その1ご招待 沙枝と靖治
結婚式に出るのなんて初めてだから緊張してしまう。
しかも、西塔さんとライラさんのだなんて。
どうしてあたしが呼ばれたのか見当もつかないんだけど。
同じ会社とは言え、部署は違うし、お友達と言うのもおこがましいのに。
招待状を貰って「着て行く服が無い」とうっかり静香ちゃんに漏らしてしまったら、何故かノブちゃんがそれ用の服を買ってくれた。
学生の癖に!
でも、正直、困っていたので助かったけれど。
怖くて値段が聞けないけど、絶対にあたしのお給料一カ月分よりは多いはず。
そんな高価なものを貰ってしまっていいのだろうか?
以前、ライラさんに貰ったスーツといい、あの人達の金銭感覚はあたしとは違い過ぎる。
その2 チャペルにて 沙枝と靖治
普通、神前のお式だと親戚だけなのに、チャペルだと収容人数が多いから披露宴に呼ばれた人はもれなくお式にも参加出来るみたい。
座る場所も自由らしいので、一番後ろの隅っこに座ると、隣にノブちゃんがやって来る。
「兄弟なら前の方に座るんじゃないの?」
と尋ねたら
「兄弟って言っても、半分だけだし。今日はアメリカのお祖父さんとお祖母さんが来てるみたいだから」
そう言って肩を竦めた。
そっか、仲は悪くないみたいだけど、異母兄弟だもんね。
考えてみれば、ノブちゃんも色々と立場が複雑で大変なんだなって思う。
お父さんと一緒に暮らしていたって、苗字は違うし、外国人だし、小さい頃は虐められた事もあるって言ってたっけ。
でも、静香ちゃんは前の方に座っているけど、いいのかな?
そうしている内に、お式は始り、ノブちゃんのお父さんと腕を組んだライラさんが式場に入って来た。
わぁ・・・綺麗だなぁ・・・ライラさん、美人だもんねぇ。
ウエディングドレスがメチャクチャ似合ってる!
後で絶対、写真を取っておこう。
ボーっと見惚れている内に、よく聞き取れない神父さんの言葉が続いて、西塔さんの宣誓?の言葉があって、神父さんがまた何かを言うと周りのみんなが立ち上がってパイプオルガンが鳴りだした。
「賛美歌を歌うんだよ」
ノブちゃんに小さい声でそう言われて、あたしは慌てた。
さ、賛美歌なんて歌った事無いよ〜〜!
うちは代々仏教徒なんです〜!
お経も読めないけど。
ノブちゃんが座席の前に置いてあった歌詞カードを手渡してくれるけど、どうしたらいいの?
仕方が無いから、口パクで・・・ごめんなさい。
他の人が歌っているのを聞いていると、クリスマスとかに聞いた事がある様な曲なんだけど、歌えない。
讃美歌はなんと2曲も続いた・・・
その後、神父さんかまた何かを言ってお式は終わった。
あれ?誓いのキスとかは無いんだ。
ふう〜ん。
その3フラワーシャワー 沙枝と靖治
一番後ろに座っていたあたし達は、そそくさとチャペルを出た。
すると、式場の人からお花を渡されて、後から出て来る新郎新婦に投げるのだと言う。
ライスシャワーならぬフラワーシャワーってヤツね。
一番最初に出たあたし達は、当然一番チャペルから遠い場所に並んだ。
チャペルから出て来たライラさんに西塔さんが何かを囁くとライラさんは泣き出してしまった。
すぐに笑顔になったけど、何を言ったのかしら?
花嫁を泣かせるなんて、西塔さんがいけないと思うわ。
二人が人垣の中を歩き出すと「おめでとう」の言葉と共に花が投げられる。
あたしもノブちゃんと一緒に「おめでとうございます」と言って花を投げた。
実は西塔さんに向かって強めに。
ライラさんはあたしに気付くと「ありがとう」と言って微笑んでくれた。
まあ、ライラさんの笑顔はとても幸せそうで、無理やり作ったものではなさそうだったんだけどね。
やっぱりいいよね、花嫁さんて。
羨ましそうにあたしがライラさんを見送っていると、ノブちゃんが耳元でこそっと囁いた。
「俺達の時もチャペルで式を挙げる?」
ち、ちょっとぉ!まだ気が早すぎませんか?
