Because in the summer night

 茹だる様な猛暑が続いていると日が暮れた所で少しも涼しくはならない。 
 それでも『お祭り』と聞けば、どんなに暑くても夜店周りを楽しむのがお約束である。 
 ましてや恋人同士ともなれば気合の入り方が違う。 

 女の子は着慣れない浴衣を着て普段とは違う清楚な面を彼に見せたがる。 
 たとえ、袷が逆になっていようとも。 

 だが、余程のおバカさんでない限り、自分の彼女がそんなみっともない着方をして欲しくはないと思って いることだろう、彼のように。 

 クライスはマリーの姿を上から下までじっと眺め回して一つ頷いた。 
「ちゃんと着付けてありますね」 

 長い髪を綺麗に結い上げて白い項を露にしている。 
 白い肌に臙脂の浴衣がよく映えている。
 臙脂の地に薄い色の大柄の百合の柄も同様に。 

 クライスの不躾な視線と言葉にマリーはカチンとなりながらも紺地の浴衣を着こなす彼にちょっと ときめいてしまった自分を叱咤していた。 

「そう言うアンタこそ、珍しいじゃない。浴衣を着てくるなんて」 
 クライスに素肌を曝す事を禁じられていたマリーとは違って、バイトですっかり日焼けした彼は何だか 逞しさも2割ほど増している。 
 制服姿と違って浴衣だとぐっと大人っぽさが強調されるようで、これだと年下ってカンジがあまりしない と、マリーは思っていた。 

「姉さんが用意してくれたんです」 
 クライスは照れ隠しなのか、俯いてメガネをそっと上げる。 

「へぇ?アウラさんが、お姉さんは来ないの?」 
 クライスの姉はマリーも知っている。 
 姉弟2人で暮らしていて、マリーと気の合う美人OLである。 

「どうしてデートに姉さんを連れてこなくてはいけないんですか?それに姉は今旅行中です」 
 クライスは憮然として答える。 
 内心は頭の上がらない姉とマリーの仲の良さが少々気に入らない。 

 女性との付き合いに不慣れな弟にあれこれとアドバイスをくれるのはありがたいが、はっきり言って 少しばかり五月蝿すぎる。 
 仲が良過ぎる2人を見ていると彼の内面下の努力を見透かされそうで、クライスは実は戦々恐々としている。 

「え〜?お祭りなんだから、大勢のほうが楽しいじゃない?」 
 あっさり言い切るマリーにクライスは眩暈がしそうになった。 

 この人は・・・人がこれだけ2人っきりになる事に努力している事を何だと思っているのでしょうか。 
 周りに幾ら人が大勢いようとも、2人だけの世界が作れる、それが恋人同士というものなのに。 

 付き合いを始めて、体の関係まで持っているというのに、マリーには『恋人同士』の観念が希薄すぎる。 
 この人のそういう所は今に始まった事ではありませんが。 

 クライスは溜息をつきながら彼女との出会いを回想していた。 
 クライスがマリーを見初めたのは入学式の時だった。 
 友人と楽しそうに笑いながら通り過ぎた彼女にクライスは早い話が一目ぼれしてしまったのである。 

 彼女が2つも年上でサボり魔で成績が思わしくない女性だと知っても気持ちに変わりはなかった。 
 寧ろそんな彼女が見せる屈託のない笑顔にますます惹かれて行った。 
 彼女の傍にいたい、あの笑顔を自分だけの物にしたい。 
 クライスは一歩間違えれば犯罪になりそうなギリギリのラインで彼女の行動をトレースし、彼女の通う ゲームセンターで密かに腕を磨いた。 
 彼女に声を掛ける為に。 

 彼女の傍らでいつも彼はヒヤヒヤしていた。 
 ゲームセンターなどという所はナンパのメッカでもある。 
 始終声を掛けられては断っている彼女には既に恋人がいるのだろうか、いつ他の男に攫われてしまうのか、 気が気ではなかった。 

 幸いな事にマリーはとても鈍いらしくて、ゲーム対戦には応じてもナンパには気付いてもいないよう だったが。 
 彼女のそんな鈍さを利用して、腕に自信がついた頃、彼女に対戦を申し出て、そのまま強引にホテルに 連れ込む事が出来たのだが。 

 大胆な格好をしているくせに妙に初心な所があったりして、人を嫉妬の渦に巻き込ませてくれる。 
 彼女に嫌われたくなくて、年下だからと侮られたくなくて必死になっているクライスの努力や理性を 壊す真似ばかりしてくれた。 
 時々、文句を言いながらもマリーは別れを切り出したりはしないから、それに甘えているのかもしれないが。 

