相生(あいおい)駅のホームで播州赤穂(ばんしゅうあこう)行きの列車を待った。
姫路まで新快速の列車のはずだから、長い編成のはずだ。
そのうち遠くで踏切の音が鳴り、電車の音が近づいてきた。そして新快速の列車が近づいてきて停車した。
いつも青春18きっぷでムーンライトながらに乗る時は米原からお世話になる車両である。
乗るとドアが閉まる。もう午後8時近く、お客は少ないのに10両もつないでいる列車なので1両あたりのお客はとても少ない。
そのまま列車は進み、やがて終点播州赤穂に着いた。
階段をあがる。自動改札だ。播磨ゾーンのゾーン券でも通れそうだ。自動改札に入れる。ガチャ。無事通れた。
通路を進んで駅の外に出た。さてこれから赤穂パークホテルを探さなければならない。どこにあるのだろう。
いろいろな駅にあるホテルの案内の地図などもなく、駅前にホテルがあるような様子もない。まあいいか。適当に歩いて見つけようと思った。
ぼくはもしかしたら「パーク」というのは赤穂城のことではないかと思った。
だからなんとなく赤穂城の方に進めばホテルが見つかるのではないかと考えた。赤穂城は駅前の道をまっすぐすすめばいいらしい。
とりあえず進んでみた。
てくてく進んで城の入口まで来た。予定ではここはあさって観光する予定である。
しかし、ホテルがありそうな雰囲気がない。
ふと見ると、左手遠くにあかりが見える。なんとなくホテルかもしれないと思った。
それで、細い道を通って進んでみることにした。
さらにてくてく進んだ。なんとかホテルの前まで来た。ホテルの名前を見てみた。
ああ!これは、時刻表で赤穂パークホテルのとなりに出ていた、赤穂ロイヤルホテルではないか!
がっくりと肩を落とし、公衆電話でも探して赤穂パークホテルに電話してきいてみようかと思った。赤穂ロイヤルホテルのところにいると言えば目印になるだろう。
さらに南に歩くと公衆電話が見つかった。
「もしもし。今赤穂ロイヤルホテルのそばにいるのですが」
「ロイヤルさんですか。南に進むと大通りに出るので、左に曲がって橋を渡ってずっと進んでください」
そんなわけで進むことにした。全然見当違いでなく、方向は合っていたのが幸いといえば幸いであった。
大通りに出て左に曲がると橋になった。しかしこの橋、長い長い。
ずいぶん進んで橋を渡りきり、さらに進んだ。
もう街の中というより郊外と言った方がいい雰囲気である。それでもなんとか歩く。
やっと左手にホテルが見えてきた。近づいてみた。
確かに赤穂パークホテルである。よろよろとぼくはホテルに倒れ込んで行った。
播州赤穂駅から南東に50分ほど歩き、赤穂パークホテルに到着した。
まずはチェックインする。フロントの人に、ここには大浴場があると言われた。部屋にも風呂があるかもしれないが、大浴場があるのなら入ろうと思った。
実家に電話しておく。ホテルが駅から離れていたことを話したら、母親にタクシーを使えと言われてしまった。
そしていったん部屋に荷物を置きに行く。そして風呂に行った。ちょっと道を迷ったが、フロントのそばの通路から進むと番台のような場所に来て、そこで部屋のかぎを見せるとロッカーのかぎを渡された。これで風呂に入れるようだ。
あわくら温泉に行ってきたばかりなのでそれほど大浴場にありがたみもないが、ゆっくりとつかった。
部屋に戻る。夕食はうどんしか食べていないので、ここで非常食のカロリーメイトを食べておくことにする。
それにしても、こんなに駅から離れた場所のホテルなのに、どうやらお客がたくさんいるらしい。ほとんど車で来る客ばかりなので、駐車場さえあればお客は来るのかもしれない。
播州赤穂みたいな、大都市から多少離れた場所のホテルはみんな駅から離れているのかもしれないなあと思う。
今日1日、疲れた。あしたは朝6時半ごろの播州赤穂発の岡山方面の電車に乗らなければならない。もちろん駅までは歩こうと思っている。そうするとホテルを5時半に出なければならないだろう。
そのためにはもう寝る必要がある。がんばって眠ろうと思い、ぼくはベッドに入って眠りについた。おやすみなさい。
目が覚めた。
ここは赤穂線の播州赤穂駅から車で5分…と言うより歩いて50分のところにある赤穂パークホテルである。
今は朝5時である。まずは荷物をまとめる。今日も同じ部屋に泊まるのだから荷物の一部は部屋に置いていっても良い。
ぼくはきのう着ていた服とあした着る服をまとめて部屋のハンガーにかけておいた。そして今日着る服を着た。
朝食をどうするか。いざとなったらまたカロリーメイトだが、どこかで手にはいるかもしれない。まずは出かけよう。
フロントに鍵を預けて駅までの道を進むことにする。午前5時半、まだ暗い。道を西に進む。長い橋を渡る。
渡ったところで、きのうと違う道を進むことにした。川沿いの道を北に進んでみよう。
道を進む。左手に病院が見える。目印になりそうだ。
また橋のところに来た。このへんで川沿いの道をはずれて左に曲がってみよう。
ぼくは左に曲がって進んでみた。適当なところで右に曲がる。6時になった。だんだん明るくなってきた。
わ!こんなところにサークルKがあった!