あのね、まだあたし達は結婚するって決まった訳じゃないのよ?
付き合い始めたばかりでしょ?
第一、ノブちゃんが大学を卒業するまで、あと3年以上あるんだよ?
「大学を卒業して就職出来てからゆっくりと考えれば良い事じゃないの?」
あたしはそう言ってノブちゃんを睨んだ。
ノブちゃんは困ったように笑ったけれど
「大切な事だからじっくり今から考えておいてよ」
などと図々しい事を言う。
だ、か、ら、そーゆー事は、大学を卒業して就職してからなの!
その4新郎控室にて 皐とライラのご友人達
控室で友人達と談笑していると、突然5・6人の女性達がやって来て、友人達を押しのけ、私をぐるりと取り囲んだ。
『これがライラの選んだ男なの?』
『背は高いわね』
『顔もまあまあ』
『でも、ちょっと細くなぁい?』
『あの子は線が細いのが好きだから』
『ああ、あたしの天使が男なんかと!』
『今更それを言うの?』
『でもあの子、絶対にバージンだった筈よ!』
『カルトな趣味してたもんねぇ』
『以外と真面目だったし』
『こいつが美味しく頂いちゃったのね』
『許せない!』
『まあまあ、それはともかく』
『『『『ライラを泣かせたら、あたし達が承知しないわよ』』』』
一方的に英語でそれだけを告げて出て行った。
多分、彼女の友人達なのだろう。
マシンガントークで何も言い返せなかったが、彼女は良い友人を持っている様だ。
その5チャペルにて 静香と親父
父がお姉様を西塔さんに引き渡すと、私の前の席に座った。
私は父にそっとハンカチを差し出した。
父は黙ってそれを受け取って、頬についた微かな紅の跡を拭った。
式が終わって参列者が席を立つ際、私は父にそっと囁いた。
「私の時も、一緒にバージンロードを歩いて下さいますわね?」
しかし、父はムスッとした顔をして
「お前はクリスチャンではあるまい」
教会で式を挙げる必要はないと言う事ですか?
「では、紋付き袴を着て頂けます?」
和装に合わせるならば
「今はモーニングが普通だろう?」
父はいつもの不機嫌そうで怖い顔のまま答えた。
今の父の装いも花嫁の父らしくモーニングだ。
正礼装した父は見栄えが良くて格好良い。
「楽しみにしていますね」
バージンロードを父と二人で歩くと言うのは悪くない。
その6ブーケトス 静香と沙枝と和晴とご友人達
お姉様が、参列者に背を向けてブーケを放り投げた。
アメリカからやって来たお姉様のご友人達や会社の同僚らしき人達は必死でブーケを受け取ろうと手を伸ばしている。
けれど、ブーケは思いの外、遠くに飛んで、何故か私の手元に落ちて来た。
困ったわ、こんなものを貰っても・・・
私は近くに居た沙枝ちゃんにブーケを差し出した。
「私よりも沙枝ちゃんの方が必要でしょう?」
ところが沙枝ちゃんは「とんでもない!」と言って手と首を大きく横に振って断って来た。
沙枝ちゃん、ノブが悲しそうな顔をしているけど、いいの?
するとカズ兄が手を出して来た。
「順番からいってもオレが受け取るべきだろう?」
まあ、呆れたわ。
男の癖に花嫁のブーケが欲しいの?
どうせ、彼女にあげるつもりなんでしょうけど。
悩んでいると、ブーケを取り損ねた人達の熱い視線が注がれているのに気付いた。
ここは公平を規して。
「私が受け取りましたから、私が頂きますわね」
ニッコリと笑って手を伸ばそうとしている人達を撥ね退けた。
必要無いけど、貰っておくわ。
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