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Present by Ouka.Shimotuki



*** beast of a lover ***
〜vol.2〜








 改めて考えてみたら、全然楽しくないかも知れない。

 女相手なら、例えば―――こうして抱きすくめた時の柔らかさとか、豊かな胸のふくらみとか。自分とは明らかに違う性の形に興奮するものがある。単に雄の習性なのだとしても、それすら、同じ男である拓海には感じようが無い。
 峠から引き摺って来た情熱そのままに、勢いで乗り上げてはみたものの。いくら何でも無謀だったか――とテンションが下がりかけた、その時。
「―――‥ッ」
 脇腹のあたりからゆっくりと、肌を直に撫で上げられる感触。
 当然、仕掛けているのは拓海だ。見下ろせば、いつもは眠そうな瞳が楽し気な光を浮かべている。
「オレは楽しーかも。啓介さん脱がすの」
「‥‥ガキが」
「そりゃそーでしょ。年下だもん」
 そういう意味じゃないと言い返そうとして、出来なかった。無邪気に笑う表情が、こんな時に限って年相応に見えて・・けれど肌を這う指は執拗で。
 さっきと同じだ。誘いを掛けて来た拓海に感じた違和。そのギャップ。自分が知るそれとは余りに掛け離れて―――と言っても、そう多くの面を知っているとも思えないが―――その落差が少しずつ侵蝕して来るような。

「どうですか‥‥?」
 まるでボディーブローだ。
 明確な意志を持って、こんな風に触れられた事なんて無い。しかも、ゴツくて堅い男の手だ。―――認めたくはないが、違う意味でなら死ぬほど焦がれている腕だ。
「分かんね‥けど‥‥」
 吐息と一緒にそう呟いて。ほとんど半身を起こしかけている拓海に跨がったまま、自らの腰に絡み付く腕に、啓介も指を滑らせてみる。
 相手が拓海だからという理由だけで興奮してしまうのも、どうかと思いつつ。
「悪くねぇかも‥‥」
 つい、正直な言葉が口を突いて出た。
「それじゃ、このまま続行ってコトで‥」
 嬉しそうな表情を隠そうともせず、拓海もまた素直に尚腕を絡めて来た。
 自然、密着する身体。どちらがどちらをという訳でなく衣服を取り払った所で、カチリと視線が合ってしまった。これ以上ない至近距離。
「―――キスとか」
 出し抜けに、まだあどけなさの残る口唇が言う。
「した方がいいッスか、やっぱ?」
「ヤなら、しなくたっていいんじゃねぇ」
「そーじゃなくて‥‥」
 パサリと音がしそうなくらい長い睫が、すぐ目の前で伏せられて―――コイツ、こんなに睫とか長かったんだ―――とか何とか思っているうちに、軽く口唇に暖かい感触。
「なんか、啓介さんて‥‥口だけエロいよね」
 反論する前に、もう一度。
「だから、止まんなくなりそーで」
 今度は強く。その言葉通り性急になった拓海に、ついでとばかりに押し倒されて、啓介は低く呻きを漏らした。

 舌まで差し込まれて、息吐く隙間も無くて―――もちろん自分ペースでないこんなキスは初めてで。でも全然押し返す気になれない自分が信じられない。
 そのまま湿った感触が首筋に落ちて、ようやく啓介は無意識に閉じていた目を上げた。
 胸を合わせる形で抱き合う、同じ熱さを持て余す相手。隙間なく密着する身体が、お互いダイレクトに高揚する欲情を伝え合う。そうでなくても多分、拓海には何も隠せない。―――隠す必要がない。
「すっげ、興奮すんね‥‥」
 啓介の頭の中を読んだみたいな言葉が、耳元で囁かれる。
「こんなのオカシイんかな‥‥オレ――、啓介さん‥‥」
「聞くなよオレに‥‥。ンなの分かんね‥‥っ」
「‥‥もっと、なんか喋ってよ。オレ、啓介さんの声好き」
 そっちこそ。拓海の声に乗る自分の名が、こんなに心地よく響くなんて知らなかった。
「ここから先、どう‥? 好きなよーにしていい?」
「んっ‥‥」
 その問いに答えるように、啓介は、すぐそこにあった拓海の肩を引き寄せて軽く歯を立てた。そしてそれをすぐ、キスに切り替える。
 今夜までは、とても遠くにあった腕だ。追い続けている背中――。歯軋りするほど切望しているそれらに、今は全部手が届く。・・いや、この時だけは自分のものだ。
「オレも好きにするぜ‥‥」
 予想よりも広かった背を、上から徐々に下へ。ゆっくりと撫でながら言う。
「だからお前も、好きにしろよ」
 ―――言い終わる前に、再び口唇が合わさった。





「‥‥‥‥‥ッ!!」
 脇腹から腿へ、そして脚の付け根へ。拓海の指が絡んだ時には、もう限界が見え始めていた。
 脚を絡めて腰を密着させて、押し付けられる拓海自身もまた同じで。けれどそれを促す余裕もない啓介は、荒い呼吸を繰り返し、拓海の首に腕を巻き付けて耐えるしか術がない。
「も‥‥ヤバ‥って、ふじわ‥っ」
 どこかで逃げ出したいような衝動にも駆られるが、がっちりと押さえ込まれてそれも叶わず。
「‥‥いいっスよ、そのまま‥イッてくれて」
「んっ‥は、ア‥‥ッ!!」
 多分に拓海の意図通り、鼻に掛かった甘い声を上げ続けるしかない。
「気持ちイイ‥? 啓介さん‥?」
「バ‥‥ッカ野郎‥‥、も、はやく‥っ」
「もーちょい、そのカオ見ていたいんだけど‥」
 自分だって相当盛り上がっているくせに。切羽詰まった顔で説得力のないセリフを吐く拓海に、ならばこれならどうだと、憎らしい口唇を舐め上げた。
「‥‥そーゆーコトすんだ?」
「―――‥っ、あ‥‥ッ、」
「イかせてあげるからさ、啓介さん‥‥オレも後でしてくれる‥?」
 霞掛かった頭が、囁かれる言葉の意味を理解できずに白濁して行く。
 それを問い返すより先に、目に映る映像に意識が埋め尽くされた。うっすらと笑みを敷いて、けれど煽情している男の顔。愛おし気で残酷で。こんな顔も出来るのだ。
 そう感じた瞬間、またひとつ、大きな波が啓介を後押しする。背筋を這い上がる馴染みの感覚。
「出来ればココで‥‥」
 言いながら、今度は拓海が啓介の口唇を舐め上げる。
 同時に煽っていた指のスピードも上げられて、啓介の思考はそこで真っ白に塗り潰された。





―――To be Continue‥.








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