「あ〜ら、和晴じゃないの〜ひっさしぶりぃ〜」 オレはダチと飲み会の二次会に向かう途中で掛けられた声に驚いた。 ナイスバディな金髪の美女、それは紛れもなく・・・ 「・・・奇遇ですね、お姉様」 クソ忌々しいパーティで顔を合わせる羽目になったオレ達兄弟の腹違いの姉貴だった。 厄介な事に既にかなり酔っ払っているらしい。 「ちょうど良かったわぁ〜これから付き合いなさいよぉ〜もう、この人達じゃ相手になんなくってぇ」 見れば、同僚らしきスーツを着た人達が道端で吐いていたり座り込んだりしている。 オイオイ、まだ夜の8時だぜぇ? もう、こんなに潰れちまってんのか? どんだけ飲んだんだ? 「いや、折角ですけど、オレは友達と約束してるんで・・・お姉様はもうお帰りになった方が・・・」 と逃げ出そうとしたのに、ダチの奴らときたら 「ヒュー、やるじゃんカズ!ホンモンのパツキンとは!」 「さっすが!色んな女を乗り回してんだな」 「俺達の事は気にしなくってイイぜ!『お姉様』とよろしくやってな!」 そう言ってオレを置き去りにした。 「あらぁ〜みんな話の判るイイコねぇ〜さあぁ!姉弟の親睦を深めましょぉ〜!」 オレは逃げそびれてしまった・・・薄情なヤツラめ! 「・・・でね、聞いてるぅ?」 繁華街の片隅にあるバーに連れ込まれたオレは酔っ払いのグチを延々と聞かされていた。 「ハイハイ、聞いてますよぉ」 適当に相槌を打てば 「あ〜!聞いてなぁい!その気合の入って無い返事は聞いてなぁい証拠よぉ〜」 妙な所で意識がはっきりしているのか、鋭く突っ込まれる。 「聞いてますってば。要するに、男からの連絡が少ないんでしょ?」 何のグチかと思えば男の事だぜ? バカバカしいにも程がある。 「そーなのよぉ〜酷いと思わなぁい?こんな美人が只管じっと耐えて彼の帰りを待っているって言うのにぃ〜彼ったらメールは週に一度だけ、それも1行だけ!1行だけ!なのよぉ〜」 いや、それだけ定期的に連絡を寄こすだけマシだと思うけど、オレは。 第一、自分で美人とか言うか?フツー。 確かに美人なのは誰でも認めるだろうけどさ。 「そんなにイヤならヤメちまえば?」 新しい男を見つけろよ。容姿に自信がアンなら。 オレが投げ遣りなコトを言えば。 「それが出来ないから困っちゃうのよねぇ〜」 はぁぁ〜っとお姉様は溜息を吐かれた。 ケッ、やってらんねぇぜ! オレが危惧した通り、その後は『彼』とやらの惚気を散々聞かされた。 彼がどんだけ優しいかなんてオレは知りたくもないぜ! オレは3時間ほど付き合わされてから眠り込んだ姉貴をタクシーに放り込んでやっと解放された。 やれやれ・・・しかし、一体、どんなヤツがあの女と付き合ってんだか。 姉貴は彼氏とやらの名前をついに一度も口にしなかった。 どうやら海外に留学しているらしいのだが。 いやいや、オレにはかんけ―ねー話だ。 もう二度と関わり合いにはなりたくねぇ! しかし、この後も何度かオレは姉貴に捕まり、それもダチと一緒の時ばかりだったので、オレには金髪の『お姉様』とのお付き合いまであるのだと言う噂が広まったのは言うまでもない。 |
「・・・今日も来てない」 パーティ会場を探しまわったけれど、今回も沙枝ちゃんは来ていない。 彼女が短大に入った今年の春から、彼女の姿を見なくなってしまった。 進学して忙しくなったのかな? も、もしかして・・・か、彼氏とかが出来てたりしたら・・・どうしよう! 兄貴は地味でダサイとか言うけど、彼女は良く見れば可愛いし、しっかりしてるし、何より優しいから。 恋人が出来たって不思議じゃないと思う。 俺、もっとちゃんと言っておけばよかったのかな? でも、俺、年下だし・・・彼女にとっては弟みたいに思われてるのは判ってるから・・・言い出せなかった。 この3カ月ごとに行われるパーティで会うだけ、だもんな。 もっと頻繁に会って、メールとかしたりしてたら良かったのかな? ガックリと落ち込んで壁に凭れ掛っていた俺に陽気な声が掛けられた。 「あっらぁ〜靖治じゃないのぉ〜どぉしたのぉ?そんなにしょぼくれちゃってぇ〜!」 顔をほんのりと赤くした俺達の腹違いの姉貴だった。 ま、まずい!これはかなり酔っている! この前、兄貴に酔っ払った姉貴は絡み酒で性質が悪いと散々聞かされていた俺は背筋を伸ばした。 