第2話 「NERV就職」

-2011年 4月10日 12:00 第3新東京市病室−



 300人を超える大規模事故の生存者…と言う事になった俺 …幸いにも怪我はほとんど無く、わずか1週間で退院できた。

 それは嬉しいのだが、この1週間、俺はこれからの事に迷いに迷っていた。

 新聞・TV・ラジオ・インターネット…とにかくあらゆるもので調べてみた。



 すると、やっぱりこの世界は2012年…俺が生きていた(?)1998年よりも14年も先なのだ。

 とにかくこの世界の事を暇な患者のために病院で貸出しができたパソコンでひたすら調査した。

 …そして、大変な事がわかった。



 この世界、新世紀エヴァンゲリオンで2000年に起きた『セカンドインパクト』が実際に発生しているのだ。

 幸いにも持っていたかばんの中に『新世紀エヴァンゲリオン』の本が入っていた。

 何度も何度もそれを読み返してみる。

 …その結果、まずこの世界にNERVが存在しているのかに俺は非常に興味を持った。

 もし、存在するならば2016年に世界は滅びてしまう。

 なんの権力のない俺では不可能かもしれないが、できればそれを防ぎたい。

 だが、一般のインターネット上に秘密組織であるNERVの事がかかれているわけも無い。

 …俺には事実の確認のしようがなかった。



 それに、よく考えてみれば、そんなかっこいい事より、身近な問題が心配がある。

 …入院した後のこれからの生活である。

 なにせ、いきなり2011年の世界にタイムスリップさせられてしまったので、金の収入を得るあてがまったくない。

 …よく考えてみれば、この病院に払う入院代のお金も1円たりともないのだ。




 焦りに焦った俺だが、インターネット上に得意のプログラミング関連の仕事があるのを見つけた。

 『K23型』と言う最新のウイルスのワクチンを作れば100万円の報酬が得られるのだ。

 …他の事はともかく、俺はプログラミングについては世界でも間違いなくTOPレベルの実力を持っているという自信がある。

 なにせ、俺はほとんど人間と変わらない自己進化型AI、『NO30』(難波サーティ)を作った男なのである。

 …ウイルスを詳しく調べている内にすぐわかった事がある。

 …この『K23型」と言うウイルス、以前、俺がワクチンを開発した『ベータ4』と言うウイルスによく似ているのだ。

 結果、わずか3日にしてワクチンを作る事に成功して無事報酬を得た。



 退院した俺はまず、得意のパソコン関係の仕事を探す事にした。

 同時に当分の収入を稼ぐため、セカンドインパクトで壊れたビルを建て直す土木工事の仕事をした。

 …実は就職先があるのかと内心ひやひやしていたのだ。

 だが、意外にもセカンドインパクトが起きた事により、逆にその再建のための仕事が山ほどあり、人手不足だということがわかった。



 …そう言えば、環境問題の悪化もセカンドインパクトが発生した事により、かなり改善されたようだ。

 地球の地軸も変わり、日本は常夏になってしまっていた。

 しかし、ロシアは、気温が上がり、広大な土地が1年中自由に使えるようになり、農業生産力が飛躍的に向上したらしい。

 …世の中、なにが幸いするのか?…わからないものである。

 路上生活でホームレスとなってしまって、それなりにつらい目にもあったが、なんとかパソコンを買う金をためた。

