「久遠に白き鮮血」のその後の展開

 

-11-

狂宴は唐突に終わりを迎える。

偶然、このレストランを訪れたルフィ達が、クロークに預けられたゾロの刀を発見したのだ。

最初はレストランの客の中にゾロがいると思って探していたルフィ達は、レストラン側がそんな客は知らないと返答したことで何かあったことに気づき、ゾロを出せと暴れだす。

騒ぎは地下の男達にも連絡がいき、男達は新たな賞金首を捕らえるべく、地下室にピアノ弾きだけを残して去っていく。

残されたピアノ弾きは、「サンジ…あなたを決してお仲間の元には返しませんよ」と呟きながら、サンジを犯し続ける。

サンジはすっかり快楽に従順になっている。

「レストランに麦わらが現れた」という報を聞いても、反応一つしなかった。

それどころか、自分を陥れたはずのピアノ弾きに対して、甘えるように仕草すら見せている。

絶望しかけたゾロの目に、ピアノ弾きにフェラチオをねだるサンジの姿が写る。

 

 

ピアノ弾きが嬉々としてサンジの股間に顔をうずめようとすると、サンジのしなやかな白い足がピアノ弾きの首に巻きついた。

淫靡なその仕草に、思わずゾロが目をそらそうとした次の瞬間、サンジがピアノ弾きの頭を太股でロックしたまま、くるりと体をひねった。

二人の体が反転する。

 

ごきん。

 

何かが折れる、鈍い音がした。

 

ゾロが目を見張る。

 

「さんざんイかせてくれた礼だ…。天国にイかせてやるぜ。」

高い嬌声ではない、聞き慣れた、低い掠れた声がした。

ふらりと、白い裸身が立ち上がる。

 

「コック……!」

 

足元はややおぼつかなかったが、そこには紛れもなく麦わら海賊団の戦闘員としてのサンジの姿があった。

 

 

サンジはよろけながらゾロの檻へと近づく。

「血まみれじゃねぇか。ダセェ。」というサンジに、「急所は外れてる。問題ねぇ。」と答えるゾロ。

サンジが檻を蹴りつけるが、散々陵辱された後ということもあり、うまく足に力が入らない。

自分の足に叱咤しながら、サンジは檻の鍵を探すが見つからない。

やがて、ピアノ弾きが持っていた銃と火薬袋を見つける。

火薬袋の中の火薬を、檻の錠前の穴にいれるサンジ。

「何をするつもりだ?」と聞くゾロに、「まァ見てろ。邪魔だから隅の方にでも行ってろ。」と答えるサンジ。

言われたままにゾロは牢屋の隅に退避する。

サンジは、既に裂かれてぼろぼろになっていた自分のシャツを更に裂いてこよりを作り、錠前に差し込む。

そして、スーツのポケットから愛用のライターを取り出して着火。

小爆発が起きて、錠前が跳ね飛ぶ。

檻が開く。

「早く出ろ、行くぞ!ルフィ達が来てる!」とせかすサンジ。

後ろ手の手錠の鍵はないのかというゾロに、そんなもん自分で何とかしろ、俺なんか服がねェんだぞ!とサンジは怒鳴る。

二人で地下室を出ようとすると、首の折れたピアノ弾きが息も絶え絶えの様子なのにドアの前に立ちふさがろうとする。

どかないと本当に殺すぞ、と、ピアノ弾きに告げるサンジ。

 

 

しばし、ピアノ弾きはぽかんとしたような顔をサンジに向けていた。

己の首があらぬ方向へ折れていることなど、気がつきもしていない様子ですらあった。

やがて、ピアノ弾きの唇が、笑みを形作る。

「ふふ…ふふふふ……ふふふふふふふふ……。」

いかにも楽しげなその笑いには、はっきりと瀕死の喘鳴が含まれている。

「…何がおかしい…?」

サンジが無表情で尋ねた。

「ふ……ふふふ……ふふふふふふふふふふふふふ……」

ピアノ弾きは常軌を逸したように笑い続ける。

「ああ、やっぱり…神は自分の愛した者だけの祈りを聞き届けるんだな……。」

歌い出しそうなほど明るく言い放ったそれには、ぞっとするような絶望が滲んでいた。

「…何?」

「…神の物を横取りしようとしても…やはり無理か…。ああ…ああ…綺麗だ…。綺麗だよ、サンジ…。最後まで…汚れないままだったね、サンジ…。貶めても貶めても…気高く美しい……。」

男の声の、絶望の深さに、サンジは小さく息をついた。

「てめェが何をしたかったのか…俺にはさっぱりわかんねぇ。」

怒りよりも、困惑の響きが強いサンジの声を聞いて、ゾロは、本当にこいつは甘い、と思った。

 

