1996年夏は、予定では青春18きっぷの4回分を、それぞれ三重県の私鉄の旅行に2回分、滋賀県の近江鉄道の旅行に1回分、夜行バスを2つ使った米子から福山までの旅行に1回分使い、あとの1回分は帰省先からアパートに帰るのに使うつもりでした。
しかしアパートには普通のきっぷで帰ることになり、1回分余りました。それでもう1回旅行することにしました。さてどこにしましょう。
なんとなく、夏の季節にしか行けない立山・黒部アルペンルートに行ってみたいと思いました。
立山・黒部アルペンきっぷというのがありますが、このきっぷの通り道の富山近辺にまだ乗っていない路線として城端線(じょうはなせん)、氷見線(ひみせん)、七尾線があるので、これらに青春18きっぷで乗ることにして、富山で1泊した後で、乗ってみたい特急の1つ、特急白山に乗ることにしました。
来年には高崎から長野まで新幹線ができるので白山はたぶん廃止されるでしょうから今が白山に乗るラストチャンスでしょう。
とすると計画はこんなふうになります。
・急行アルプスで新宿から信濃大町へ
・ただちにアルペンルートで富山に抜け、青春18きっぷで氷見線・城端線などをまわる。富山に1泊
・特急白山で上野に行く
アルプスと白山は指定席を取ることにしました。アルプスは臨時も出ているので、「臨時の方が席が取りやすい」という原則にのっとって臨時を取ります。無事指定席が取れました。ついでに立山・黒部アルペンきっぷも買います。
ホテルは富山ステーションホテルが取れました。
このようにして、出発が午後11時過ぎと遅く、指定席も確保してあるので、風呂に入ってから新宿に向かったのです。
新宿駅にやってきた。持っていた立山・黒部アルペンきっぷを見る。これからあさってまでこのきっぷにお世話になる。しっかり見ておこう。
夜遅くに新宿駅に来るのはおととし快速ムーンライトに乗った時以来である。もちろん飲み屋に行くのに新宿に夜来ることはあるが、JRの長距離用のホームは夜来ると独特の雰囲気がある。
とりあえず指定席券の席に行こう。臨時のアルプスのホームに行く。電車はすでに入線していた。ボックス型4人がけ席の電車である。
乗ると向かいに年輩の夫婦がやってきた。となりにも来るかもしれないから荷物は網棚に入れておこう。
ずっと向こうのホームに特急あずさの車両が見える。どうやらあれが定期のアルプスの車両のようだ。
うーん、臨時列車の方が指定席が取りやすそうだから臨時にしたけど、アルプスは定期列車の方がいごこちがよかったのかなあと思った。
そのうち発車時刻になり、アルプスは発車していく。
いつもの中央線の風景である。まちなかの景色が三鷹のあたりまで続く。
だんだんと人家が少なくなり、高尾を過ぎると山の中に入る。もうとなりの席に人は来ないようなのでくつをぬいで座席に横になることにする。これで向かいの夫婦も脚が伸ばせるだろう。そのまま眠る。
気がつくともう松本を過ぎている時刻だった。よく眠れた。向かいの夫婦は松本で降りたらしい。あたりは残っている客の方が少ないようである。
山登りに行く人は松本で降りる人は少ないだろうし、やはりこの列車は松本に用がある人がおもに使う列車だったようである。
8月も終わりなので日がだんだん短くなっており、まだ暗い。アルプスは大糸線を進んで、少しだけ明るくなった信濃大町駅に到着した。ここで降りる。立山・黒部アルペンきっぷのA券と急行指定席券を改札に渡して外に出た。まだ扇沢行きのバスまでは時間があるようだ。
どこかにコンビニでもないかなあと思った。最近は駅から遠いところにコンビニができることがよくあるし、もしかしたら信濃大町もそうかもしれない。
なんとなく駅前のななめの道を進むとコンビニがあるような気がした。進んでみよう。
てくてく進む。本当にセブンイレブンが見つかった。ここで弁当を買っていこう。
ぼくは自分のカンが正しかったことに満足し、弁当を買って駅に戻った。
信濃大町からちょっと歩いたところにあるコンビニで朝食を買って、駅に戻ってすわって食べた。まだまだ一番の扇沢(おうぎざわ)行きバスまで時間があるので待つ。
ぼくと同じようにアルペンルートに路線バスで向かう人たちは10人もいないようだ。年輩の人たちが多い。
ようやくバスがやってきたので乗る。出発だ。
バスはしばらくは盆地を走っていたが、そのうち川沿いを走るようになった。それも、ごつごつした岩がたくさん河原に見えるところを通るのである。
そして途中、宿がいくつか集まった場所からお客が5人ほど乗ってくる。扇沢の近くにはアルペンルート用の宿があるのである。若い女性ばかりであった。そして進む。
ようやくトロリーバスの発着場らしい場所にやってきた。うわあ、観光バスがたくさんある!
