令嬢の決断



バチン!と言う音がして「はい、終わりましたよ〜」と言う声がした。

痛みもなかった。

何だ、こんなに簡単なら躊躇う必要なんて無かったかもしれない。

「このピアスはファーストピアスといって、開けた穴を固定させる為の物ですから、6週間ほど外さないで下さいね。それと消毒は毎日行って下さい」

私は消毒の方法を教えて貰って病院を後にした。

折角、彼に貰ったピアスがすぐに着けられないなんて・・・でも、仕方ない。

彼は私が着けていたピアスがマグネットだったなんて知らなかったんだから。

けれど、このファーストピアスを着けている間は彼に会えないわ。

次に会う時には彼から貰ったピアスを着けて見せたいもの。

あと6週間も・・・すぐに会うのは気まずいから、ちょうどいいのかも。

彼ったら、私が初めてだと知って凄く驚いてた。

酷いわ!いくら私から誘ったからとは言え・・・そんなに遊んでいる女に見えたのかしら?

・・・見えたのよね、きっと。

私は男の人を誘うどころか、付き合った事もないって知ったらどれほど驚くかしら?

だって、今までは忙しくてそんな暇なかったんですもの。

小さい頃からバレエだピアノだと習い事が多くて、思春期の頃は勉強が面白くて単位を取るのに夢中になっていたら、大学は早く出られたけどボーイフレンドは一人もいない状態。

ダサいガリ勉女だと言われたくなくて、オシャレだけは色々と研究したけれど、似合う服がシャープなスーツ系かセクシーなドレスだけって・・・どれだけ可愛くない女なの、私。

だって似合わないのよ!Tシャツとかジーンズとか、カジュアルなものが!

目が大き過ぎるから化粧をしないともの凄いベビーフェイスだし、化粧をするとシンプルなものやフリルを使ったゴシック系が全然似合わないんですもの。

着たいのに、フリフリレースのゴスロリファッションとか。

折角、ゴスロリの本場である日本に居るって言うのに手が出せないなんて!

日本語を習い始めたのはあの人が居るからと言うのが切っ掛けではあるけれど、日本語を教えてくれた人が使った教材が日本のアニメやコミックだったのが良かったのか悪かったのか・・・すっかり日本にハマっちゃったのよね。

お陰で、この10年間ですっかり日本語は読めるし書けるし話せる。

大学を出て、日本の大学院でMBAを取ると言ったら、周りの皆に呆れられたけど、やっぱり来て良かったわ。

理想の王子様に出会えたんですもの。

背が高くてハンサムで優しくて、騎士道精神にも溢れていて・・・最高にラッキーだったわ!

初めて会った時は、頼りなさそうな人だな、と思ったけど、失礼な態度を取った私に腹も立てずに冷静に対処していた。

弁護士と言えば自己主張が激しいから、嫌いな人種なんだけど、彼は押し付けがましい所が無かったし。

弁護士の卵かと思ったら、あの人の秘書だと言う。

そしてあの時、酔っ払いに絡まれて困った私はつい英語で叫んでしまったから、誰も助けてはくれなかった。

日本人の英語コンプレックスには困ったものだけど、私が日本語で話し掛けても「あいきゃんのっとすぴーくいんぐりっしゅ」とか言う始末だし。

そこへ現れたのが彼。

本当に白馬に乗った王子様みたいだったわ。

鮮やかに酔っ払いを退治して、私を送ってくれた。

花を贈ったり、食事に誘ったり、酔った振りをして誘ってみても紳士だったし。

もしかしたらゲイなのかしら?と疑ったけど。

イイ男ほどゲイなのが向こうでは常識だし。

その後も電話をしても連絡が取れなくて不安になっていたら「海外に居た」と言うからホッとしたけれど。

もう会うのも嫌がられているのかと思っちゃったから。

2回目の誘いにも応じてくれて、嬉しかったわ。

そうそう、名前の話をした時の彼の顔と言ったら・・・凄く可愛かったわ!

ちょっと拗ねたような顔をして・・・メイって呼ばせて欲しかったのに。

必死の覚悟で彼の手を掴んで誘ったら、今度は彼も応じてくれたし。

バージンがばれて途中で帰っちゃったけど、私に海外出張のお土産をくれた。

可愛いピンクのピアス。

これって脈があるって事よね?

何とも思っていない女にお土産なんて買ってこないわよね?

私にキスした時も抱きしめた時も情熱的だったし、ゲイではないわよね?

