翠玉の季節の中で 番外編

an auroral angel 5







「ねぇ?・・・・」
声をかけられて我に返った。
夕食後のひととき。俺はソファーに座って雑誌を読んでいた。だが、読みかけの雑誌は開かれたままで、先程からページは進んではいない。
「・・・ああ。なんだ?」
何事もなかったように取り繕って返事を返した。
「今朝からずーっとこんな感じだよ。・・・変だよ。」
ぱふっと俺の隣に座ったとしあきはちょっと苛立ったような口調で言った。
俺の様子が変なことを心配してくれているのか、それとも休日だというのに自分に構ってくれなかったことを拗ねているのか・・・。どちらにせよ、俺の意識は気付かないうちに昔の記憶の中へと戻っていき、俺が存在しているはずの現実から遠ざかっていた。。
ずっと忘れていた母との思い出、母の面影を今ははっきりと思い出すことができる。むしろ、無意識に忘れようと思っていたのかもしれない。
としあきは相変わらず俺のうちにいる。
こんな心理状態だから彼にそばにいてほしいのか、彼がそばにいるからこんな心理状態になったのか・・・もう俺にはわからなかったし、どちらでもよかった。
今まで一度だってこれほど心細い、不安感に苛まれたことなどなかったのに。





隣のとしあき不意に動いた。しかも俺が全く予期しない行動だった。
俺は肩をつかまれたので反射的に雑誌から目を上げとしあきの方を見た。その瞬間、俺の唇にはとしあきの柔らかなそれが押し当てられていた。
静かに唇を離したとしあきはにっこりと微笑む。その微笑みは聖母のように慈しみに満ちたものだった。
言葉すら発することができない俺に、としあきは再度口付けた。今度の口付けは官能的なものだった。俺達は互いの舌を絡ませながら灯った快楽の火が大きくなるままに口付けを繰り返した。
首筋に口付けながら、としあきのTシャツをたくし上げた。露わになった透き通るように美しい肌。それに唇を寄せる。少しづつ下方にずらし飾りに辿り着くと片方のそれを口に含んだ。舌先で刺激を与えるととしあきの口からは悩ましい喘ぎ声が漏れた。だが、俺の与えるその刺激は舌先が触れるか触れないかの微妙なもの。徐々に焦れてきたとしあきの身体はもっと刺激がほしいと腰をくねらせ強請り始める。
俺達は寝室へと移動した。
としあきをベットへ横たえて衣服をすべて取り去る。
としあきの顔はいつもの幼さを残すものではない。それは聖母のような慈しみと娼婦のような妖艶さが入り混じったような美しい顔だった。
その時の俺には理性など残ってはいなかった。俺の中で官能の微笑を晒すとしあきが俊彰とだぶる。愛するこの人を己の思うままかき抱いて悦びの声で鳴かせたい。己の全てを彼に注ぎ込み、彼の中に俺という存在を刻み込みたい。何よりも彼を自分ひとりのものにして独占したい。
としあきは俺の与える愛撫に身体を戦慄かせる。彼の背中を指でなぞるとあの傷痕が指先に触れた。俺はとしあきの身体をうつ伏せると、その傷痕にゆっくり舌を這わせた。
「・・・あ・・・・・・はあっ・・・」
としあきは今までにない過剰な反応を示した。身体が小刻みに震えている。俺は舌で舐めながら、左手で胸の突起を捏ね回し右手を下方に伸ばしてとしあき自信に触れた。そこは既に固くなっていて先端には悦びの蜜が滲んでいた。背中に胸に同時に与えられる快楽。
「あ、ああん・・・・やぁぁぁ・・・はぁん・・・」
としあきの口からは悶える度に喘ぎ声が零れ落ちる。
としあきの双丘を両手で掴んでぐっと広げると蕾を舌先で突付いた。その刺激に彼の身体はびくっとなる。その反応を楽しむかのように、蕾の周りからゆるゆると舌を這わせた後、尖らせた舌先を割り入れた。
「ん・・・・はっ・・・」
充分に唾液で湿らせた蕾から舌を抜き、今度は指でほぐす。湿ったそこはすぐに3本の指を難なく飲み込んだ。中をかき乱すようにそれぞれの指をばらばらに動かす。止め処なく与えられる快楽でとしあきは既に己の限界ぎりぎりであった。
俺は指を抜くととしあきの身体を仰向けてその美しい顔を覗き込んだ。快感に潤んだ瞳が俺を見つめている。壮絶な快楽の最中に急に放り投げられたかのように指を抜かれ我慢ができなくなったとしあきは急に起き上がると俺の上へ覆い被さった。そして、俺の張り詰めている肉茎に己の秘所をあてると自ら腰を沈めてきた。いくら指でほぐしたとはいえ中はきつい。だが彼はぎりっぎりっと俺を捻じ込んでいく。
「ん・・・・・うっ・・・・っ」
少し辛そうに顔を歪めながら俺を全て呑み込んだ。自分の中の俺に慣れると、ゆっくりとしあきが動き出す。苦痛で歪んだ美貌は徐々に快楽に心酔する。
「あ、っ・・・・はっ・・・」
俺は汗ばむとしあきの腰を掴んで彼のリズムに合わせながら彼を見ていた。彼の中は熱く、俺をぎゅうぎゅうと締め付ける。それは俺に強烈な快感を齎し、俺自身彼の中で溶けていってしまいそうな感じさえさせる。
「あっ・・・・ああん・・・はあ・・・・」
俺達の荒い息遣いは暗闇の寝室に溢れた。
としあきは俺の上で快楽を貪って本能のままに腰を揺らして踊る。暗闇の中に浮かび上がる翼。仰け反ったとしあきは背中の大きな翼をも揺らして踊り続ける。翼はとしあきが動くたび光の加減でオーロラのように煌く。だが、美しいその翼は左のみ。右の翼がないのはあの背中の傷と関係があるのだろう。
体勢を入れ替えると片翼の天使を思う存分俺の楔で突き上げる。
欲望のままに彼を抱いている幸福と美しいものを己の手で汚したという罪悪感は俺の中に同時に沸き起こり、だが、それ以上に彼を感じ彼は俺を感じているということにそれらは全て掻き消された。
俺の容赦ない突き上げに限界間際だったとしあきは真っ白な快楽の証を吐き出した。俺もとしあきの最奥に己の熱い迸りを開放する。
結局俺はとしあきが気を失うまでその後幾度も幾度も彼を抱き貫き続けたのだった。








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