「し、しょぼくれてなんかいませんよ!この通り、元気です!では!」 逃げようとしたのに、上着の襟を掴まれて捕まってしまった。 「まあまあ、そう慌てないでぇ。何か悩みでもあるのぉ?お姉様が相談に乗ってあげてよぉ?」 語尾が変だ。 酔っ払いにまともな相談が出来る筈がない。 俺は必死に助けを探した。 兄貴はチラリとこちらを見ただけで視線を逸らした。薄情者ぉ〜! 静香は・・・俺は視線が合った静香を必死で手招いた。 助けて静香! 「ね、姉さん、静香が話があるそうです」 静香は俺と姉貴の傍にやって来てくれた。 「お姉様、どうなさいましたの?」 た、助かった・・・ |
酔っ払いの戯言に一々付き合うから疲れるのよ。 カズ兄もノブも馬鹿よね。 こんなもの、適当に聞き流していればいいモノを。 「そうですわね」「ええ」「わかりますわ、お姉様」 この3つの言葉でお姉様は上機嫌になった。 なんて単純な方。 「そうだわ、これから家にいらっしゃいよ!そして泊まっていきなさい。ゆっくりと話し合いたいわ」 ええ?一晩も付き合うの? 最初はうんざりしたけれど、良く考えればお姉様の暮らし振りを見てみたい気もしたから素直に承諾した。 酔っ払っている筈のお姉様の足取りは意外としっかりしていて、私が支えなくても一人で歩いていた。 尤も、私の身長では長身のお姉様を支えられないけれど。 タクシーで降りた場所は都内にある高級住宅街。 ふうん・・・入社二年目のお姉様のお給料で住める場所ではないし、やはりお姉様の母親の実家が裕福だと言うのは事実なのね。 ま、お父様の援助を断ったのも当然ね。 「着替えて来るから寛いでいてね」 そう言い残してお姉様はバスルームへと消えた。 これは探索するチャンス! 色々と部屋を見て回るけれど、部屋数が多くても使っている部屋は少ないみたい。 まあ、一人暮らしなら当然かしら。 寝室と書斎に使っている部屋以外は全然使っていないゲストルームか書庫の様になっていた。 寝室も綺麗にベッドメーキングしてある。 これは自分でしていると言うよりもプロの仕事よね。 どの部屋も綺麗にしてあったし、専門の業者に頼んでいると見たわ。 寝室にも書斎にも横文字と経済の本がズラリと並んでいたし。 まあ、日本の大学院に留学してまでMBAとやらを取ったのだから当然かしら。 キッチンも使った形跡が無いと言う事は家事を全くしない人なのね。 私も出来ないけど。 一通り部屋を見て回って、書斎の椅子に腰掛ける。 つまらないわ。 これじゃ、ただのお金のあるキャリアウーマンの部屋でしかないじゃないの。 私は何気なくバソコンの電源を立ち上げた。 「あら、これは・・・」 シャワーを浴びたらしいお姉様は、さっぱりとした顔をしてカットソーとパンツ姿といったカジュアルな服装でリビングに現れた。 カズ兄が言うには、恋人が海外に留学していて連絡が少ない事を愚痴っていたらしいけれど。 海外留学している恋人ねぇ・・・寝室にも書斎にもそれらしき人物の写真は無かったけど。 「あなたがここに来てくれて嬉しいわ、静香。これからはちょくちょく遊びに来てくれて構わないのよ」 すっかり酔いの醒めたお姉様はにっこりと微笑んでそう仰る。 「ありがとうございます、お姉様。そうですわね、これからは度々伺わせて頂きますわ。恋人が海外ではお寂しいでしょうし」 私の言葉にお姉様はギクリとコーヒーカップを持つ手が止まった。 「私・・・あなたに恋人について話をしたかしら?」 いいえ、先ほど伺っていたのは同僚の愚痴だけでしたわ。 「和晴お兄様から伺いましたの。何でもお姉様の恋人は現在、海外に留学中だとか。お名前までは伺っていないと言ってましたけど」 私もニッコリと微笑んでからコーヒーカップを手に取る。 あら、家事が出来ない割にはちゃんとしたコーヒーだけは淹れられるのね。 「そう・・・和晴が・・・彼には愚痴に付き合わせて悪い事をしちゃったわね」 「あら、全然構わないんですのよお姉様。和晴お兄様だって連日お友達と飲み歩いてばかりいるんですもの。ただ、お酒の飲み過ぎにはお気を付けになってね?お身体を壊されてはいけませんわ」 「そうね。ありがとう。気を付けるわ」 「海外留学と言えばビジネス・スクールでしょうか?