こんな駅から遠い場所にコンビニのサークルKがあった。1も2もなくぼくは入り、朝食と飲み物を買っていった。
播州赤穂の駅前でさえコンビニがないのに、こんな場所のコンビニにでくわすとは、本当に運がいいなあと感じた。朝食は赤穂線の電車の中で食べようと思った。
そしてまた北に、また左に曲がって西に進んだ。
するときのう駅から南に進んできた道に戻ってきた。ここから北に進めば駅だ。
駅のそばに郵便局があった。日曜でも午後8時まで営業しているようだ。
今日は帰りにここでお金をおろしていこう。なぜなら赤穂パークホテルはホテルにクレジットカードの案内が出ていなかったので、どうもクレジットカードが使えなさそうだったからだ。ちょっと現金を多めに持ってくるのを忘れてしまったのでおろす必要があるのだ。郵便局のキャッシュカードは持っている。
そして播州赤穂駅に着いた。かなり明るくなっていた。
また自動改札に播磨ゾーンのゾーン券を入れる。今日も通れた。
そして岡山方面の電車が出るホームに向かう。
ホームで待っていると電車がやってきた。停車し、ドアが開く。さすがに朝早いのでお客は少ない。乗って弁当を食べ始めた。
しばらくして発車する。7年前に赤穂線を通った時と同じく、海もみえず山の中を進む路線である。弁当を食べ終えた。
トンネルをくぐったりして進むと、不意に左手に海が見えてきた。あれ?7年前にこんな景色が見えたっけ?
どうも7年前は見逃していたのかもしれない。左手に海が見えると播磨ゾーンの端の駅、日生(ひなせ)に到着である。
電車を降りて改札に向かう。
ぼくはまだ見ぬ小豆島がどんなところなのかわくわくしながら、駅員にゾーン券を見せて改札を出た。
ぼくは赤穂線の日生(ひなせ)で電車を降りた。今はちょうど午前7時である。
本日の目的地は小豆島である。さて港はどこにあるのだろう。
案ずることもなく、駅の正面、道を渡ったところに港らしきものがあった。係員らしき人がいる。フェリーはまだ来ていない。
ぼくは係員にきいてみた。
「小豆島に行きたいのですが、きっぷはどこで買えばいいですか?」
「あそこです」
駅の東に建物があった。フェリーターミナルと言うにはちょっと小さい建物である。
また道を渡り、建物に入るとお客はたくさんいた。行列に並ぶ。しばらくするとぼくの番になったので「歩きです」と言って券を買う。
外に出るともうフェリーが来ていた。道を渡る。もう車がフェリーに入り始めている。係員に券を見せ、車が通るわきからフェリーに乗った。
階段を上がり、客室に来た。どこにすわるか考えたが、ここ数年、ずっと鉄道の旅行に付随してフェリーに乗ってきたので、おそらく今日のフェリーも出発すると180度まわって進んで行くのだろうと考えた。
それで、うしろ向きの席にすわった。まだ出航まで時間がある。赤穂のサークルKで買った飲み物を飲んで時間を過ごす。お客がけっこうやってきた。いろいろなところから小豆島にはフェリーが運航されているが、ここのフェリーもお客は多いらしい。
出航時刻になった。フェリーが動き出す。予想通り180度まわり、ぼくがすわっている席が前方を向いた。
そして港を出ていく。
席がいいせいか、あちこち動くのも面倒なのでずっと席にすわっていた。前方には瀬戸内海が広がっている。
海を見てぼーっとして過ごした。小豆島は空港がないのでフェリーだけが交通機関である。
生活の一部みたいにお客はわいわいと過ごしている。そんなに緊張している人もいないようだ。ぼくもここ10年で20回以上も船に乗っているのであまり緊張することもない。
やがて小豆島が近づいてきた。港が見えてきた。あれがこのフェリーの着く港、大部(おおべ)港である。
また180度まわって港に着いた。とりあえず行列に並んだ。
何度も経験しているように、車がどんどんフェリーから出ていく横からぼくはフェリーを出ていった。
さてこれからバスに乗らなければならない。バス乗り場はどこだろうとぼくは歩き始めた。
日生(ひなせ)の港から乗ってきたフェリーを小豆島の大部(おおべ)港で降りた。
