1994年は夏青春18きっぷを使い、冬を待っている状態でした。
仕事がいそがしく、ストレスがたまっていました。ある日の金曜日、なんとなくあしたあさってハートランドフリーきっぷを使って新幹線にでも乗りに行きたいなと思いました。
さてどこに行くのがいいでしょう。
ぼくはなんとなく、岩泉線にでも乗りたいなと思いました。岩泉線に効率良く乗るにはどんなルートがいいかはいつも時刻表を見て考えてあります。始発のやまびこで北上に行き、花巻に行って釜石線に乗って釜石、山田線で宮古、茂市(もいち)とまわって行くと数少ない岩泉線の列車に乗れます。とにかく始発のやまびこに乗るのが必須条件です。
そう決めたのでぼくは駅のみどりの窓口に行き、あしたあさって有効のハートランドフリーきっぷを買いました。そして朝早起きしようとグダッと眠りました。
目が覚めました。わーっ、寝坊した!
始発のやまびこは出てしまった後です。どうしようもありません。どうしようかなと思いました。岩泉線はあきらめたほうが良さそうです。
でも、東北の北のほうは岩泉線のほかにも乗っていない路線はたくさんあったので、とにかくやまびこに乗って、接続のいい路線にでも乗ろうと思いました。
夜行列車も1994年の時点では急行津軽や急行八甲田が土曜日はいつも運行されていたので、機会があれば使おうと思いました。
こうして時刻表片手に東京駅に向かい、いきあたりばったりの旅行が始まったのです。
寝坊してしまったけどハートランドフリーきっぷは買ってあるので、寮のもより駅から東京駅に行く。
ハートランドフリーきっぷを見せて中間改札を通り、やまびこに乗る。2月は東京仙台間ノンストップのやまびこだったが、きょうは福島とかに停車するやまびこなのでそれほど混雑はしないようだ。無事自由席にすわれた。立ち客もいない。そして発車。
さあ、どうしようか。もし一番列車に乗れたら北上(きたかみ)で降りて東北本線で花巻に行き、釜石(かまいし)・宮古(みやこ)経由で岩泉線に乗る予定だった。
寝坊したのでこのルートだと岩泉線に間に合わないのだ。どこまで行ってどこ行きに乗り換えるか時刻表を見て考えた。
いろいろ考えた結果、終点の盛岡まで行って、花輪線で大館(おおだて)に行こう、そう考えた。接続もいい。盛岡でも大館でもそんなに待つことはない。大館では新潟行きの特急いなほに接続している。
東京から仙台までは何度も通ったレールなので見覚えがある。仙台から盛岡までは今年になってから乗り始めた区間である。トンネルもけっこうあるが、トンネルの外の区間はけっこうながめがいい区間である。
2月と違って仙台で降りることなく、東京から盛岡までノンストップで来てしまった。意外と時間を感じさせないものだ。やっぱり新幹線は速いなあ。
やまびこは終点盛岡駅に到着した。やまびこを降りる。
盛岡駅の中間改札まで歩いていく。やまびこは遅れずに到着したので余裕はある。
通路を進んで中間改札に来た。予定の花輪線には間に合うようだ。ハートランドフリーきっぷを見せて通った。
東京から乗ってきたやまびこを盛岡で降りて、中間改札を通って花輪線のホームに向かった。
ディーゼル車はちゃんとあったが、最近水郡線とかで乗っているような新型のディーゼル車ではなかった。それなりに古いディーゼル車だ。まあ、いろいろ使われているのだろう。
乗ってはみたが、あまりお客はいない。盛岡を出る特急とかはそれなりに混雑するのだろうが、ローカル線はどれほどでもないようだ。そのまま発車。
ディーゼル車はしばらくは東北本線を進むが、好摩(こうま)から花輪線に入っていく。それほど山深い場所を走るわけではない。むしろ2月に通った田沢湖線の方がずっと山深い場所のようだ。
確かに東北自動車道はだいたい花輪線沿いを進むわけだし、けっこう谷間を通る路線なのだろう。客が全然乗ってこないままディーゼル車は進んでいく。2月からこのかた、かなり客の少ないディーゼル路線に乗っている。まだまだ乗っていない場所があるので順々に乗っていきたい。
