第2章:覚えのある悶着の種(第2節)

初版2007年4月10日 著者:草加床ノ間


完全先付けに潜む魔物

 完全先付けは「先付け」の定義も曖昧で競技者によって解釈が異なりバリエーションも多すぎて,初顔合わせならトラブルの原因に最もなりやすいルールである。

 そして,たちが悪いことに,和了を宣言してから発覚するためチョンボとなってしまうのだ。別に雀力が劣っているわけでもなくチョンボなので,騙されているようで不快極まりない。

 さて「先付け」とは何か。辞書的な意味は「先の日付」である。この場合は「先付けの小切手」が由来とされている。

 未来の日付の小切手を発行し,現金は後で。つまり,小切手の発行が役に関係ない副露で,現金である役は後からということである。

 よく考えなくても分かるが,「先付け」の原義は現在で言われている「後付け」のことを意味していた。「完全先付け」は言葉自体矛盾しているのである。

 ということで,ここからは「先付け」「後付け」「ありあり」「なしなし」の言葉を用いず説明する。

 トラブルの要因になる「1飜しばりとフリテン以外の和了制限」の種類について列挙しよう。

1.副露の順序制限

 狙い役とは関係の無い副露を先に行ってはいけない。つまり,「原義の先付け」を制限するもの。

 制限の解釈は大きく分けて2種類ある。

 【解釈1−1】 暗順や暗刻は,たとえ副露の後に完成したとしても全ての副露に優先する。
  【解釈1−1−1】 大明槓は暗刻であったものとする。
  【解釈1−1−2】 大明槓は暗刻であったものとしない。
 【解釈1−2】 暗順や暗刻は,たとえ副露の前に完成していたとしても副露に優先しない。

 【解釈2−1】 役を狙った副露なら,どのような受けでもよい。
 【解釈2−2】 役を確定させない受けを持った副露(チー)は認めない。

 副露の順序及び役の確定のさせ方について牌図を使って説明する。状況は1飜しばりで,荘風や自風に左右されない例のみ挙げる。

 牌図の(1),(2)はそれぞれ1番目,2番目に副露したことを示す。

(牌図A)一萬伍萬六萬七萬伍筒六筒七筒 一萬  伍索横六索七索(2)  二筒横三筒四筒(1)

(牌図B)一萬伍萬六萬七萬伍筒六筒七筒伍索六索七索 一萬  二筒横三筒四筒(1)

(牌図C)一萬一萬伍萬六萬七萬二筒三筒伍筒六筒七筒 四筒  伍索横六索七索(1)

(牌図D)一萬一萬伍萬六萬七萬二筒三筒 四筒  横伍筒六筒七筒(2)  伍索横六索七索(1)

 さあ,和了できるのはA〜Dのどれどれか?

 私の解答は(A)はさすがに和了できない,それ以外はグレーという曖昧なものである。

 それほど,解釈の種類があるわけだ。つまり,(B)〜(D)も解釈一つでチョンボとなる。

 (B)については,【解釈1−2】(手持ち牌の優先無し)の場合は和了できない。最初の副露が三色同順と無関係ということが理由。

 この【解釈1−2】の場合の和了できない例として有名だが,極端なものが以下の(牌図B’)である。

(牌図B’)一萬白白白發發發中中中 一萬  二筒横三筒四筒(1)

 ため息つく間もなく(C)について説明する。

 和了できない理由としては,萬子(マンズ)と筒子(ピンズ)の567がどのようにしてできたか不明というもの。チーしたときに,萬子と筒子の567がすでにできていたとは分からないからとのこと。行き過ぎた【解釈1−2】である。三色同順はほぼ門前オンリーだよ,これじゃ。

 「完全先付け」で,この(C)を和了できないことにする人は少ないと思う。萬子と筒子の567は既にできていたものと判断している場合が多い。つまり,【解釈1−1】である。

 でも(C)を和了できるとし(B)を和了できないとするには整合性が欠ける。筒子234のチーのときに567の三色は既にできていたものと判断できないのは何故か?