これから1日、バスで小豆島をめぐろうと思う。
まず第一の目的地は、小豆島に1本だけあるロープウェイに乗ることである。
しかし時刻表や、日生のフェリー券売所で手に入れた案内図では、ここ、小豆島の北の端にある大部からロープウェイに行くには、いったん西の土庄か東の福田に行き、そこから南をまわるバスに乗って草壁という所に行き、さらにバスに乗って紅雲亭という所に行き、そこからロープウェイに乗る必要がありそうだ。
しかも時刻表の時刻では、タッチの差でフェリーが大部に到着した時刻から土庄行きのバスは間に合わず、土庄行きのバスも福田行きのバスも約1時間待たなければならないように見える。
とりあえずバス停に行ってみることにした。
港から南に通じる道を進むと大通りに出た。
バス停がどこかわからないので左に曲がってみた。ちょっと進むとバス停を見つけた。
なんと10分ほど待つと福田行きがやってくるようだ。時刻表と時刻が違う。
バス停の時刻のところに「2002年10月改訂」と書いてあった。どうやら時刻が変わってしまっているらしい。
ラッキーなのかわからないが、バスを待った。
バスがやってきた。バスはさきほどの丁字路で停まり、お客を降ろしている。案内はないが、丁字路でも停まるらしい。
そしてぼくのいるバス停に来る。乗るのはぼくだけである。整理券を取る。お客は4〜5人である。そのまま進んでいく。
小豆島は自然あふれる土地であった。大部の集落を出ると人家もなく、道の右には木々が広がっている。
やがて集落が見えてくる。集落に着くとお客が降りていく。そしてまた進む。また木々しか見えなくなる。
福田港が近づいた。福田港のそばでとうとう1人降り、客はぼくだけになった。そして福田港に到着である。
なんとなくぼくは、このバスが草壁経由で走るのではないかと思い、そのまま乗っていた。
運転手さんが話しかけてくる。
「お客さん、どこまで行きますか」
「島の南の方ですけど」
「いったん精算してください」
そんなわけで整理券と大部→福田港の運賃を払い、再度整理券を取った。
ちょっとだけ休憩らしく、運転手さんは降りていく。発車時刻になり、乗ってきた。そしてまた発車である。
福田港の集落を離れ、森の広がる風景の中を進んでいく。しかし島の南の方は多少集落が多いらしく、集落に来るとお客がそこで1人、さらに2人、とどんどん乗っていく。お客は10人を超え、にぎやかになった。やっぱり小豆島のバスは使われているようだ。
にぎやかなまま大きな街にバスは入っていった。そして目的地の草壁に着いた。福田港からの運賃を払ってここで降りる。
さて、紅雲亭はどうやって行ったらいいだろう。
降りたところのバス停を見ても紅雲亭とは書いていない。となれば道をはさんで向かいのバス停か。
道を渡って向かいのバス停の案内を見ると、あった。紅雲亭行きのバスがある。それほど待たずに乗れそうだ。待つことにする。学生らしい女性が2人ほどやってくる。
そしてバスがやってきた。いったん道の向かいにある広場で転回する。そしてこちらにやってきた。
乗って整理券を取る。お客は3人だけらしい。そして発車だ。
バスは草壁の街をちょっとだけ東に進むと左に曲がり、北に進んでいった。坂をのぼっていく。
街を出て山の方向に進む。客の乗り降りはない。
そして紅雲亭に到着である。もちろんロープウェイの小屋があった。観光バスや自家用車が多少停車している。さあ、ロープウェイに乗ろう。
草壁から乗ってきたバスを紅雲亭で降りた。そこにはロープウェイの駅がある。
とにもかくにも乗ることにする。建物に入り、窓口で往復のきっぷを買った。
そして通路を進む。やけに長い坂道の通路が続いていた。登り切るとなんとかロープウェイの乗り場に来た。
やっぱり3連休のなかびなのでお客は多い。ロープウェイのゴンドラに乗り込む。満員なので席にはすわれない。じきに発車する。
じきにながめが良くなる。このあたりは小豆島でも標高が高い場所を通るので、多少紅葉していた。
