『かさぶた。』
【4】
コックが怪我をした。
ルフィとナミを庇って、雪崩の中、岩に激突した。
「アバラ六本と、背骨折った…だと?」
ゾロの全身に、戦慄が走っていた。
「いや、背骨は最初はヒビで、折ったのはドクトリーヌ…」
可愛らしいトナカイの説明も、耳に入らなかった。
目の前でぐったりと横たわっているコックに、幼き日の、くいなの死が重なった。
ぞくりとした。
アーロンパークでだってそうだった。
鷹の目との戦いを「屈辱の敗戦」と揶揄したくせに、「大怪我人」と挑発したくせに、そのゾロの傷を誰よりも心配して、戦いの最中だというのに、サンジは何度もゾロによそ見をして、魚人に張り倒されていた。
張り倒されながらゾロを庇った。
ゾロを気遣い、ゾロを制して、ルフィを助けるために、何の躊躇いもなく水中に飛び込んだ。
自身だって傷だらけだったのに。
すうっと、ゾロの胆が冷えた。
きっと。
きっとサンジは、いつか、誰かを庇って死ぬ。
ゾロにはそれが、手にとるようにたやすく想像が出来た。
コックが死ぬ。
目の前からいなくなる。
自分の知らないところで。
誰かを庇って。
きっと、口元に笑みすら浮かべて。
────怖ェ。
刹那、ゾロの体を貫いたのは、「恐怖」だった。
それは生まれて初めて感じる、明確な喪失の恐怖だった。