 私がこんなことを言っても無意味なので,次に行き,(D)を説明する。あなたには,(C)が和了できて,この(D)が和了できない理由が分かりますか?

 ポイントは2回目のチーにある。このチーは両面であり,1回目のチーのときに三色同順が確定していないことが暴露された形なのである。

 これが【解釈2−2】である。今,この事実を初めて知った人は,呆気に取られただろう。私も呆気に取られた。

 最後に【解釈1−1−1】と【解釈1−1−2】の大明槓の暗刻扱いの違いであるが,これは,例えば第2副露で發を大明槓して「發のみ」で和了できるかどうかということである。【解釈1−1】が前提の話であるので,さらに孫枝番を付している。

2.役の付け方の制限

 間違って解釈された「先付け」によるもの。役は先に確定させる(付ける)ことによる制限。解釈の概略は下記の通り。

 【解釈3−1】 偶然役(嶺上開花,河底撈魚など)だけの和了は認めない。
 【解釈3−2】 上記のほか,門前清自摸和(ツモ)も確定ではないので偶然役とする。
  【解釈3−2−1】 門前平和形で他に確定役が無い場合,栄和(ロン)と自摸和(ツモ)で役が異なるが和了を認める。
  【解釈3−2−2】 門前平和形で他に確定役が無い場合,栄和(ロン)と自摸和(ツモ)で役が異なるので和了を認めない。
  ただし,この孫枝番の解釈は平和と門前清自摸和は複合しないルール(ピンヅモなし)の場合のときのみ。

 【解釈4−1】 聴牌して複数のあがり牌が存在するとき,どの牌で和了しても1飜しばりをみたすこと。
 【解釈4−2】 聴牌して複数のあがり牌が存在するとき,どの牌で和了しても必ず1つは同じ役があること。
  【解釈4−2−1】 上位の役は下位の役を包含して同じ役とする。
  【解釈4−2−2】 役の名前が違えば違う役とする。

 枝番の2はそれぞれの上位制限となるが,【解釈3−2】が適用されれば,ツモのみが和了できなくなる。

 前項と同じく,これらのことを牌図を使って説明する。状況は1飜しばりで,荘風や自風に左右されない例のみ挙げる。また,リーチはしていない。

(牌図E)一萬二萬三萬三萬四萬伍萬伍筒六筒七筒發發中中

 この(牌図E)は説明題材によくある基本的なものである。【解釈4−1】(どの和了でも1飜しばりを満たす)なら,この手は和了することができる。

 ところが,【解釈4−2】(どの和了でも1つは同じ役が存在する)が適用されると和了することができない。和了することのできる牌は發と中であるが,發で和了すれば「發のみ」,中で和了すれば「中のみ」で両方に共通する役がないという理由。両方とも「飜牌」じゃないかという主張は駄目らしい。

 そして,これに【解釈3−2】が適用されていると,ツモって和了することさえもできない。また,荒牌で流局になっても,聴牌として認められないのだ。

(牌図F)二萬三萬四萬三筒四筒四筒伍筒伍筒六筒七索七索七索八索

 これも,【解釈4−1】(どの和了でも1飜しばりを満たす)なら,この手は和了することができて,【解釈4−2】(どの和了でも1つは同じ役が存在する)なら和了できないことになる。