十和田南に着いた。ここもたいしたまちなみではない。まちなみと言うより集落だ。それから発車。あれ?逆方向に進んでいる。
特急たざわの大曲(おおまがり)とか、石北本線の遠軽(えんがる)とか、富士急行の富士吉田(富士山駅の1994年当時の駅名)とか、逆方向に進む駅ってけっこうあるけど十和田南もそうみたいだ。と思っているうちに駅でもない場所でディーゼル車が止まってしまった。何があったのだろう。
何があったのかわからないが、運転手がディーゼル車から降りてどこかに行ってしまった。そして戻ってくる。10分くらいかかっただろうか。
弱ったなあ。このあと終点の大館(おおだて)で、新潟行き特急いなほに乗る予定なのだが、乗り換え時間が10分くらいしかないのだ。いなほは待っていてくれるかなあ。
なんとかディーゼル車は動き出した。そして急ぐこともなく進んでいく。そして終点大館に着いた。
いなほは待っていてくれたようだ。ずっと向こうに停車している。ぼくと同じようにいなほに乗り換える客も何人かいる。ぼく1人ならともかく、何人かいるから待っていてくれたようだ。どうやら花輪線から奥羽本線に乗り換えるには階段を使う必要があるようだ。
ぼくと数人の客は乗り換えるため、階段をめざした。
盛岡から乗ってきたディーゼル車は10分ほど遅れていた。そんなディーゼル車を大館(おおだて)で降りると、乗り換える新潟行き特急いなほはすでに停車していた。
ぼくといっしょに乗り換える客は何人かいた。急いで階段を上がっておりる。いなほは待っていてくれたようだ。
ぼくがいなほに乗ってしばらくするといなほは発車した。自由席の車両に行こう。
やまびこがそれほど混雑していなかったように、いなほもそれほどでもなかった。自由席はかなりすいていてすわることができた。まずはすわる。
このあたりは夜中にしか通っていないのでしっかり景色を見ておこう。
6月に急行津軽で宇都宮から東能代に行った時に見た秋田より北の景色は、森の中を走る景色だった。大館から東能代まではどうだろう。
まあ、どうってことのない平野の景色だ。左右に山はあるみたいだがそれほど高いわけでもなさそうだ。まあこのくらいの平野でないとわざわざ海岸を離れて線路を通したりしないだろう。
そして東能代を過ぎて6月に見た森の景色になる。
さてどうしようか。きょうも急行津軽や急行八甲田が走っているから、しばらくは秋田にいてもよさそうだ。
男鹿線(おがせん)にでも乗ろうか、そう考えた。このまま秋田まで行くと男鹿線のディーゼル車に乗れそうだ。
でも、確か男鹿線って、奥羽本線の途中の駅、追分(おいわけ)から出ているんだよなあ。もしもこの特急いなほが追分に停車すれば男鹿線に乗り換えられる、でも残念ながら追分には停車しないようだ。
追分の手前でいなほが停車する駅は八郎潟(はちろうがた)だ。ここで降りて普通列車に乗り換えて追分に行っても男鹿線に乗り換えられるんじゃないかと思い、時刻表を見てみた。
うん、秋田まで行って乗り換えるのと同じ男鹿行きに乗れることがわかった。よし、秋田には2月に降りたし、八郎潟と追分で乗り換えて男鹿線に乗ろう。そう決めた。
そして特急いなほは森の中を進み、無事八郎潟に到着した。いなほを降りる。
ハートランドフリーきっぷを見せて改札を通ると、お、駅前にラーメン屋がある!
そう言えばまだ昼食を食べていないことを思い出した。でもたくさん客がいたら普通列車に間に合わないかもしれないなあ。それより先に今営業しているだろうか。
ドアをあけてみると、よかった。客はおらず、営業していた。ラーメンをたのもう。
客がぼくだけなのでラーメンがやってくるのは速い。いただきます。
ふう、いいラーメンだなあ。特急が停車する駅でもこういう店がない場所ってありそうだから、食堂がある駅っていいなあ。
秋田行きの普通列車が出る時間より余裕をもって食べ終わることができた。ごちそうさま。さてラーメン屋を出よう。
うわっ!雨だ!