 屋台で綿飴やたこ焼といった食べ物に瞳を光らせている彼女を眺めながらクライスはヤレヤレと思った。 
 惚れた弱みという奴ですかね。 

 結い上げた髪が彼女を大人っぽく見せていても、無邪気な所は変わらない。 
「ねぇねぇ、金魚すくいやろうよ!」 

「貴女に引っ掛かる程金魚も間抜けではないと思いますが」 
 楽しそうに誘ってくる彼女の笑顔に内心の動揺を押し隠す為につい、いつものように無愛想で嫌味な 答えをしてしまう。 

 案の定、マリーはムッとして闘志を燃やしだした。 
「見てなさいよ!」 
 マリーは腕をまくって白い二の腕を曝す。 

 腰を落とした彼女の白い項が襟から覗く、クライスは無意識のうちに彼女の真後ろに立って、絶景を遮る。 

「あーん、また外した!」 
 縁日で鍛えられている金魚はそう簡単には掬えない。 
 マリーは与えられたウエハース状のアミに穴を開けてしまっている。 

「それではダメですよ、あまり深く沈めずにアミの端に掛けるんです」 
 クライスは背中からマリーの手を取ってスッと水面すれすれに金魚を追う。 
 マリーは背中と肩に感じるクライスの体温にドキッとしながら、彼の手に自分の手を預けたまま、一緒に 金魚を追う、視線だけは取りあえず。 

「ホラ、取れた」 
 上手い事、金魚を追い詰め、アミの端に金魚を乗せたクライスが左手に持っていた小鉢にも手を添えて 掬い入れる。 

「ホントだ!すごい」 
 マリーは思わず喜んでクライスを振り返ったが、その距離のなさに慌てて正面を向いてしまう。 

 すると、憮然とした金魚すくいの親父さんと目が合う。 
「お嬢ちゃん、2人一緒はダメだよ」 
 仲がいいのは結構だけどね、と呟いた親父にすみません、と謝って慌てて逃げ出す。 

「マルローネさん!」 
 思わず駆け出してしまったマリーを慌ててクライスが追う。 

 人込みの中なのでそんなに離れる事は出来なかったが、彼女を見失う事を恐れたクライスは彼女の手を 取って、引き寄せる。 

「こんな人込みの中で逸れたら大変です。離さないで下さいね」 
 密かに本日の目的を一つクリアしたクライスは怒った顔を見せながらも上機嫌だったが、マリーは指を しっかりと絡ませて握られた手に頬を紅潮させていた。 

「う、うん・・・」 
 恥かしがって俯いてしまった彼女の愛らしさにクライスは理性が自分の部屋まで持つのか自信が なくなって来ていた。 

 取りあえず、参道の夜店は一通り覗いて、境内まで辿りついた時、クライスはマリーの足取りが少し 遅れていることに気付いた。 
 手を繋いでいても一歩先を歩いていた彼は気付くのが遅れてしまったようだ。 

「足をどうしたんですか?」 
 よく見るとマリーは少し足を引き摺りながら歩いている。 

「う、うーん。ちょっと鼻緒が・・・」 
 境内の隅にあるベンチに連れて行って下駄を脱がせると、履き慣れない鼻緒が擦れて赤くなっている。 

「どうして黙っていたんですか?」 
「だって・・・アンタのことだからきっと嫌味を言われるだけだと思って・・・」 
 ちょっと膨れながら答えるマリーに日頃の行いの悪さを少しばかり反省するクライスだったが。 

「これでは歩けませんね」 
 と、手に乗せたマリーの足の傷をペロリと舐める。 

「ヤダ!止めて」 
 足の甲に感じたクライスの舌にマリーはゾクッとしてしまう。 
 傷口が沁みると言うのではなく、もっと別な快感を感じて。 

 目を瞑って体を微かに震わせているマリーの様子を伺い見たクライスは傷口だけでなく、足の指にも 舌を這わせる。 

「ヤダ、クライス。汚いよ、やめて!」 
 マリーの抗議の声は小さい。 
 クライスは手をすらりとした足に這わせて、浴衣の裾を割っていく。 

「こんな所で・・・止めてよ」 
 マリーは人気がないとは言え境内で不埒な真似をするクライスを止めようと抗議を止めない。

 クライスはそんなマリーを抱きかかえると更に奥の暗闇に足を向ける。 
「クライス!」 

 彼の浴衣を引っ張って止めさせようとしていたマリーだったが、 
「ダメですよ、家まで待っていられません。貴女だって・・・そうでしょう?」 
 耳元でクライスに囁かれてマリーは真っ赤になってしまう。 

 彼が触れている背中と膝の裏が熱い。 
 彼の体温が高くなっているのか、それとも・・・。 

 境内の奥は暗くて視界が利かない、でも人の気配がする、そして微かな声も。 
 みんな考える事は同じですね。 
 クライスは苦笑して、マリーを大木の前で下ろしてしまう。 