そして紅葉に混じってごつごつした岩が見える。どうもこのロープウェイはこのごつごつした岩が主役らしい。
ぼくがこのロープウェイをめざしたわけは、女の子と恋愛することを目的としたゲーム、「センチメンタルグラフィティ」の中でここのロープウェイに乗るシーンがあったからだ。
そのシーンは女の子が高い景色をこわがったりして主人公の男に介抱されるという話である。そんなシーンを夢見てはいるが、いかんせんぼくといっしょに旅する女性なんかいるわけがないのだ。
でも、ゲームのシーンを思い浮かべるよりは現実の女の子と旅行した方が楽しいに決まっているのになあなどと思う。ままならない現実がつらい。
ロープウェイは寒霞渓に着いた。とりあえず降りてみる。
どこにでも良くあるみやげもの屋がたくさんある場所のようだ。なぜかバスが来ている。バスでここに来ることもできるようだ。
とりあえずながめの良い場所に出て、瀬戸内海でもながめてみよう。うん、いい景色だ。さすがに標高が高いだけのことはある。しばらく海をぼーっと見ていた。
そろそろ紅雲亭に降りようか。
またロープウェイに乗る。また満員ですわれずに過ごす。ごつごつした岩と紅葉を見て過ごした。
全国のロープウェイにけっこう乗ってきたが、こういう景色もいいもんだなあと思う。
そして紅雲亭に戻ってきた。まずはまたバス停に来てみる。時刻を見ると、ちょっと待てば草壁行きがやってくるようだ。待ってみる。
と、観光バスのわきにニホンザルがやってきた。なんだかとても人間慣れしているサルのようだ。
でもサルって猛獣だからあまり近づきたくないなあと思った。思っているうちに路線バスがやってきた。
駐車場でぐるっと転回し、バス停の前に来た。さあ、乗ろう。
小豆島の紅雲亭(こううんてい)から草壁(くさがべ)行きのバスに乗った。もと来た道を進み、海岸沿いの草壁の停留所に戻ってきた。さて、どこに行こう。
まずは二十四の瞳の映画のセットが展示されているという映画村に行ってみることにした。大部(おおべ)から乗ってきたバスから紅雲亭行きのバスに乗り換えた時と同様に道を渡り、紅雲亭行きの出る停留所で待った。
じきに映画村行きのバスがやってきた。乗るとけっこう客がいる。さすがに3連休のなかびだからなあ。
しばらくは福田港の方向に戻っていく。そして大きな集落の中を通り抜けていく。どこかで映画村方向に曲がったのであろう、じきに見知らぬ風景になる。
なんでもこのバスは坂手港(さかてこう)に寄っていくそうだ。
小豆島にはいろいろな港があり、港によってどこ行きの船が出るかが違う。大部や福田が本州方面、土庄(とのしょう)は高松からの船がおもに来る場所である。ここ坂手港は大阪から松山に向かうフェリーが途中寄港する場所のようである。
大通りをはずれて港っぽいターミナルに寄っていき、客が乗り降りして、大通りに戻ってまた進んでいった。そして坂手港近辺の集落からも離れていく。
草むらの広がる風景になり、すっかり集落から離れきったころ、目的地である映画村に到着した。ここで降りよう。
バス停の前はすぐに入口になっていた。入場料を払って映画村に入る。
そこはけっこう広く、いろいろな施設があった。まずはみやげもの屋である。ここのみやげもの屋は古いつくりの店なのだが、売っているものはどこにでも売っている雑貨みたいなものである。まあこういう店があってもいいかと思った。
とにかく古い家々がたくさんある。二十四の瞳の当時の小豆島の風景を再現している場所である。いろいろめぐってみた。
建物を見つけた。同じように建物に入ろうとしている数人の人たちに続いて入ってみた。
ここはどうやら二十四の瞳を上映している場所のようだ。数人の人たちはたれ幕をくぐって中に進んでいくのでぼくも進んでいくが数人の人たちは入口で立ち止まっていてとおせんぼしている。これでは中に入れない。
ぼくが「あの…」と言ってみても、
「しっ!」
と言うばかりで誰もどいてくれない。これじゃ中に入れない。しかたないか。そんなに時間がないし映画を見る時間もないだろう。ぼくは引き返して簡易映画館から出た。