あわててかさをさす。たちまちどしゃぶりの雨になる。八郎潟駅に入ろう。
ハートランドフリーきっぷを見せて改札を通るが、ホームに屋根はないので、ぎりぎりの時間まで屋根の下にいて、電車が来るころになったら秋田行きが停車しそうな場所に行くことにした。
しばらく屋根のあるところで待つ。もういいだろう。秋田行きの出るホームに行こう。
雨はひどく降っている。多少待って、ようやく列車がやってきたので乗る。けっこうすいていた。土曜の午後だけど遅いからもう学生もそんなにいないのだろう。
すわって景色をながめるが、大雨なのでたいした景色も見られない。東能代から八郎潟までと似たような景色である。
そのまま乗換駅、追分に着いた。列車を降りる。大雨だけど遅れずに着いてよかった。
雨は降り続いているが、このまま男鹿線のディーゼル車を待つことにした。
八郎潟(はちろうがた)から乗ってきた列車を追分(おいわけ)でかさをさして降りた。雨はあいかわらず降り続いている。
時刻表通りだともうすぐ男鹿線(おがせん)の男鹿行きのディーゼル車がやってくるはずだ。確かにディーゼル車は時刻表通りにやってきた。
乗ってはみたが客はそれほど多くない。土曜の午後だが、学生たちはもっと早い列車に乗ったらしくそれほど混雑していないのだ。そして発車。
ディーゼル車は森に入っていく。男鹿線は森の中を走るのだ。雨は多少弱くなってきた。
何駅か停車していく。客が少しずつ降りていく。けっこう追分から走ってきた。
時刻表では海沿いらしい場所を走るはずだ。しかし、列車の左側にはあいかわらず森が続いている。
どうやら防風林のようだ。なるほどなあ。常磐線の福島と宮城の県境付近にこういう森があったような気がする。
それでもいつか海が見えるんじゃないかと思っているうちに、そんな森の景色のまま終点男鹿駅に到着してしまった。
しかたがないのでハートランドフリーきっぷを見せてディーゼル車を降りる。雨はほとんどやんでいる。
この駅は森の中にある駅だ。降りる客はそれなりの数いるからそれほど小さな駅でもなさそうだが、見回す限りあまり大きな建物はない。
こんな終点の駅もあるんだなあと思った。それだけ確認してディーゼル車に戻る。次の秋田行きは今まで乗っていた男鹿行きと同じ車両だからだ。そしてまた発車。
もうそろそろ暗くなり始めるころだ。こんな時刻に秋田に向かう客も少ない。ディーゼル車は進む。もうどうせ右側の海方向は防風林しか見えないことがわかっているし、左側を見てみよう。
と、めずらしいものが見えてきた!虹だ!
左手の窓の外、多少高い場所に、まさにぽっかりと弧を描いて虹が見えたのである。めったに見えるものではない。もちろん鉄道から虹が見えたのは生まれてからこの文章を書いている2011年までの間、1994年のこの時だけである。
そうだよなあ。雨が降って、雨上がりに虹って見えるものだよなあ。それも、太陽と反対側に見えるものだよなあ。
いや、雨って悪いだけのものじゃないんだなあと思った。いい景色が見えたなあと思った。こんな景色が、見えるんだから鉄道の旅ってやめられないなあと思った。それからもしばらく虹は見えていた。でも暗くなって見えなくなっていく。男鹿線は虹の思い出の路線となったのである。
そのうちすっかり暗くなった。さてこれからどうしようかと思い、時刻表を見た。
6月は急行津軽に乗って一夜を過ごしたが、よくよく時刻表を見ると、秋田から特急たざわに乗ると最終の東京行きやまびこに間に合うことがわかった。
うーん、どうしようかと思ったが、寮に戻って寮のベッドで寝た方が夜行列車で寝るより楽かと思ったので、きょうはいったん寮に帰ることにした。
それからどうしようかなあと思ったが、あした1日を過ごすのに都合がいい場所はどうやら新潟県のJRに乗るのが一番かなあと考えた。
ただ、このへんは新潟・弥彦ミニ周遊券を使うのが都合がいい場所である。でもそれなりに高く、新幹線の特急券を買わないと行けないきっぷである。しかし今はハートランドフリーきっぷを使っているので特急券を買わずに上越新幹線には乗れるし、やはり新潟に行こうと思った。
とりあえず乗ったことのない越後線と弥彦線にでも乗ろう、あした起きた時刻で時刻表を見て、どの順番で乗るか考えよう、そう決めた。
そうこうするうちにディーゼル車は追分を過ぎて奥羽本線に入っていったようだ。でもまっくらなのに変わりはない。客が少ないままディーゼル車は進む。
そして終点直前で多少都会に入っていく。秋田は2月に降りた場所なのでだいたいどんな場所かはわかっているが、きょうは接続がいいので夕食は食べないで特急たざわに乗ろう。夕食は寮の近くのコンビニででも買おうと思った。