バイかもしれないけど。

スーツが似合う彼が眼鏡を掛けたら、私のストライクゾーンど真ん中なんだけど。

理系の教師が似合いそうで・・・そして教え子の男子生徒と・・・うふふ・・・

はっ!ダメダメ!ちょっと危ない妄想に入りそうだわ。

すっかり毒されちゃってるわ、私。

もし、彼に私がこんなオタク女だと知れたら・・・でも、秘書って受けっぽい職業だし・・・

年下攻めもイイわよね・・・私にこんな無駄に大きい胸じゃなくてコックが付いてたら・・・彼を押し倒して・・・

・・・もう、ネットでBL小説読むのやめようかしら・・・

好きな人をネタに妄想するのはチョット・・・彼に知られたら引かれるわね。

と、とにかく、6週間は会えないんだから、その間に彼に忘れられない様に何か対策を施さなくては!

取り敢えず、バラの花は効くみたいだし、メールと言う手もあるわよね。

メールかぁ・・・何と言って送ればいいのか判らなくて、今まで送った事が無かったけど。

携帯にもメッセージを残す言葉が見つからなくて困ったくらいだし。

ああ、もう!完璧なつもりの日本語の語彙がまだまだ豊富じゃないのよ!私は!

別れ際に渡した車と部屋のキーは翌日にはポストに返されていたし、彼は帰り際に私に「火遊びは程々に」とも言っていた。

また会ってくれるか・・・不安だわ。

彼に遊びだと思われてもいいから、会いたい。

まずは、前回反応があった花束攻撃からだわ!





『・・・困ります』

案の定、彼は私に連絡を寄こしてきた。

「じゃあ、住所を教えて。今度はそちらに送るから」

そして彼のアドレスをゲット!

彼の部屋をバラで埋もれさせるなんて素敵よね。

でも、大量で困らせてもいけないし・・・1輪ずつと言うのも効果があるかしら?

聞いた住所によると、どうやら彼はご両親と一緒みたいだし、ルームナンバーがなかったから一戸建てに住んでいるのよね。

贈り主を問われて困るかしら?

彼のお父様経由であの人にも知られてしまう?

別に知られたって平気だわ!

疚しい事なんて・・・彼は困るかしら?

花を贈り続けて1週間後、彼からメールが届いた。

『来週から3週間、出張に出ます』

何よ、当分その予定はないって言ってた癖に!

でも、まだ会えないから丁度いいのかしら?

今度はどこに行くのかな?

またあの人の付き添いなのかしら?

無事に帰って来てくれるといいけど・・・出張中に彼の貞操の危機とかになったら・・・

彼は魅力的だし、男性にしては少し線が細いから・・・脱いだら意外と逞しいけど・・・

マッチョなゲイに迫られでもしたら危ないかも・・・

・・・だから、もう止めた方が良いと思うんだけどBL読むの・・・止められないかもしれない。

ヤキモキして待ち続けた3週間後、彼から戻ったとの知らせを受けてホッとする。

キチンと毎日消毒していたおかげで、ピアスも彼から貰った物が付けられるようになった。

いざ!今度こそ、彼をちゃんとイカせて・・・じゃなくて、彼に満足して貰えるようになりたい!

そう言えば、この前は彼は出張から戻ったばかりで疲れていたのかも・・・せめて翌日に誘って。

私は彼をいつもの場所に呼び出した。

桜木町は車を止める場所に困るんだけど、横浜ほど人混みが激しくないし、関内はスタジアムの傍だからイベントがあるとメチャクチャ混むのよね。

彼はいつもの様に10分前には来てくれている。

相変わらずマナーの良い事。

ただ、ちょっと人目を引くのが難点よね。

ホラ、彼をチラチラと気にして通り過ぎる女の多い事!

彼が待っているのはこの私よ!

私は物陰から彼を見詰めながら、約束の時間の10分後に彼の前に姿を現す。

「待った?」と聞きながら。

彼はいつもの様に「いえ」と答えてくれる。

う〜ん、紳士だわ。

「そう」

私は素っ気なく答えながら、今日はゼミの友人に教えて貰った中華街の店に行こうかと考えながら彼に背を向ける。

すると、彼が私の髪をふわりと持ち上げて耳元で囁いた。

「着けて下さったんですね」

その声のあまりの色っぽさに、私は顔が赤くなるのが止められなくなる。

そ、そそそそれは反則じゃなくて?

「・・・気に入ったのよ。あなたのセンスは悪くないわ」

必至で冷静な振りを取り繕うけれど、ダメみたい。

彼がクスリと笑う声が聞こえるもの。

「良かったです。気に入っていただけて」

ああ、もう!そんな顔をして微笑まないで!