近くにあった建物の中には二十四の瞳の作者のことが展示されていた。なんでも作者の夫は政治的なことで長い間刑務所に入っていたらしい。昔の文学者はいろいろ苦労したことが多いのだろう。警察も拷問とかで無実の罪の人をたくさん生み出していたろうし。
あとは近くにあった小さな神社みたいな場所にさいせんをあげたり、古い人家風の場所、そして学校っぽい場所とかに寄っていった。松本に行った時に松本城のついでに寄った旧開智学校みたいに立派な場所ではないが、いかにも昔の小豆島って感じでいいなあと思った。
さて、もうそろそろバスが来る時間だなあと思い、映画村を出てバス停に向かった。次はオリーブ園に行こう。なんと言っても小豆島と言えばオリーブである。
バス停で待つと映画村を出てオリーブ園に向かうバスがやってきたので乗る。
バスはもと来た草むらの道路を進んでいく。小豆島は大きな店とかなくて不便そうだが、自然についてはいいところだなあと思う。
また集落に来て、坂手港に寄っていき、さらに進む。そして数時間前に通った草壁を通り過ぎてさらに進む。集落を抜けてしばらくは人家の少ない場所を通っていく。
やがて右手にオリーブ園の広がる場所に着いた。ここでバスを降りる。
さて、まずは坂道をのぼっていこう。右を見ても左を見ても見たことのない木々でいっぱいだ。おそらくあれがオリーブの木なのだろう。とにかく数百メートル四方に渡って木々が植えられている。
のぼっていくと右手に建物が見えた。さすがに連休なので混雑している。
建物ではおみやげを買おうか、でも荷物になるからあとで買おうと思い、まずはオリーブの木々を見てまわることにした。
同じように木々を見てまわる人たちがちらほらといる。さすがに斜面を行き来するのはしんどい。
それでもいろいろ歩いて木々を見てみる。ふだん会社で仕事しているだけであまり長い距離を歩くことがないので(もっともきのうきょう泊まっているホテルまではかなり歩いているが)こうやって歩くのは楽しい。
道なりに歩いているとなぜか斜面の下の道路、すなわちバス停まで来てしまった。だからさっきのぼった道をまたのぼる。
そんなふうにして植えられているオリーブを見たら建物の中に入る。いろいろとオリーブに関する展示があった。
オリーブが小豆島にやってきた当時のこととか、いろいろな展示があった。ひととおり見終わると職場のおみやげを買うことにした。オリーブ入りの甘い菓子があったのでこれでいいだろう。
ひとまず見終わったのでバス停まで降りていくことにした。ここから先は大部の港まで戻らなければならないが、福田経由でも反対方向の土庄経由でも行けるようだ。ぼくは土庄経由で行こうと多い、土庄行きの時刻を見てみた。
多少時間があるようだ。ふと見回すとなにやらバス停の近くに建物がある。なんだろう。入ってみることにした。
そこは民俗博物館のようだった。とりあえず入場料を払って入ってみる。
さすがにオリーブ園のそばなのでオリーブに関する展示はなかったが、その他の小豆島の一般的な住民の暮らしの歴史が展示されている場所であった。意外と全国にこういう場所ってあるのかもしれないなあと思った。
さて、そろそろバスの時間だなあと思って博物館を出ようとすると係員に、
「雨が降っていますよ」
と言われた。あれ。こんな突然に雨って降り出すものなんだなあ、やっぱり島ってにわか雨が多いのかなあと思った。とりあえず博物館ののき先でバスが来るか見てみることにした。バス停には何人か並んでいるので、バスが来てからバス停に行ってもなんとか乗れるだろう。
しばらく待つとバスがやってきた。ほかの客が乗るのに続いて無事乗れた。いざ出発である。
と、バスは本通りをはずれてオリーブ園への坂道をのぼっていく。なんとオリーブ園経由のようだ。さっき映画村から来たバスはオリーブ園には寄らなかったから、寄る便と寄らない便があるのだろう。
オリーブ園のバス停で乗り降りがあり、客が10人ちょっとになったバスは坂道をおり、本通りに戻って右に曲がり、雨の中を土庄に向けて進んでいった。