そして秋田に到着。ディーゼル車を降りる。さあ、特急たざわの出るホームを探そう。
男鹿(おが)駅から乗ってきたディーゼル車を秋田駅で降りて、盛岡行き特急たざわに乗り換える。
なにしろこの列車が東京に帰れる最後の列車なので、食事をするひまもない。もっとも八郎潟(はちろうがた)駅前のラーメン屋で午後おそくラーメンを食べているので何か食べるのは東京に帰ってからでもいいだろう。
たざわはまるで客がいなかった。やっぱり夜遅い電車は客がいないんだろうなあ。6月に野辺地(のへじ)から盛岡まで乗った特急はつかりも客がまるでいなかったし。そのまま秋田を定刻に発車である。
それにしても新幹線は速い。こんな時間に秋田を出ても、その日のうちに東京に帰れてしまうのだ。
2月や6月に乗った急行津軽や、まだ乗ったことのない急行八甲田も、いつまで走るかわからないので、ハートランドフリーきっぷが使える今乗っておいてもいいんじゃないかとも思うが、やっぱり夜行列車で眠れずに過ごすよりも、寮のベッドで眠る方がいい。
それに東京に帰ればあした新潟で越後線と弥彦線に乗ることができる。だからきょうのところは帰ることにしよう。
どうせきょう乗るはずだった岩泉線に乗りに行くときは東京には帰れないのだから、津軽か八甲田に乗るのはそのときにしよう、そう考えた。
たざわは暗闇の中を進んでいく。
どこを走っているのかわからないが、2月にも通ったあの景色と同じ場所を通っているはずだ。
大曲(おおまがり)で進行方向が逆になっているはずだが、暗闇なのでそんなこともわからず、とにかく電車の動きだけ感じていた。
それでも電車は時刻表どおり進み、約12時間ぶりに盛岡駅に戻ってきた。到着。ぼくは特急たざわを降りた。
通算4回目となるハートランドフリーきっぷの旅行ももうすぐ1日目が終わろうとしている。さあ、中間改札に行こう。ぼくは階段を上がって客のほとんどいない通路を進み、ハートランドフリーきっぷを取り出して中間改札の駅員に見せて通った。
秋田から乗ってきた特急たざわを盛岡で降りて、中間改札にハートランドフリーきっぷを見せて通り、新幹線ホームにやってきた。
そこにあったのは、今まで見たことのない車両だった。どうやら2階だて車両のようである。
3年前に名古屋からなんばまで近鉄のビスタカーに乗ったが、禁煙席を予約したら1階席だったので2階席には乗っていない。
こりゃいいなあと思い、自由席車両に入り、2階席に上がってみた。
なんじゃこりゃあ!なんとそこにあったのは右3列、左3列の6列席だったのである!
いくら標準軌とは言え、これじゃあまりにも座席がせまいなあと思った。ためしに1階席におりてみよう。
1階席は右2列、左3列の5列席、いつものやまびこと同じ座席配置だった。しかたない。下に乗ろう。
なにしろ最終の東京行きである。自由席にはぼく以外全く客はいなかった。そしてこのMAXやまびこは盛岡を発車していく。
つかれていたのでぼくはすぐに眠ってしまった。
目が覚めると右手にテレビ塔が見える。
ああそうか、仙台かと気がついた。
急行津軽とかで在来線から見る仙台のテレビ塔は、新幹線の高架がじゃまになって見えにくいが、新幹線からだと見えやすい。
今乗っているのはMAXやまびこの下の階だから多少位置は低いが、ぎりぎりテレビ塔も見えるくらいだ。安心してまた眠る。
気がつくともう那須塩原も過ぎている時刻になっていた。
それにしても座席のせまい車両なんだなあ、やっぱりできるだけMAXやまびこは避けるべきだなあと思う。
きょうは最終の東京行きだからしかたないが、今後は2階だて車両はMAXでもMAX以外でもあまり乗りたくないなあと思った。
そしてまっくらなまま大宮、上野と過ぎていき、無事MAXやまびこは終点東京に到着した。早くこのせまい場所から出よう。
中間改札にハートランドフリーきっぷを見せて通り、寮に向かう電車に乗る。さすがに午後11時過ぎの電車はすいている。寮に着くのは12時過ぎになりそうだ。
きょうは寝坊してしまったが、男鹿線でめったに見られない虹を見ることができたし、悪い日じゃなかっただろう。
近くのコンビニでめしでも買って食べよう。そして眠って起きて、あしたは起きた時間の上越新幹線に乗ろう。そう考えて、寮に戻って眠った。おやすみなさい。
なお、あとでMAXやまびこのことを取り上げたテレビ番組を見たところ、「普通車の1階が5列席であること」と「グリーン車の2階が5列席であること」は映していた。
しかしうまくごまかして「普通車の2階が6列席であること」は映していなかった。やはりMAXやまびこが座席のせまい車両であることはJR東日本としてもかくしておきたいことなのかもしれないなあ、まるで童話の「王様の耳はロバの耳」みたいだなあと思ったものでした。