食事なんてどうでもよくなってしまいそうだわ!

でも、彼をこのままホテルに連れ込んだりしたら、呆れられてしまうのは必至よね。

でも、でも・・・ホテルのレストランで彼を今日こそは酔わせると言う手もあるわよね。

いつも車の運転を気にして彼は飲まないから。

よし!ホテルのレストランにするわ!

一番近いのはあそこよね。

海外から戻ったばかりなら、フレンチや地中海よりも中華か和食が良いわよね。

和食は以前食べたし、やっぱり最初の予定通り中華が良いかしら。

個室も取れたし、ホテルの部屋も手配したわ。

酔わせるならビールよりも紹興酒?

お酒を勧めると、彼はやっぱり断った。

「大丈夫よ。部屋を取ってあるから。帰りの心配をしなくても」

私がそう言ってニッコリ笑うと、彼は困った様な顔をしたけれど、結局飲んだわ。

これって、彼もその気だって事でしょう?

有名なシェフのお店なんだから、とても美味しい筈なのに、料理の味なんてよく解からなかった。

もう初めてじゃないのに、緊張しているのかしら?

いけない!つい飲み過ぎてしまったわ。

「大丈夫ですか?」

彼に支えて貰いながら部屋に行くなんて情けない。

折角、パークビューのダブルを取ったのに。

ソファーに腰掛けて、キラキラ輝く窓の外の観覧車をぼんやりと眺める。

「キレイね」

あれに彼と乗ってみたいな。

デートの定番よね。

観覧車に二人きりで乗って・・・キスをするの・・・

水を運んできてくれた彼にミュールを履いたままの脚を片方突き出す。

「脱がせて」

水を飲んで少し酔いは醒めて来たけれど、まだ酔った振りをしてねだる。

彼は困ったように笑って、私の前に膝間付いてくれた。

もの凄く横柄な態度だわ。

私がされたら『何様のつもり!』って頬を叩く所だけど、彼は黙って従ってくれる。

それって、私が彼の上司の娘だから?

私も彼を試している。

彼がどこまで私の言い成りになってくれるのか。

彼は黙って私が差し出したもう片方のミュールも脱がせてくれた。

ここで脚にキスして、私のプッシーにもキスして欲しい所だけど・・・

いくらなんでもそこまで彼は獣じゃないわよね。

仕方なく、私は彼に両腕を差し出してねだる。

「ベッドに連れてって」



「ん・・・ふぅっ・・・」

キスの合間に漏れる声が我ながらイヤらしい。

彼が私の耳朶にあるピアスにそっと触れる。

そうよ、これはあなたに貰ったもの。

この身体もあなたのモノなの。

私の身体が気に入ったのなら全てあげるから、私にあなたを頂戴。

上着を脱いだだけの彼の背中に手を回す。

シャツ越しに感じる彼の熱。

少しだけ煙草の味と香りのするキス。

今まで私の前で煙草を吸った所を見た事が無いけれど、彼はスモーカーなの?

シャツを羽織っただけの彼が銜え煙草で少し眉を顰めながらマグカップを持つ姿は様になりそう・・・

そして、苦い煙とコーヒーの味のキスをしてくれたりして・・・

もちろん、熱い夜を過ごした次の日の朝とかに・・・

キスだけで凄く感じてしまいそう。

彼の手が服の上から私の胸を触る。

力が込められた手に胸の形が変わる。

大きい胸は好き?

今まで邪魔だとしか感じた事が無いけれど、彼が気に入ったなら無駄でもなかったのかしら?

ストレートなら胸は大きい方がいいわよね?

彼がロリコンじゃないみたいで良かった。

私のブラウスのボタンを一つずつ外していく彼。

私も彼のシャツのボタンに手を掛ける。

彼が背中に手を回して、ブラのホックを外してしまう。

「あ、ん・・・」

直に胸を触られるのは気持ちいいんだけど、ブラをよく見てくれたかしら?