雨の中、けっこうな客を乗せたバスは、オリーブ園を出て土庄へと向かっていった。
しばらくは島の南の道を進む。雨が降っていなかったらいい景色なんだけどなあ。
そのうち市街地が近づいたようだ。だんだん人家が近くなってきた。オリーブ園でまとまった人数が乗った後はそれほど乗り降りがなかったけど、家並みが多くなってからかなり乗り降りがある。
自動車販売店もあった。ここ小豆島はバスと自家用車しか交通手段がないので、そりゃ自動車販売店もあるのだろう。
いつのまにか雨はやみ、さらに市街地を進んでいった。そして終点、土庄港に着いたのだが、バスのアナウンスでは土庄港と言った後で「…の群像」などと言っている。まずはバスを降りた。
港なので港のターミナルがあるが、そこからちょっと距離を置いたところに、なにやら銅像みたいなものがある。もしかして群像ってこのことか。
よく見ると12人ほどいるようだ。つまり二十四の瞳ということだ。なるほど、二十四の瞳に関するものが土庄にもあるということらしい。
さて、最後に大部まで行くバスの時刻を確認しようと案内板を見ると、時刻表の時刻と違う!なんと数十分も遅い時刻なのである。
しかし大部から出るフェリーの時刻は時刻表通りで、しかも最終便である。はたして乗れるだろうか。タクシーでも使って大部に行った方がいいのではないか。
いろいろ考えたが、やはりこのバスでなんとか間に合うんじゃないかと思い、このバスに乗ることにした。
きょうはまだ昼食を食べていない。ここは港だから食堂くらいあるかなあと思って土庄港の建物に入る。香川県だからうどんでもあったら食べたいなあ。
うどん屋はあった。よし、食べよう。うどんを注文し、ずるずる食べた。うまかったなあ。
あとはバスの発車時刻まで群像の近くで休んでいた。小さな公園っぽい場所であった。海も見ておこう。
そしていよいよ小豆島最後のバスである。このバスはちょっと客が少なく、5〜6人程度の客である。やはり草壁経由より大部経由の方が客が少ないのだろう。バスは発車した。
バスはしばらくは草壁から来た道を戻っていったが、いつのまにか大部に向かう道に来たらしく、市街地をはずれて草むらの中を進んでいく。しばらくは海は見えないようだ。
じきに海が見えるようになってきた。海沿いにところどころ集落があり、お客が少しずつ乗り降りする。
それにしてもゆっくり進むバスだなあと思った。思っただけで実際はそれほどゆっくりとは進んでいないのかもしれない。おそらくバスの時刻表通りに進んでいるのだろう。はたして最終の大部発日生(ひなせ)行きのフェリーに間に合うかどうか。
海はとてもきれいなのだが気が気ではない。
それでもなんとか間に合う時間に大部の集落にバスは入り、バス停に着いた。フェリー港に最も近い場所ではないが、もしかしたら一番近い場所にバス停はないかもしれないなと思い、ちょっと遠そうな大部のバス停でバスを降りた。
そして港をめざして走り始めた。
土庄(とのしょう)から乗ってきたバスを大部(おおべ)の港からちょっと離れた停留所で降りると、いちもくさんに午前中に降りた港に向けて走った。息を切らせながら走ると、目の前にフェリーがあった。
乗船券売り場にはきっぷを買うため並んでいる人がいるので、うしろで待つ。はあはあしながら順番を待つと、ようやく前の人が乗船券を買い終えたので、ぼくも乗船券を買ってフェリーに乗った。
午前中の船よりずっと客が多く、席は満席である。とりあえず床にすわろう。目の前はカーテンが降りている。もう日が暮れるのでカーテンは開けられないようである。そのままフェリーが動き始めたようだ。
無事フェリーに乗れてほっとしながら時間を過ごす。これからまた播州赤穂駅からホテルまで約1時間歩かなければならないので、今のうちに休んでおこう。
外が見えないまま過ごしていると、どうやら船は日生(ひなせ)の港に着いたようだ。この旅も半分以上終わったことになる。
ぼくは案内に従いフェリーをおりた。時刻表通りだと播州赤穂に向かう電車まではかなり時間があるので、ゆっくりと日生駅に向かうことにした。