたを閉じさせ、白い布を顔にかけた。
手は胸の上に組ませている。
体中の力が抜けきっていた。
血なまぐさい格納庫。
慶は思い返す。
どれが本当の自分なのかを。
裕也を撃ち殺した自分。
脱出を真剣に試みた自分。
芽衣を抱きかかえていた自分。
答えは見つからない。
ソレは当然だ。
すべて本当の慶なのだ。
弱い、一人の15歳なのだ。
感情が揺れ、信念すらも曲げる。
美しくいたいと願い、汚さに手を染める。
縛られたくないと願い、自らを束縛する。
失う事にためらわずとも、失う瞬間にそのものの大切さを知る。
矛盾。
そうして、神経を、自分自身をすり減らしていく事が
”大人”になるということなのだろう。
慶はそれに気付く、しかし気付かないフリをする。
彼が本当に芽衣を愛していたかと尋ねれば、答えはNO。
彼は芽衣に思われている自分を愛していた。
芽衣を大切に思おうとする自分を愛していた。
しかし、芽衣が事切れる、直前。
彼の”好きだ”という言葉は、嘘ではない。
彼は、この一瞬で彼女を愛した。
彼女の真っ直ぐさに惹かれた。
皮肉な結末だろうと、それが真実。
慶は立ち上がり、芽衣のネクタイをはずす。
それをズボンのポケットに突っ込んだ。
グロックをディパックに、ブローニングを左手に握る。
格納庫を出る前にもう一度振り返る。
「芽衣・・・すぐ戻ってくるよ。ここで待っててくれ。」
「このゲームを終らせて――――――」
慶はその先を飲み込み、鉄の扉を開ける。
きしむドアの音が、慶には遠く聞こえた。
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