ピアスとお揃いのピンクの上下にしたんだけど。

私のサイズだと日本じゃネット通販じゃなくては手に入らないから大変なのよ。

やる気満々に見えるセクシー系じゃ引かれるかもとか、かと言ってレースでガチガチの清純系もどうかと思って、物凄く悩んだんだから。

これだけ気合を入れているんだから、今日はちゃんとしてくれないと嫌よ。

「ん・・・はぁん」

彼が胸の先端を咥えて弄り始める。

スカートの中に延びてくる彼の手。

私も勇気を出して、彼のベルトに手を掛ける。

あら?は、外れない・・・どうなってるの?これ。

バックルをグイグイ引っ張るだけで、ベルトが外せない私の手を彼が押さえた。

「無理しないで下さい」

彼の低い囁きに、私の経験の無さを笑われている様な気がして・・・確かに経験値は少ないけど。

「別に・・・無理なんて・・・」

してないとは言えないけど。

で、でも・・・彼だって・・・ホラ、か、硬くなってるし・・・コレを入れたらまだ痛むかしら?

彼のモノを服の上からそっと撫でた私は怯むように硬直してしまった。

それに気付いたのか、彼は私の頬を撫でて優しく囁いてくれる。

「今日は前よりもっと優しくして差し上げますから」

気にしてるの?

前も、乱暴にしてすまないとか言ってたけど、全然そんな事はなかったのに。

だって、彼はちゃんと入れてもいいかって聞いてくれたわ。

私は確かにそれに応えたんだから。

普通、男の人って女性の都合なんてお構いなしに突っ込んでくるものじゃなくて?

友達は大抵そう言うわよ。

「優しくしなくてもいいから、ちゃんと最後までしてね」

そして私の身体でちゃんとイッて。

私の身体で満足して欲しいの。

私から離れられなくなるくらいに。

彼は私の言葉に困ったように笑って・・・その顔を見ると、もっと困らせたくなっちゃう。

私は彼の顎を両手て挟むと、顔を引き寄せてキスをした。

自分から仕掛けるキスは初めてなんだけど・・・唇に吸い付いて開いた彼の口の中に舌を入れて彼の舌に絡ませればいい筈よね。

レディスコミックで勉強したんだから。

彼もそうしてくれてたし。

柔らかい彼の舌の感触にゾクゾクする。

この前もそうだったけど、これが快感?

それとも、快楽への予感かしら?

私の積極的な誘いに、彼の指が下着の上からプッシーに触れる。

やん、もう濡れているのが判っちゃう!

でも、彼の指は私の指より太くて長くて、自分で触れた時とは違う感覚で・・・凄く気持ちイイ。

それを待ち望んでいる私が居る。

下着を取り除かれて、彼の指が直に触れてくる。

「あ・・・ソコ・・・」

一番敏感な場所をぬるりと滑る彼の指が責める。

おかしくなりそう!

彼の指が何度もプッシーをなぞって滑る。

あまりにも滑りが良くなって、彼の指が中に入り込んだ時も、この前の様に痛みはなかった。

今度は彼が入って来ても大丈夫かしら?

指は1本から2本へと増やされて出し入れされ続ける。

彼が私の身体を気遣ってくれるのが判る。

私の息は荒くなって・・・彼の呼吸も速い。

「ね・・・もう・・・いいのよ」

来ても。

それでも、私の言葉に彼は首を振った。

「まだ駄目ですよ。もっと感じて下さい」

そう言って、私の胸を咥える。

「ああっ・・・ん・・・んん」

両方を攻められると凄く感じちゃうのに。

責め立てられた私は、息を切らせてはしたない声を上げてしまう。

いや、なんか・・・ヘンになる!

「ああっ!あっあ・・・」

何かが身体を揺り起こして全身を震わせる。

そして体から力が抜けてしまった。

・・・コレがエクスタシー?

呆然としている私に彼が優しく頬にキスをする。

「いいですね?」

聞かなくてもいいのに・・・そう思いながらも私は頷く。

すっかり裸にされた私は、いつの間にか裸になっていた彼に大きく足を広げさせられた。

恥ずかしいけど、抵抗する気力も体力もないのよ、情けない事に。

これじゃ、彼を啼かせられるようになるなんていつになるのやら。

「ん・・・」

・・・やっぱり・・・ちょっとだけ、まだ痛い。

「痛みますか?」

彼の言葉に強く首を振る。

痛くない!痛くない!平気だから!

「ちゃんと続けて」

無理やり作った笑顔を見せる。

平気よ、このくらい。

彼は気遣わしげに私を見ながら腰を動かし始める。

彼のモノが出し入れする度に、圧迫された場所は引き摺られた様になって痛む。

痛みが生じる度に私の口元が引き攣るのが堪え切れない。

心配そうな彼の頬に触れて促す。

「続けて」

大丈夫だから。

今日はちゃんと最後までして。

彼は意を決したように腰を動かし続けた。

次第にそのスピードは上って、私の身体全体が揺さぶられる。

もう、眉間の皺を隠す事も出来なかったけれど、彼も止まらない。

二人の荒い息使いとベッドの軋む音だけが響く。

「っく・・・」

呻いた彼の動きが止まる。

一瞬、息を詰めた彼が大きく息を吐いて、荒い呼吸をしながらも息を整えようとしている。

イケたの?

