Present by Ouka.Shimotuki
*** beast of a lover *** 〜vol.3〜
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強張っていた身体が一気に弛緩して、まるで走り終えた後みたいに息が荒い。
全身を包む倦怠感。まだ頭はぼんやりしているけれど、ずっと心に掛かっていた靄が取り払われて、やたらめったら心地よくて。
確かに今、自分は性的欲求を満たしてくれるような存在を作っていないけれど、こんなになるまで不満が募っていたのかと思うと、少々情けない気もしないでもない。―――だってほら、身体に全然力が入らない。
「‥‥どうでした?」
うっすら開いた視界に拓海の顔。まだのし掛かられているせいで、ちょっと苦しい。
なんだか全部夢みたいだ。
「どうって‥‥なんて答えりゃいいんだ?」
かろうじて啓介はそう切り返したが、ロレツの怪しいその口調を受けた拓海は、満足そうに目を細めただけだった。
きっと拓海だって、男相手にこんな事を仕掛けた経験は無いだろう―――と啓介は推測する。別段技巧に長けていた訳でもなく、いつも自分自身にしているように啓介に触れただけで。だからこれは、マスターベーションの延長だ。
しかし―――。
「こんなに違うモンだとは‥思わなかったな」
「‥‥なにがです?」
「‥‥‥‥」
まだ、身体を支配した痺れが引かない。いつも自分で処理した後の、あの何とも言えない虚脱感も無い。こうして肌を合わせているせいなのか―――。
「‥‥ッ、んだよ?」
心地よさに任せてトロトロと思考していた啓介は、再び降りて来たキスで現実に引き戻される。されるがままの半開きの口唇を、なぞるようにして今度は指が――ねっとりとした感触を運んで来た。
「‥‥っ、苦ぇ‥‥。お前ってもしかして、ちょっと変態入ってるとか」
「うわ。ンな可愛いカオして、なんつーコト言うんスか」
「でなきゃAVの見過ぎだっつの。何が悲しくてテメェで出したモンを‥」
言いながら、塗りたくられた口元を拭おうとした啓介だったが、その手はあえなく拓海によって封じ込まれ、代行とばかりに舌で舐め上げられた。・・・よく考えなくともかなりイッってる構図だと頭では思うのに、その湿った感触が腰に来る。どうやら自分は口唇に弱いらしい。
「オレ的には、意思表示のつもりなんスけどね‥‥」
だからそんな、触れるか触れないかの辺りで囁かれると不味いのだ。
「さっきからずっと、アンタの色っぽいカオに煽られっぱなし、なんだけど?」
密着したままの身体。絡んだ脚の位置がゆっくり差し換えられて、そうでなくとも感じていた拓海の熱が更に強調される。セリフもさながら、その露骨な懇願に、フワフワと漂っていた啓介の意識は色めき立った。
「‥‥なんもしてねーのに。お前、オレにサカってんだ?」
「なんもしてねぇってコトは無いと思うけど‥‥」
視線を彷徨わせて口籠った拓海の、その一瞬の隙を付いて、啓介は勢い良く起き上がった。そしてそのまま、体勢を崩した拓海の身体に乗り上げる。
「形成逆転、だな」
言い放って、まだ驚きから抜けだせずにいる表情を見下ろす。
「そーいうカオしてっと、なかなか可愛いじゃんお前も。――そうだな‥。そのツラに今まで騙されてたってカンジだ」
「‥‥どうせオレは童顔だよ。可愛いとか言われんのムカつくんだけど」
何とか気を持ち直したらしい拓海が、あからさまに眉を寄せて口を尖らすのを見れば。更に機嫌を損ねるのを承知でも笑いが止まらない。
「散々オレには言ったクセにかよ? どーいうヤツなのお前って」
啓介の知る拓海と言えば。どんな緊迫した状況にあっても崩れないマイペースさとか、何を考えているのか分らない無表情とか、でも決して冷静な訳ではない危ういイメージ。
それは、腕に似合わぬ若さから来るものだと思っていた。または、走りという接点が無ければ、スレ違う事すらなかっただろうと思わせる、自分とは掛け離れたタイプだからか。
けれど、今ここに居る拓海は、そのどれにも当て嵌まるようであり、そうでないような気にもさせられる。やけに老成した部分を見せてこちらを手玉に取るかと思えば、些細なことで本気でむくれてみたり。
肌を合わせるなんて、こんな突拍子もない関係を結んだからには当然だけれど。今まで知らなかった――想像とは違う面を見つける度に興味が増す。もとい、こんな場面であっては興奮も。
「なんかバカにされてるような気がする‥‥」
腹の上でくつくつと笑い続けられれば無理もない。そこで啓介は、本格的にヘソを曲げ始めた拓海の、剥き出しになった上半身へ指を滑らせた。
見掛けよりもずっと体力を消耗するドライブを行うにあたって、同じトレーニングノルマをこなしている筈の身体は、なのにこうして触れてみると、自分のそれよりも若干逞しく感じる。
辿った指が脇腹のあたりに差し掛かった時、拓海の喉元がこくりと上下したのが見えた。
「‥‥そうやって、オレに欲情してんのが可愛いっつってんだぜ藤原」
「やっぱバカにしてんじゃん」
「してねぇってば。―――分かんないか?」
胸に手を付いて、ゆっくりと顔を近付ける。
「そういうお前がイイって言ってんの」
囁いたセリフに、間近に迫った大きな瞳が揺れるのを確認して、笑みの形のままで口唇が重なった。
もうとっくに盛り上がっているせいで少々キツ目だったファスナーを下げ、ズボンを引き降ろしに掛かったところで、じりじりと退けて行く腰に気が付いた。ふと目を上げれば、困惑以外の何物でもない表情で拓海が見返して来る。
「‥‥お前なんなの。頬染めんじゃねぇっつの」
「いや、その、だって‥‥」
構わず続けようとすると、更に「えーとー」とか「うわ」とか。やりづらくて仕方ない。
「あーもう! ちっとは雰囲気考えて声出せよ。色気ねぇな」
「イロケって‥‥オレには無理だよそんなんー」
「こんなのはな、正気で出来るモンじゃねぇんだよ。素に戻ってどーすんだ」
「だってオレ、こんなの初めてなんだ」
「オレだって初めてだっつーの!! ‥‥それとも何か? ここで止めてみるか?」
「う‥‥」
こんな所で止めたら、一人でトイレ直行は間違いない。拓海も、それがどれだけ情けない状況になるのかは想像出来たようだ。
「‥‥大丈夫だって。さっきオレ、すっごく良かったもん」
「はぁ‥‥」
「分かった。オマエは何も考えずに目ぇつぶってろ。―――動くなよ」
こっちにしたって、自分だけ良い思いをしておいて拓海を放り出すのは気が咎める。
素直に従った拓海に軽くキスを落としながら、今度こそ熱く脈打つ中心を握り込む。途端に強張った身体と荒くなる呼吸が、確かに自分が相手に与えた快楽なのだと知らせて来る。眉間に皺を刻んで耐える顔がとても―――
「可愛いぜ、藤原」
こんな風に自分以外のそれを煽った事なんか無いから、こっちの鼓動も早い。
胸を高鳴らせて吐くセリフがこれじゃ、まるで恋みたいだ―――と啓介は思った。
―――To be Continue‥.
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