 …これさえあれば占めたものだ。

 俺はインターネット上でその腕を次々と披露した。

 …しかし、初めの内はホームレスと言う事で住所が無く、仕事に成功しても報酬を得る事ができなかったが。

 だが、日本政府が俺達、ホームレスのためにつくった仮設住宅ができるとそこに入居する事ができた。

 そのため、住所ができ、報酬がちゃんと手に入るようになり、俺はどんどん貧乏から脱出して行った。



-2012年 7月10日 10:05 仮設住宅−



 あの謎の事件から1年が過ぎ、『パソコン魔王』のハンドルネームでインターネット上ですっかり有名になった俺。

 金の心配はなくなって生活も安定して来たところで、そろそろマンションでも借りようかと思っていた頃だった。

 『すいません。こちらに神戸ひとしさんと言う方にお会いしたいのですが』

 チャイムすらない仮設住宅のため、窓を叩いている音が同時に聞こえた。

 …どこかで聞いた事のある声だと思ってドアをあけると…髪を金髪に染めた女性がいた。

 …その女性を見ると俺は驚きのあまり眼鏡から目が飛び出しそうになった。



 …間違いない、新世紀エヴァンゲリオンの世界に出てきたあの赤木リツコである。



 とりあえず動揺を隠し、冷静な対応をしなければならない。

 「はい、俺が神戸ひとしです。…すみませんが、どなたでしょうか?」

 「突然の訪問、失礼します。私、NERV本部の技術部長赤木リツコと申します」

 そう言って右手を伸ばし俺に名刺を渡すリツコ。

 「はぁ、それでいったい俺になんの用でしょうか?」

 「あなたのインターネット上でのすばらしい功績に感動しまして…ぜひ、私達NERVにスカウトしたいと思いまして」

 俺は驚きのあまり目を丸くした。

 …これはまったく思いもよらない幸運だ。

 NERVの存在が確認できたし、サードインパクトが防げる目がわずかながら出てきたかも知れない。

 「と言う事は、俺をパソコン関係の仕事で正社員として雇ってくれると言う事ですか?」

 「はい。正社員と言うのはちょっと違いますが。NERVの仕事についてはこれを見てください」

 リツコが机の上に資料を出す。

 さっそく、それを読みと、NERVは使徒を倒す秘密組織である事がしっかり書かれていた。

 ただし、エヴァンゲリオンの事など、重大な機密はさすがに書かれていなかったが。



 「…これを見た限りでは、かなり軍事組織に近いようですね」

 「はい。正確には半軍事組織と言ったところです。ですから上の命令には絶対従わなければいけませんが」

 「それで俺には具体的にどんな仕事をくれるんですか?」

 「スーパーコンピューターMAGIの点検や改良等のスタッフになって頂きたいと思います。階級は三尉になりますが」



 …要するにリツコの部下になって欲しいと言うわけか。

 三尉と言えば、後に使徒戦でオペレーターとして活躍することになるマヤや日向より、1つ下の位となる。

 大学すら出ておらず、低学歴の俺には異例の大抜擢と言う事になる。

 「いきなり三尉ですか、それはお受けしないと損ってもんですよ」

 「ありがとうございます。ではこの書類に判を」

 俺は迷わず、言われた通り、その場で文書にサインをした。

 (…なんとしてもこの世界で起きるサードインパクトを防ぎたい!)



