第9話 人生最大の敵
人生最大の敵、それは僕にとっては父親である。 そんな親不孝な、という話などもあるだろう。 確かに僕も「親父なんか大嫌いだ」ということを言っている友人には「そんなこと言っちゃいけないよ」とフォローをとりあえずはいれる。 無論、状況によっては何もいえなくなる場合もあるが。 僕が父親からうけた傷など大したことはないことは自分で重々承知している。 しかし、奴に関して言えば僕のツボをいい感じで刺激し、むかつかれ道を驀進している。 生理的にむかついてしょうがない、藤原紀香・細川ふみえとタメを張るぐらいなので、ある意味すごいことである。
奴にはそもそも根性が無い。 根性なしの僕に根性がないと言われるあたり、よっぽど無いことは理解いただけると思う。 学力は確かにあると思う。物知りだし。その点に関してだけは尊敬に値する。 しかし、人間的にとでも言おうか、根本的に頭が悪い。 根性なしで根本的なバカ。 父親としての素質はゼロである。
僕が小学校の頃だった。 小さいながらも自分の会社を持ち、一応なんとかやっているかのように見えた。 しかし、裏ではギャンブルに狂い、フィリピン人の女を買い、借金だらけであった。 しかもその借金を苦にし、死ぬなどとのたまって死のうとしている直前だと電話をかけてきて、まんまと説得されて戻ってくる。 かっこ悪いったらありゃしない。 恐いんだったら自分で死のうなんて考えてはいけない。 若い子ならまだわかる。 だが、一家の長であり、かつ数人の社員を抱える仮にも社長たる人物がそんな根性なしで無責任な行動をするべきではない。 さらに、その借金を返すべく、母が夜の店をはじめ、大して好きでもない酒を飲みながら、大して上手くも無い歌を歌って、日本人の癖に何を話してるんだかわからないおっさんや同じ事を何度も繰り返して話す九官鳥のようなのを相手に頑張っているのにもかかわらず、バブルの崩壊のせいと社長をやっていたちっぽけなプライドを掲げ、勤めに出ることを嫌い、パチンコ店にいりびたる。 救いようが無い。 わけのわからないプライドに縛られるのではなく、一家を支えるべき大黒柱としてのプライドを持つことができないあたりで彼の尊敬される父親像への夢は絶たれている。 ある意味同情の余地はある。なんでそこまでバカなのかと。
時は流れて僕が高校生の頃だった。 東京都とはいえども片田舎でスナックをやっているので、お客さんとのコミュニケーションは大切だ。 母親は、お店の女の子・・・とはいっても母親と同い年ぐらいではあるが・・とお客さんと1泊2日の旅行に出かけた。 その日、奴は高速道路で運転ミスのため、壁に激突。車は大破。奴は無傷。 「なんでオレはついてないんだ。」 などと言い出して、またバブルがうんたらかんたらとはじまって、自分がついてないということを語りだした。 お前の息子として生まれてきた僕のほうが運がない、とでもいってやろうかとも思ったが、優しい子なのでやめておいた。 酒も入りウザくなってきたので、翌日の試験を理由に僕は自室に戻った。 数時間の後、母が帰ってきた。 被害妄想の塊と化している奴は、その旅行がみんなでいく旅行と言うのはカモフラージュで実は不倫旅行であると勝手に思い込み、母が帰ってきた途端キレまくっていた。 飲みかけの酒をぶちまけたり、怒鳴ったりである。 しかも夜中の3時ごろだ。非常識極まりない。 その時、必死にカンペづくりをしていたのだが、うるさくて集中できない。 あまりにむかついたのでその夫婦ゲンカの間に入っていって、テーブルを蹴った。 これが運悪く、食器棚のほうにすっとんでいって食器棚の中の皿やカップが割れる割れる。 この行動がどうやら頭に来たらしく、奴は僕に対してキレだした。 「お前はどっかにいってろっ!関係ないだろうっ!」 カチンときたので、 「はぁ?んじゃ、僕は誰の子供なんですかねぇ。おそらく不本意ながらあなたがたの子供ですよね?ってゆーか逆に、あなたがたのせいで生まれてきたんだから関係ないはないんじゃないっすかねぇ、人として。違いますかね?運悪い運悪いって、あなたの息子として生まれてきた俺のほうが運が悪いんじゃあないっすかねぇ。その辺を含めて、もちろん理解してて、さっきのオレに対する暴言を吐いたんですよねぇ、オトウサマ?そうなんですよねぇ?自分でいつも頭がいいとおっしゃってらっしゃるオトウサマでしたら、もちろんわかってるんですよねぇ。ま、とりあえずわかったよ、それはオレに死ねってことだよな?じゃ、お達者で。」 と言い、ベランダから身を乗り出してみた。 すると、小心者のビビって僕を羽交い絞めにした。 たかだか4階から飛び降りるぐらいじゃ死にゃしないって。これだから根性なしは。 しかし、この僕の脅しの行動でどうやら奴らは反省したらしく、外に話し合いにでかけた。 静かになったので僕はカンペを作成し爆眠させていただいた。 翌朝、奴は荷物をまとめて出て行った。 余談ではあるが、妹君はこの事件に全く気づかず、すやすやとおやすみになっていらっしゃった。
しばらく後、奴は再婚した。 相手はまんまとフィリピーナである。そんなにフィリピーナが好きなんだろうか?悪いとは言わないが、センスに欠けるとは思う。 外人だったらやっぱり北欧系でしょう。綺麗な子が多いですよね。 別に僕はマザコンというわけではないが、実際にその相手の女を見たところ全然うちの母親のほうが見れる顔をしている。 まぁ、きっと奴の趣味はあんなのなんだろうということで納得した。 いま奴には男の子供が2匹いる、ここまではまぁいいとしよう。 しかし、向こうの長男に僕の本名から一画ぬいただけの名前をまんまとつけるとは何事だろうか。 籍は外したとしても、仮にも血のつながりがあるというのに、僕の気持ちもわからないんだろうか? 気配りにかける。頭悪い。なんでまだ生きているんだろう。 憎まれっ子世に憚るとはよく言ったものである。 それを伝名で聞いたときかなりの勢いでキレそうになったが、大人なのでやめておいた。 「余計な部分がなくなっていい子に育つんじゃん?」 と言ってあげる辺り、僕も大人になったなぁと思う。
こんな最悪な父親だが、どうやら僕は父親似である。 特に顔なんかかなりの勢いで似ている。 むかつく。 写真に写るのがキライなのはそのせいである。 見るたびに奴のことを思い出し、はらわたが煮え繰り返りそうになるのを我慢せねばならない。 僕のこの思考回路が父親側のDNAなのか母親側のDNAなのかはわからないが、父親の遺伝子を組むことなく今の僕になれたら、思う。 僕という生命が誕生する前の25年前に戻りたい。
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