私には何も感じられなかったけど、彼のモノが出て行くのだけは解かった。

ねぇ、私の身体で満足出来たの?

不安になりながら彼を見上げて何も言えないでいると、うっすらと汗をかいている彼が私の頬を撫でで微笑んだ。

そ、その笑顔は反則よ!

キュート過ぎて何も言えなくなるわ!

私の唇に軽くキスをした彼は、私の横に横たわって、その腕の中に私を抱き入れてくれた。

皐・・・あなたが好きよ・・・愛してる。

でも、そんな事を言ったら彼の負担になる。

彼にとって、私は上司の娘で同情すべき哀れな立場の娘。

優しい彼は私の我儘を聞いてくれただけ。

彼が私を愛していると言ってくれたなら、喜んでイエスと言えるけど。

まだダメよね。

彼がこうして抱いてくれただけでも満足しなくちゃいけないのよね。

暖かな彼の腕の中でウトウトとし始めると、彼が起き上がるのに気付いた。

「・・・どこ行くの?」

重たい瞼をこじ開けて尋ねると「シャワーを浴びて来ます」と言ってバスルームへ消えた。

そうか・・・シャワーを・・・浴びていなかったわよね、そう言えば。

はっ!私、汗臭い?

彼は遠回しにそれを伝えようとしているとか?

日本人は清潔でお風呂好きだから、不潔な女は嫌いだと伝えたかったとか?

わ、私だって、毎日お風呂に入っているし、外出の前と後にはシャワーを浴びるし、いつも綺麗にしているのよ?

コロンや香水で体臭を誤魔化すのは無精な人かフランス人だけよ!

フランス人と断言するのは偏見かもしれないけど。

バスルームに押し掛けたらはしたないと思われるかしら?

本当は一緒にバスタブに浸かってみたいところだけど・・・呆れられちゃうかも。

そうよね、大和撫子は奥ゆかしくてそんな事しないわよね。

でも・・・楚々とした女性が浴衣姿で『お背中流します』とか言うのをコミックで見た事があるような・・・

・・・それでお風呂場で手篭めにされちゃうのよ・・・

いや、私、ちょっと影響受け過ぎ?

現実的にそれってアリ?

コミックでは時代劇だったような気がするし・・・今ではそう言う事ってないのかしら?

彼に聞く訳にもいかないわ。

すっかり目が覚めてしまった私は、彼と入れ違いにシャワーを浴びた。

彼が全身を舐め回しても構わないくらいに磨きあげた私は、バスルームから出るとすっかり身支度を整えた彼に驚いた。

「・・・帰るの?」

泊まっていかないの?

朝まで一緒に居てくれないの?

「明日は仕事がありますので」

そ、そうかもしれないけど・・・女性を一人残して帰ってしまうの?

もう・・・私を抱きたくないの?

私は泣きたくなるような気持をグッと押し籠めて声を振り絞った。

「そう・・・来週の金曜日は空いていて?」

金曜の夜なら大丈夫でしょう?

「・・・来週の木曜からまた海外です」

昨日帰ったばかりなのに?

何なの?そのスケジュールは!

あの人ったら・・・娘の恋路を邪魔するつもりなの?

・・・尤も、あの人は私の事を娘だと思っていないでしょうし、彼との事も知らない筈だけど。

それにしたって・・・理不尽な怒りがあの人に向かうのを止められない。

クソ親父め!

「そうなの・・・いつまで?」

怒りを取り繕って、何とか微笑みを浮かべて尋ねる。

「・・・いつまでかまだはっきりとは・・・」

困った様な彼の言葉。

もう・・・私と逢いたくないの?

これで終わりにしたい?

「そう・・・」

ダメ!ここで泣いたら彼を困らせるだけでしょ!