「愛してるよサンジ。」

 

ピアノ弾きが言った。

今までピアノ弾きを包んでいた狂気からは比べ物にならないほど、真摯な、一途な想いが吐露した、一言だった。

「愛して愛して愛して…今ではもう憎悪と見分けがつかなくなってしまった…。」

そしてピアノ弾きは、まるでサンジを抱きしめるかのように大きく両手を広げた。

 

「さあ、君の手で僕を殺しておくれ。」

 

うっとりとした、狂信者の願い。

 

「ふざけんな。何で俺がそこまでてめぇに優しくしてやらなくちゃならねぇ。」

 

だがサンジはそれを一言の元に切り捨てた。

端で聞いていたゾロも思わず瞠目する。

ピアノ弾きが、愕然として青ざめる。

「なん…なんで…?」

 

「生きろよ。生き続けろ。」

 

或いはその言葉も、サンジの優しさから出た言葉だったのかもしれない。

だがピアノ弾きは、その言葉を聞いた瞬間、呆然としたまま、力尽きたようにその場に座り込んだ。

 

「そんな…ころしても…ころしてもくれないのかい…。ぼくは…きみにあいしてももらえない…ころしてももらえない…。どうして…いつもぼくだけが…ぼくだけが……………。」

 

ピアノ弾きの体は、サンジが足先で転がすように蹴飛ばしても、もう自分では動こうとする気配を見せなかった。

ピアノ弾きの体をまたいで、サンジが全裸のまま地下室を出ていく。

続いて後ろ手に拘束されたままのゾロが同じようにピアノ弾きの体を跨いだ。

ゾロが部屋を出て行く時、ピアノ弾きがぶつぶつと「どうして…ぼくだけ…」とまだ呟き続けているのが聞こえた。

 

 

 

 

その頃、オーナーはレストラン最上階のオーナー室で優雅にワインを飲んでいた。

レストランに賊が侵入した事は、まだ知らされていなかった。

普段ならばわざわざオーナーに連絡するような事ですらないほどの、些事だったのだ。

 

それにしても、とオーナーは思う。

私とした事が、うっかり我を忘れてしまうところだった。

 

大切な商品にピアスを開けようとするなど、普段の自分では考えられないほど失態だった。

そもそも、思い起こせば、あの薬を打ったのだって、既に明らかに“仕事”を逸脱していた。

客の中には、人工の女を好むものもいるが、少年の姿のままを好むものもいる。

本来なら、性奴隷としてあの金髪の体を仕込むだけでよかったのだ。

あの薬を投与するなど、買い手がついてから客の注文に応じてやるべきことのはずだった。

 

なのに、止まらなかった。

 

あの金髪を目の前にして、自分の中にマグマのように膨れ上がった凶暴なほどの嗜虐心を抑えることが出来なかった。

 

─────あれは危険だ。

 

数多の商品を扱ってきた“オーナー”の目は、サンジの資質を正しく見抜いていた。

 

あれは磨けばとんでもないシロモノになる。

 

触れる者を皆、狂わせずにはいられない、魔性の生き物。

高級娼婦や花魁の太夫、といった最高級の女達に備わるべき特有の性質が、あの金髪には備わっている。

女なら早くに自分のそれに気がついて、男を手玉に取るような狡猾でしたたかな美女に成長していくのだ。

だがあの金髪は、自分の中に宿る魔性に全く気がついていない。

恐らくは今まで、無意識のうちに、男を惹きつけ、狂わせてきたことだろう。

無邪気に見える微笑みひとつで。

 

何人の男があの金髪に心を奪われ、何人の男が道を誤った?

何人の男の人生を狂わせてきた。

 

あのピアノ弾きがいい例だ。

あの男は完全に狂っている。

 

 

顔立ちそのものは絶世の美形というわけでもない。

顔の造作で言うなら、ロロノア・ゾロの方がよほど整ったいい男だ。

ロロノア・ゾロの、あの切れ長で二重の瞳や、引き締まった口元は、女なら誰でも惹かれそうな典型的な美形だ。

筋肉の乗った逞しい体を犯すのが趣味な男共にもいい獲物だろう。

あれもいずれ、もう少し弱らせてから存分に調教してやろう。

 

だが、ロロノア・ゾロに比べて、あの金髪の容色はそれほどでもない。

小作りでシャープな輪郭をしてはいるが、瞼は一重で目つきは悪いし、眉はぐるぐる巻いていて冗談のようだ。

不細工ではないが、それほど際立った美貌があるわけでもない。

どこにでもいるようなごく普通のチンピラといったところだ。

だが妙に人目を惹く。

天性の華のようなものがある。

それがあの金髪を、不思議に魅力的に見せている。

歳の割りにやけに幼い表情をするのもいい。

海賊の息子などろくな育ち方をしていないだろうに、まるで苦労を何一つ知らないかのような、頭の足らないボンボンのような、無垢な顔をしてみせる。

そのくせ過酷な調教にも決して屈しようとしなかった。

あの気の強さはいい。逸品だ。

加えて、金髪碧眼、という素地の良さ。

さらさらと指になじむ蜂蜜色の髪に、空と海のグラデーションをそのまま映したような美しい青い瞳。

金髪碧眼はただでさえ高く売れるのに、ノースブルー特有のきめの細かいなめらかな乳白色の肌。

あの肌の手触りに、狂わない男がいるか?