 下駄は先程のベンチに置いたままなので、彼女は裸足で下ろされてしまった。 
「ちょ、ちょっと、クライス」 
 抗議してくるマリーの唇をキスで塞いで、クライスは浴衣の上から胸を大胆に揉みしだく。 

 相変わらず手では収め切れない豊かな質感に満足しながら、括れたウエストラインを覆っている帯を 素通りしてお尻に手を伸ばす。 
 後ろから奥を指で探ると、塞がれている口から声が漏れる。 

「んん・・・」 
 彼女が感じていることを確信したクライスは浴衣の裾を大胆に捲り上げ帯に折り込んでしまう。 
 そして、マリーをクルリと反転させて背中を向けさせる。 

「ク、クライス・・・」 
 暗闇の中とは言え、外で下半身を露にされたマリーは慌てたが、クライスは構うことなく下着をスッと 脱がせてしまう。 

 熱が篭っていた場所は蒸し暑いとは言え、外気に曝されて腰がひくりと動く。 
 クライスは指で充分に道を広げてから耐え切れなくなっていたものをあてがって差し込む。

「はぁ・・・っやあっ」 
 木に縋り付くしかないマリーは背中を撓らせて捩る。 
 彼にとってそんな仕種は誘っている様にしか見えないのだが、無論彼女は無意識のうちに反応している だけである。 

「ああ、マリー」 
 彼女の背中に凭れ掛かる様にしながら、クライスは満足の吐息を漏らす。 

 傍にいても手を繋いでいてもあっという間に飛んで行ってしまいそうな彼女とこうしている瞬間だけは 手にしていることを実感できる。 
 この瞬間が永遠に続けばいいのに。 
 いつもいつも彼はそう思い、何度も何度も飽くことなく彼女を求めてしまう。 

 腰を支えていた手は胸元に上がって、袂の脇から差し入れて下着の下を潜る様な器用な真似をしている。 

「はぁん、はぁっ・・・んんん・・・」 
 マリーは恥かしさを消しきれないのか真っ赤になりながらも声を抑え切ることが出来ない。 
 でも彼から与えられる快楽に腰の動きは激しさを増していく。 

 木に凭れたままぐったりしている彼女の浴衣の乱れを手早く直したクライスはようやく正面に抱き寄せて 深くて長いキスをする。そして 

「今日はこのまま私の所に泊まって行きますね?」 
 と囁いて今夜はコレで終わりでは無い事を告げる。 

「アウラさんは?」 
 マリーの囁くような問い掛けにクライスは苦笑を浮かべながら 

「さっきも言ったじゃありませんか、姉さんは旅行中ですよ。帰ってくるのは明後日の夜です」
 頬に唇を軽く触れさせながら答えるクライスに、もしかしたら明後日まで解放されないのかしらと チラリと恐い事を考えながら、それでもいいやと思ってしまったマリーは自分がかなり彼の術中に嵌まって いることに気付いていないのかもしれない。 

 まぁ、クライスの家に行けばシャワーを浴びられるし、クーラーも効いてるし、いっか。 
 と単純に考えていたマリーはそう思っていたよりもシャワーを浴びさせてもらうのはずっと後になったし、 クライスが浴衣を着付けられる事を知ったのはやっぱり、というか案の定、翌々日の午後だった。

 

「恋なんていわばエゴとエゴのシーソーゲーム」に戻る    「お化け屋敷」に続く


Postscript

 クラマリ「Seesaw Game」の続編です。これもシリーズ化してしまいそうです。  
 タイトルはTUBEの「だって夏じゃない」から(これも古いな・・・10年以上前の曲)

 マリアト創作のトップにあるようにこのタイトルが全てを物語っています。
 いや、この2人なら夏だろうが秋だろうが冬だろうが関係なくヤッちゃっていると思いますがね。

 お祭りの夜に浴衣で青○です・・・。
 あう、品性疑われるなぁ・・・(今更)

 何気に以前聞かれたクライスがマリーと会った時の話も折り混ぜてみましたが・・・男に語らせると どうして何となく言い訳がましくて情けなくなるのでしょう。(それは設定が甘いから)

 本編で語りきれませんでしたが(本当に力不足です)クライスは自分の浴衣も自分で着付けてます。
 マリーと×××する為に、着付けの本を読んで研究したのでしょう。
 彼は勉強熱心ですから(笑)そのうち袋帯の結び方までマスターしたりして(爆笑)

 ちなみに彼がやってた体位は「巾着」と呼ばれる物で本当は着物を着ている時に・・・(ドカ・バキ)
 い、一度は試してみたかった(バシュ・グサ・・・ボウガンが当たったらしい)

2002.8.16 up

 

 

 

 

 


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