私は彼に背を向けて、窓から見える、キラキラと光る観覧車に視線を向けた。

あれに乗りたかったのにな・・・彼と。

窓に映る、私の後ろに居る彼が近付いて来るのに気付いた。

私の後ろに立ち止まった彼は、私の肩に手を掛けて耳朶をそっと食んでから囁いた。

「これは・・・いつものお花のお礼です」

そう言って手渡してくれたのは、またしても小さい箱。

ドキドキしながら開けると、それはやはりピアス。

「キレイね」

リングでもいいんだけどな、と思いながらも、これから身に着けるピアスは彼からのプレゼントだけにしようと決めた。

「カイロで手に入れたんですが・・・気に入りましたか?」

モチロンよ、私は頷いて答えた。

ターコイズね・・・大き過ぎない銀細工とマッチして綺麗だわ。

カイロ・・・エジプトかぁ・・・ツタンカーメンのマスクでも有名よね。ターコイズは。

今度もまた、私にこうしてお土産を買って来てくれたと言う事は・・・諦めなくてもいいのよね?

「次回も期待しているわ、あなたのセンス」

帰ってきたら、また逢ってくれるのよね?

私が期待を込めて彼に微笑むと、彼は困ったように笑った。

「ご期待に添えるかどうか・・・鋭意努力いたしますが」

私は彼の手の中にピアスを戻して、彼の身体に身を擦り寄せて囁いた。

「ね、着けて」

彼は私のおねだりに応えて、今までしていたピアスを外して着け変えてくれた。

好きな人にピアスを着けて貰うのって・・・とってもイイ。

セクシュアルでステディな関係っぽくて。

彼が私の耳に触れるタッチもセクシーだし・・・このままベッドに連れてってくれないのかな?

「では、これで失礼します」

彼が私の手に今までしていたピアスを戻すと、そう言って出て行った。

もう!鈍い人なんだから!





それから、彼の海外出張は段々と多くなり、あの人に付きっきりなんじゃないかと思うくらいになった。

私と逢えるのは月に1度か2度あれば良い方で、酷い時には2ヶ月も逢えない時もあった。

あのワーカー・ホリックめ!

私は大学院の2年に進んで、進路を考えなくてはならなくなった時に決断した。

この方法だけは取りたくなかったけど・・・仕方ないわ。

彼と同じ会社に就職する!

あの人の傍に行くのは気が進まないけど、そうでもしないと彼の傍に居られないんですもの。

きっと彼なら会社でもモテているに違いないわ。

彼を狙う女性や男性は多い筈ですもの!

私が傍に付いて、彼をガードしなくては!

その為なら、一生会うつもりのなかったあの人の会社に入る事なんて、同じ会社に入った所であの人と顔を合わせる機会があるとも思えないし、大したことじゃないわ。

私は鬼気迫る勢いでレジュメとエントリーシートを書き上げた。

待ってなさいよ!






 




































Postscript


ス、ス、スミマセン!!
お姉様をオタクにしてしまいました!
いや、だって日本語を覚えるのには適しているでしょ?アニメや漫画って(苦笑)
だからと言って、腐女子にしなくても・・・いいじゃないですか!トレンドで!(そーゆー問題か?)

いえ、コメディに走ると筆がノル・・・ドカバキ!
ス、スミマセン、シリアス展開ばかりだと切な過ぎると思って・・・コメディに走りました。

女性にもあると思うんですよ、性欲だけじゃなくて犯したいと思う様な願望が(え?私だけですか?)
例えバージンでもね。
だから私の書く女性は強くて積極的な方が多いのでした(苦笑)
男を啼かせる女・・・イイなぁ、うっとり。
今回はさすがにそこまでスキルアップが出来ませんでしたけど。

弟と同様にお姉様もお勉強熱心なので耳年増(苦笑)
行き過ぎた乙女心が色々と妄想を膨らませていますが、それも可愛いなぁと・・・

お姉様の決断は、ピアスホールに始まり、来日の本意とか、就職の真意とか色々。
かーいーですよねぇ(笑)

二人が泊まった・・・いや部屋を取ったホテルは「パンパシフィック横浜ベイホテル東急」
大観覧車で有名な「よこはまコスモワールド」が窓から良く見えるようです。
ここの売りは、バスルームから見える観覧車ですが、風呂場からより窓から見えた方がよかろう。

プッシーとコックの意味が判らない人はこのお話を読んではいけませんよ〜
お姉様はアメリカ人なので、それっぽい言い方をして頂きました。
私が海外のエロ小説読み過ぎなのかな?

今回の皐のお土産は銀とターコイズのピアス。
ターコイズとはトルコ石の英語読み。
有名な石言葉は「成功」ですが、ナニを成功させたかったの?

これで、何とか前作の冒頭に繋がりました。
あとは「悪趣味な二人」にまで繋げるのに・・・1つでは無理かな?



2009.8.6up


  

 

 

 

 

 

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