-2015年 6月25日 18:00 NERV作戦室−



 俺がNERVの一員になったあの日から3年がたった。

 今までの活躍が見とめられ、俺は三尉から二尉に昇進した。

 …そして、ついに今年になって、始まった使徒戦。

 …それは俺が隠し持っている『新世紀エヴァンゲリオン』の漫画本と同じ経過をたどっていた。



 『第3使徒サキエル』

 使徒に対する通常兵器の攻撃はまったく効かなかった。

 碇シンジが碇ゲンドウの突然のEVAの搭乗を承諾。

 ネルフは初の実戦を経験、エヴァは戦闘行動中に暴走する。

 しかし、逆にこれが幸いとなり、EVAは使徒を殲滅する。



 『第4使徒シャムシェル』

 エヴァ初号機2回目の出撃。

 作戦中に外部電源にアクシデントに見舞われるが…

 碇シンジの独断の命令違犯が運良く成功し、

 コア以外の原型を留めた使徒のほぼ完全なサンプル入手。



 『第5使徒ラミエル』

 エヴァ初号機を出陣させるも、敵の過粒子砲に撃沈される。

 難航不落の目標に対し、葛城一尉はヤシマ作戦を提唱。

 碇司令はこの作戦を承認。

 綾波レイが、凍結解除されたエヴァ零号機で初出撃

 NERVが戦略自衛隊から強制徴発した…

 ポジトロンライフルは初弾が外れるも2発目が命中。

 エヴァ零号機が大破も使徒は無事殲滅。



 …リツコに呼ばれ、先にNERV作戦室で待っていた俺にようやく当のリツコが部屋に入ってきた。

 「待たせたわね、神戸二尉」

 「いいえ。…それで赤木博士、用事と言うのは?」

 「今度、弐号機を艦船で輸送して、NERV本部に来るのは知ってるわよね」

 「は、はい」

 …JA事件も終わり、ついに主力のチルドレンの3人がそろう。



 「可能性は低いけど…弐号機を狙って使徒が艦船に攻めてくるかもしれないわ。

 …もし、そうなったらあなたにEVAのデータを取って欲しいの

 本部に使徒が来る可能性もあるから私が艦船まで行くわけにはいかないし」

 「わかりました」



 …可能性が低いと、リツコは言っているが、それは嘘だ。

 ましてや、本部に使徒が来ない事も知っているはずだ。

 …新世紀エヴァンゲリオンの本から推測するとたぶん彼女は艦船に第6使徒が攻めて来るのを知っている。

 もし、そんな事を俺が知っているのがバレたら……俺は間違い無く殺されてしまうだろう。



 …だから、今は俺の秘密を話すわけにはいかない。

 いつ、誰に、新世紀エヴァンゲリオンの本を見せるのか…。

 これが、サードインパクトを防ぐ重要な鍵となるだろう。



 「ところで…。あなた、どうして前の使徒が過粒子砲を撃って来るのがわかったの?

 EVAを出撃させる前にダミーバルーンを出せ…なんてえらく手際がいいわよね

 結果的にはミサトはあなたのアイデアを採用しなかったけど」

 …この質問には、正直かなりビビった。

 …だが、俺の正体がバレるはずはない・・・とにかく俺自身が平常心になるように意識する。

 「えっ…いや、別にそんな事まで予想できたわけじゃないですよ…

 ただ、葛城一尉が敵の様子見もせずにいきなりEVAを出すから…」



 「それはそうよね。…まぁ、いいわ」



 …このリツコの言葉はなにやら意味ありげな感じがする。

 そして、リツコはふっと、何やら俺に妙な迫力のある笑顔を見せた…。

 …この女、予想以上に勘がいい…注意しなければ、まずい事になる。

 …俺はつくづく、そう思った。



 「それで、今度来る、新しいパイロットってどんな子なんですか?」

 「とっても元気な子よ。…14歳なのにもう大学卒で、操縦センスも抜群よ」

 「…それは、楽しみですよ」



 まだ、アスカとは実際に会っていないので、俺が知っている通りの女の子かどうか?

 それはまだわかならい…。

 だが、今まで、俺の存在以外、歴史通り進んでいる事を考えると…

 恐らく、新世紀エヴァンゲリオンの本に出てくる少女とまったく同じと考えていいだろう。

 …そして、彼女には幼い頃、母親の自殺を見てしまった、重いトラウマがある。

 これを克服できなければ、第15使徒アラエルによって精神汚染でやられてしまう。



 …恐らくゼーレは彼女が精神的にぼろぼろになる事を狙っていたのだ。

 彼女だけではない。

 シンジ君も様々な事から精神的ダメージをおってしまい…それが最終戦で彼の行動を鈍らせ…

 サードインパクトの原因の1つになってしまった。

 綾波レイ…彼女も自分が人間に近づけば近づくほど・・・

 半分使徒である自分に酷い罪悪感を覚える事になるだろう。



 そんな、彼ら、チルドレンの精神を強くしなければ…。

 …もし、それができないのなら、サードインパクトを防ぐ事はできない。



後書き

 いつも、思うんですけど、文と文の間の間隔って、難しいです。

 あまり詰めすぎると見にくくなってしまうし……だからと言ってスペースを開けすぎると読み時のスクロールが面倒くさい。

 『読者に読みやすい文書』……これが、これからの課題です。


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