おまけに、あの肢体。

 

最初にサンジを16〜7と見誤ったのは、なにもその童顔からばかりではない。

あの体は、青年の持つそれでは全く無かった。

かといって、子供っぽいと言うのでもない。

恐らく成長期に、きちんと成長できない阻害要因があったのだろう。

少年のような未完成な体のまま、手足だけが伸びて、危うい造詣をそのままそこにとどめてしまっている。

あれは恐らくあのまま月日を重ねても、完全な男の体には育つまい。

ギリシャ彫刻のような完成された筋肉でオスのフェロモンを撒き散らす剣士とは実に好対照だ。

男の体でもなく、子供の体でもなく、ましてや女の柔らかさなど微塵もない、まるでセクスレスの人形のような、中途半端な、できそこないの、美しい生き物。

 

 

あれに嵌まったら、間違いなく生半可なドラッグよりもぼろぼろにされる。

 

そして、あの金髪が、自分の内に潜む魔性に完全に目覚めたら。

 

もう恐らくあの金髪は人間ではなくなる。

完全に闇の生き物になるだろう。

 

淫魔という名の。

 

ぞくり、とオーナーの背筋を戦慄が走る。

それは喜悦にとてもよく似ていた。

 

磨きぬいてみたい。あの生き物を。

売ったりなどせず。

アレを手元において。

心ゆくまで磨きぬいてみたい。

 

あの金髪に対して、恐ろしいほどの執着が芽生えている事を自覚する。

 

脇も脛も陰毛も、全て永久脱毛してしまって。

性器を切り落として。

完全に性のない生き物にしてしまいたい。

性など超越した美しい美しい人形に。

美しく清らかな、けれどどこまでも淫らな、絶世の精液(ミルク)飲み人形に。

 

あの後孔をもっと拡張してやろう。

あの後孔は芸術品のようだった。

無理やり拡張したのに裂けもしなかった。

赫足直伝の足技のせいだろう。

カモシカのように鍛え上げられているくせにしなやかで柔らかな筋肉が、奇跡のような名器を作り上げていた。

狭く小さいのに、柔らかく広がって、男を迎え入れる。

ぬめる直腸は、膣など比べ物にならないほど具合がよかった。

ひくひくといやらしく蠕動して、男の精も根も吸い上げてきた。

中にぶちまけた瞬間、まるでそれを飲み干そうとしているかのように、急激に締め上げてきて、全身で絶頂に登りつめていた。

イッた瞬間の、淫らなくせにどこか幼い顔といったら、魅入られずにはいられなかった。

 

あの後孔はもう排泄器官などではない。

性器だ。

もっともっと淫乱な孔に育ててやろう。

あの孔はもう排泄などしなくていい。

どんなサイズの雄も飲み込む、貪欲な孔に変えてやる。

腕でも頭でも飲み込めるほどの孔に。

 

そして苦痛と快感にひいひいと泣き喚く姿こそが、最も美しく最も淫らな人形に、育てるのだ。

触れる男を一人残らず、破滅に導く、禍々しく無垢な、魔人形に。

 

いったいどんな魔物に変貌を遂げるのか。

 

その一方で、頭の中で警鐘も鳴る。

 

アレに囚われたら、恐らく完全に狂う。

きっと何もかもを捨てて、アレにのめりこんでしまう。

地位も、富も、立場も、全て捨ててアレに入れ込んでしまうだろう。

 

その末路は、破滅だ。

 

あれに囚われて、それでも尚自分を保てるほどの心力の強い人間など、そうはいない。

 

なるほど…。

だから、“赫足”に、“麦わら”に、“魔獣”、か。

 

それほどの男達でなければ、あの魔性の生き物は飼っておけないと言うわけか。

 

一級の男でなければ手に入れられない、極上の人形。

 

 

 

プルプルプルプル

 

いきなり卓上の電伝虫が鳴った。

 

「おー…な…、さんじが、にげた…」

あのピアノ弾きの声だった。

 

「何だと!?」

 

2012/06/29

 


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