おそらくこれらの観光バスは、みんないわゆる「主催旅行」のバスだろう。
ということは少なくとも立山・黒部アルペンきっぷの利用者ではないわけである。
もしかしたらこのきっぷの利用者って、とても少ないんじゃないだろうか?
ちゃんとトロリーバスに乗れるのかなあと思いながら、ぼくはアルペンきっぷを見せてバスを降りて、発着場の窓口に歩いていった。
信濃大町から乗ってきたバスを扇沢で降りた。観光バスがたくさん停車していて、お客はとても多い。公共交通機関の始発は今ぼくが乗ってきたバスだし、ここにいる客の数はそれに比べると何倍も多いので、おそらくほとんどの客は観光バス、すなわちパック旅行の客なのだろう。
とりあえず行列に並んだ。いちおう行列は進んでいるらしく、だんだん順番が近づいてくる。
順番が来たので立山黒部アルペンきっぷを見せたところ、係員は、
「それでは、○○号車に乗ってください。」
と言われた。どうやら特にアルペンきっぷとは別のきっぷを渡されるということはなさそうだ。
トロリーバス乗り場には、たくさんのトロリーバスが準備されていた。「○○号車」というくらいだから、時刻表では1時刻に1本のバスしか出ないように書いてあるけど、実際にはバスが何台も黒部ダムに向けて走るのだろう。
しかし妙に静かである。あ、そうか、トロリーバスってエンジンじゃなくてモーターで動くんだっけ。
モーターということは、エンジンと違ってアイドリングとかしなくていいので、停車している時は音がしないのである。うーん、やはりぼくが初めて目にする乗り物なんだなあと思う。
前に並んでいた客がどんどんトロリーバスに乗り込んでいく。そしてぼくも指定された号車のバスに乗り込む。
さすがに立ち客は出ないようだ。普通のバスと多少違うような気がするが、運転席はバスと同じようなものであるし、ちゃんとタイヤもゴムタイヤのようだ。もちろんレールなんかない。でも架線はある。レールもないのに架線が張り巡らされているのだ。そして架線から電気を受けているようだ。
お客が全員乗ったタイミングで、トロリーバスは一斉に走り出した。数十メートルほど、明るい中を進むが、やがて暗いトンネルの中にバスは入っていく。
聞こえるのはモーターの音である。暗い中をバスが何台も進んでいく。お客はそれほど若い人が多いわけでもなく、年輩の客がかなり多い。
だいぶ時間が過ぎた。トロリーバスは長野県から富山県に入ったはずだ。長野から直接富山に行ける公共交通機関はこのトロリーバスだけだが、もちろん県境に何か標識があるわけではない。時間は過ぎる。
そしてバスが停車した。終点の黒部ダムだと言う。黒部ダム側は降りる場所もトンネルの中なのである。とにかく降りなければならない。さあ、どっちに進めばいいのだろう。暗い通路を進んでいく。
やがて光が見えてきた。進むとなんとそこはみやげもの屋の中だった。そして窓がある。窓の下にはダムが見える。あれが黒部ダムだろう。
これからケーブルカーに乗るわけだが、そのためにはこの狭い通路を進まなければならないようだ。みやげもの屋ではいろいろなものが売っているが、こんな不便な場所だからみんな値段が高そうだ。
みやげもの屋を通り抜ける。すると建物の外に出た。階段だ。おりていこう。
眼下に黒部ダムが広がっている。ダムの貯水湖、そして放水の音、放水されたダムの水が下流へと流れていく。ダムは両岸の山々にはさまれていて、遠くの山が見えるわけではないが、ほどよくいいながめである。