それですと2年ほどになりますわよね?そんなに長い間でしたら、待っているのも大変ですわ」 「そうなのよ!」 「ビジネス・スクールと言えば、お父様の秘書の西塔さんも、今、ロンドンに留学なさっているそうですが・・・お姉様ご存知でした?」 「え?さ、さあ・・・どうだったかしら?」 「ご存じの筈ですわよね?お姉様は以前、秘書室にいらしたんですもの」 「そ、そう言えばそんな事を聞いた事があるような・・・」 判り易い方。 「話は変わりますが、お姉様、ご趣味はお持ちですか?」 「え?」 「恋人が帰って来るのを待つ間に趣味に打ち込まれるのもいいと思うんですけど。例えば日本が世界に誇る文化の一つであるアニメとか漫画などに・・・」 「し、静香!」 「私のお友達にも填まっている方が多くて、色々と聞きますのよ。女性ですと秋葉原よりも池袋が盛んだそうですわね」 「ど、どうして・・・」 「先程、失礼ですけどパソコンの電源を入れたら偶然立ち上がってしまって・・・」 「・・・見たのね」 「はい」 ガックリと項垂れたお姉様は、やおらに私の手を握って訴えて来た。 「お願いだから黙っていて!誰にも言わないで!」 可愛いわ、こんな事で動揺するなんて。 「もちろんですわ、お姉様。趣味と言うものは隠れてこっそり、と言うのが楽しいモノですものね」 ふっ、ちょろいわね。 |
「それで私にどうしろと?」 頻りと恐縮しているマーケティング部の部長の言葉は不明瞭で要領を得ない。 痺れを切らした私の言葉はきついものへと変わるのは当然の事だ。 「ですから、その・・・お父上からお嬢様に一言仰っていただければと・・・」 私に何を言えと? 「君の言いたい事を整理するとだな」 「はい」 「ライラ・アクトンが同僚と連日飲み歩いていると」 「はい」 「付き合わされた同僚が翌日酷い二日酔いで勤怠に影響が出ていると」 「はい!そうなんです〜!」 「私から彼女に注意をしろとでも?」 「はい!仰る通りでございます!何卒宜しくお願いいたします!」 頭を低く下げた部長に私は溜息を洩らした。 「それで、そのライラ・アクトンの勤怠はどうなっているのかね?」 「は?」 「彼女が遅刻や欠勤をしているのかね?と聞いているんだが?」 「は、いえ・・・そのう・・・ミス・アクトンは毎日キチンと出社しております」 「業務に支障が出ているのかね?」 「・・・いえ」 俯いてしまった彼から私は視線を外して手元の書類を手に取った。 「ならば、私から彼女に注意する必要はないな。問題があるのは自己管理が出来ていない同僚達の方だろう?」 「ですが!」 「第一、ライラ・アクトンは私の娘であっても既に成人しているのだし、業務に支障をきたしていないのならば責任者として文句を言う筋合いでもない」 私は手を振ってマーケティング部の部長を追い出した。 全く!下らん事で手間を取らせる! しかし、そんなに荒れているのか? 静香が『恋人と遠距離恋愛になって寂しがっている』とか言っていたが。 連日飲み歩いて同僚を酔い潰すとは・・・さすがは私の娘。 毎日出社出来ているのなら下手な間違いも起こしていないのだろうが。 それにしても・・・ライラの恋人とは誰なんだろう? |
その1 皐が留学中のお姉様の憂さ晴らしに付き合わされた被害者一号和晴クンです。 いや、既に同僚が数名潰されてますが・・・ 彼はこの時大学一年の秋あたり? 未成年の飲酒はいけません!が大学生なら常識? その2 お姉様の酔態第二弾(笑) ノブも沙枝ちゃんと一緒なら絡まれる事もなかったのでしょうが、時期が悪かった(笑) その3 静香が見つけてしまったものとは一体何でしょう? ご想像通りの物です(爆) 私もノートの壁紙はDTBの銀です(苦笑)お姉様なら・・・ナンだろう?カカシか?冬獅郎か?(大笑) 男性陣には上手く隠し通せたお姉様ですが、静香にはバレてしまいました。色々と(大笑) 静香はこれをネタに強請ろうとしているのではなく、ただ単にお姉様の弱みを握りたかっただけです。 これでお姉様は飲み歩く回数を減らして趣味に没頭・・・それも危険か? その4 コレを聞いていたからライラが男に泣かされるとは夢にも思っていない親馬鹿親父なのでした。 拍手掲載期間 2009.8.10-14 |