第11話 夢ならいいのに
夢ならいいのにと思っても、変わらない現実はある。 現実は現実として直視しなくてはいけない場合もある。 でも、夢ならいいのにと思う気持ちは消せはしない。 夢ならいいのにと思うことは単純に心からの願いなのだ。
K林は高校時代の同級生だった。 僕と仲が良かったかというと、そうでもないのかもしれない。 無論、仲が悪かったわけでは無いと思うのだが、直接的な付き合いというよりはY永をはさんでの友人だったと思う。 すごいいい奴で、なおかつかなり面白い奴だったので、なんとか直接遊べるような機会を作りたいと常々考えていたものだ。
あれは高校1年か2年の頃だった。 かなり苦手としていた英語で、僕は例のごとくカンニングをしていた。 しかしどうやらマークされていたようで、まんまと捕まってしまった。 「あちゃー・・・停学かなぁ・・・。」 正直覚悟していた。 しかし、日頃の行いといおうか、見つけた体育教師はそれを担任にいうこともなく、なんとか停学は免れた。 そのかわり、その教師が担当していた授業で「1」@10段階をつけられたが。 後にも先にも体育で「5」@5段階を逃したのはその時だけである。 まぁ、他の体育と他の学期でフォローして年間成績は「5」@5段階にまとめたが。 すばらしい、僕。 そんな恥ずかしい過去はさておき、他のクラスでまんまと捕まって停学をくらった奴がいたと聞いた。 それがK林だった。 同じテストでカンニングを見つかった同士なのに、停学を食らわなかったということがなんとなく後ろめたく、そのことは結局いえずじまいだった。
確か去年の今ぐらいだったと思う。 親友O村が結婚すると教えてくれたのは。 デキ婚だとはいえ、あの二人が一緒になってくれたというのは、僕としても非常に嬉しかった。 あまりの嬉しさにつき、「結婚おめでとう」を名目とした小さな飲み会を催した。 僕、M来@前彼女、O村夫妻、Y永、そしてK林のこじんまりとした会ではあったが。 当初の予定では、K林はカウントしていなかったのだが、なんとなく会いたくなったのでY永に呼んでもらった。 楽しかった。 でもそれがK林と一緒に飲むことができる、最後の機会になるとは予想だにしていなかった。
8月の初旬も終わり、天気も良かったある日のことだ。 営業で外をまわっていた時、Y永から電話がきた。 --------ぴろぴろぴろぴろ(TEL音)------- 僕 「いようっ♪こないだはどーもー♪どーしたぁ?」 Y永 「あのさ、これ、マジな話なんだけどさ・・・。」 僕 「おうっ。なんじゃい。」 Y永 「K林が・・死んだらしいんだよね。」 僕 「・・・・・・・・はぁ?・・・・はいはい。で?なに?」 ―この間、飲んだばっかりじゃん。んなわけねーだろ。デマこくんじゃねーよ。何年の付き合いだと思ってるんだよ。騙されるかよバーカ。― そう言おうとした。しかし、帰ってきたのは真剣な声での信じられない返事だった。 Y永 「いや・・・マジで。北海道で単車で事故って。」 僕 「・・・・・・・・・・・へ?ええええええええええええええええええええええええええええええっっっっっ!?!?!?」
そのときの状況では、Y永も詳しいことはよくわからなかったらしいのだが、N倉という友人が何気なく某新聞の地方欄を見ていてK林の名前を発見したそうだ。 N倉も信じられず、K林の実家に電話をしたらしいのだが、実家のご家族も確認をしに北海道に飛んだらしい。 詳しいことはそれ以降、ということだった。 Y永やN倉はK林とメールの交換をしており、北海道に単車旅行をしていたのを知っていたそうだ。 北海道からのメールは前日の夜のものが最後となっていたという。
・・・・・・・・嘘だろ?信じられねぇよ。 K林の携帯を鳴らしまくった。 絶対嘘だって。だって、鳴ってるじゃん。ぷるぷるぷるぷるーって。 もうすぐ出るよ。「なんじゃーっ!」とか言って。いつもの調子で。 電話は鳴りつづける。 でも、ずっとK林が出ることは無かった。
数日の後、しめやかに葬儀が行われた。 車との接触事故で打ち所が悪かったらしいとのことだった。 顔を見た。 寝てるみたいだった。 もともと地黒なのにおしろいのせいか少し白い。 手を触った。 堅かった。 冷たかった。
泣いた。 我慢しようと思ってたけど、我慢できなかった。 もう、なにがなんだかわからないけど泣いた。 多分、悔しかったんだと思う。 何に?って言われるとわからないけど。 悲しい気持ちとともに悔しい気持ちもあった。 棺の中に入れるのだろうか、一言書いてくれってみんなに紙が渡された。 「先にいなくなった君はずるい。よって僕より先に他の友人がしなないように見守っといて」 そんな感じのことを書いたと思う。
もうすぐ1周忌だ。 やすらかに眠らせるのは悔しいので寝かせない。 「寝ちゃだめぇゥ」 って具合に。 会いに行こう。君に。 あの頃のようにみんなで酒でも飲もう。 あの頃のように。
・・・夢ならいいのに。
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