 この手の和了できる牌は六索八索九索の3種類であるが,六索なら断幺平和,八索なら断幺のみ,九索なら平和のみと1飜しばりは満たすが共通する役はないということである。

 くどいが,これに【解釈3−2】が適用されていると,ツモっても和了することができない。また,荒牌で流局になっても,聴牌として認められない。

(牌図G)一萬二萬三萬三筒四筒四筒伍筒伍筒六筒七索七索七索八索

 これは,(牌図F)と似ているが,今度は八索では1飜しばりを満たさないので,どの解釈でも栄和(ロンあがり)できない。【解釈3−1】なら自摸和(ツモあがり)できる。

 麻雀は本来,多面張は有利なはずだ。多面張になったから逆に不利になるなんてことがなくなるよう切に願うばかりである。

(牌図H)一萬二萬三萬三筒四筒四筒伍筒伍筒六筒一索一索七索八索

 【解釈3−2−1】(平和のみの和了OK),【解釈3−2−2】(平和のみの和了NG)であるが,【解釈3−2−2】は【解釈4−2】と重複するものがある。

 【解釈3−2−2】が適用されると,(牌図H)は和了できない。これは,麻雀ではないのでは?と思わずにはいられない。

 そして【解釈4−2−2】は本当に厄介である。また,いくつかの牌図で説明する。

(牌図I)一萬二萬三萬三筒三筒四筒四筒伍筒伍筒七索八索中中

 この図は(牌図H)と似ているが,一盃口が確定しているので,どの待ちでも,どの解釈でも和了することができる。

(牌図J)一萬二萬二萬三萬三萬三筒三筒四筒四筒伍筒伍筒中中

 これはどうだろう。一萬四萬待ちであるが,一萬で和了すれば二盃口,四萬で和了すれば一盃口である。

 【解釈4−2−1】と【解釈4−2−2】をもう一度読んでもらいたい。【解釈4−2−1】なら和了可能,【解釈4−2−2】なら和了不可能なのが分かるはずだ。(牌図I)より良い手になっているのに何故このような仕打ちに・・・

 私はまだ【解釈4−2−2】ようなルールで行われている現場を見たことは無いが,正直言ってこのルールは冗談であってほしい。

 【解釈4−2−2】は以下のような牌図の手も和了できない。

(牌図K)二筒三筒四筒伍筒伍筒中中   白白横白(2) 横發發發(1)

(牌図L)一索一索一索二索二索四索伍索六索七索八索九索九索九索

 (牌図K)においては,中で和了すると大三元となり,混一色,飜牌の役がなくなる。つまり,伍筒の和了のときと共通の役が無い言うのだ。馬鹿な。そしたら,シャンポンをやめて大三元を諦めるしかないのか。

 (牌図L)は三索六索九索および二索待ちであるが,三索で九連宝灯となる。九連宝灯となると清一色がなくなるということで,共通の役が・・・。ひどいね。この手においては,「完全先付け」特有の渋々リーチさえ通用しない。地獄だよ。

 あと,緑一色と混一色,小四喜と大四喜,四暗刻と三暗刻でも同様の現象が起きる。

3.フリテンについて

 【解釈5−1】 フリテンは自摸和(ツモあがり)なら和了することができる。ただし,解釈1〜4の条件を満たしていること。
 【解釈5−2】 フリテンは自摸和(ツモあがり)でも和了することができない。

 【解釈6−1】 同巡フリテン直後の自摸和(ツモあがり)は和了することができる。
 【解釈6−2】 同巡フリテン直後の自摸和(ツモあがり)は和了することができない。

 解釈を読んでのとおりであるが,「完全先付け」とフリテンツモあがりを禁止する関連性が分からない。しかし,セットメニューの如く存在しているらしい。

 

 以上,説明が足りてないかも知れないが,これは「完全先付け」の解説ではないのでご理解願いたい。

 これだけ様々な解釈がありながら「完全先付け」が存在するのは,「完全先付け」を主張する人が自分のルールの1パターンしか心得ておらず,様々な解釈の存在を知らず,他の競技者も自分のルールを知って当然ということでないかな。こんなこと書いたら怒られるか。

 これだけの「完全先付け」の解釈があるなら,事前協議は必須なのかと言われれば,それは全く逆で不毛なものと思う。こんなことを事前協議するなら寝ていたほうがいい。

 「和了のときに1飜あればよい。」ルールはシンプルなほうが悶着が起こりにくい。まあ,私の本音としては,1飜しばりも要らないんだけど。


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