こんな場所にこれだけのものを作るなんて、作った人もすごいが、最初にここに来て測量した人もたいへんだったろうなあと思った。
階段を長いことかけておりていく。だいぶ時間がかかった。
ようやくおり切った。貯水湖の橋を進む。橋の先はトンネルになっている。このトンネルを進むとケーブルカーの駅に出るのかなあと思いながら、ぼくは橋を渡っていった。
黒部ダムの湖側と、下流側をそれぞれながめるとぼくは先に進んだ。この先にケーブルカーの駅があるはずだ。トンネルに入っていく。
しばらく進むと駅らしきものがあった。改札らしき場所でぼくは立山・黒部アルペンきっぷを見せるとそのまま進んでいいことになった。改札を通って進んでいくと車両が見える。
どうやらこのケーブルカーはずっと地下を走るらしい。
去年筑波山のケーブルカーに乗って以来、いろいろな場所のケーブルカーに乗ってきたが、こういう場所もめずらしい。
お客がだいぶ乗った後でケーブルカーは動き出した。
ずっと地下を走る。まあ、地下鉄みたいなものだろう。
この先はロープウェイだから、おそらくながめがいいのだろう。そんなながめに通じる場所なのだから、まあ地下でもしかたないのかもしれない。
トロリーバス、ケーブルカー、ロープウェイといろいろバラエティに富んだ場所だなあと思いながら進んでいく。もちろんケーブルカーなのでおりてくる車両とすれちがう。
そんなふうにして時間は過ぎ、ようやく頂上の駅に到着した。ロープウェイに乗り換えだなあと思いながら、ぼくはケーブルカーを降りた。
黒部湖の駅から乗ってきたケーブルカーを黒部平で降りた。そして通路を進むとこれから乗るロープウェイの駅に着く。
ケーブルカーを降りた客はたくさんいる。目の前にお姉さんがいる。そして信じられないことを口にした。
「はーい。それでは、黒部ダムの方でもらっている整理券を確認してください。」
整理券?そんな話は全然きいてないぞ!
「すいません!整理券なんてもらってません。」
「えっ、そうなんですか。少々お待ちください。」
お姉さんは事務所のような場所に行き、整理券を持ってきた。
しかし、整理券に書かれたロープウェイの発車時刻は今すぐ出るロープウェイでなく、1本あとのロープウェイだった。なんとも不親切なものである。
いったいどこで整理券の案内があったのか全く不明である。
もしかしたら、立山黒部アルペンきっぷを使っている人はぼくだけで、あとの人はすべてパック旅行で、整理券のことは添乗員が承知していることだから、添乗員のいないぼくだけ知らなかったのかもしれないと思い返している。
とにかくお客の一部がロープウェイに乗るのを見送った。これから予定では富山駅に着いたら七尾線と氷見線と城端線に乗るつもりだが、無事夜までに乗れるだろうか。何もできずにぼくは待った。
さんざん待たされて、ようやくぼくの乗る時刻になった。ゴンドラに乗る。もちろんすわれず、大入り満員になった。そしてゴンドラは発車。
うわあ、すごいながめだなあ。
数時間前の黒部ダムのあたりは、山と山にはさまれた場所といった感じの場所だったが、このロープウェイが通る場所は、山がそれほどせまっているわけではなく、ほど良い距離で離れているのだ。
だから空も広い。そんな中をロープウェイはのぼっていく。眼下の地面がどんどん離れていく。進行方向の山がどんどん近づいていく。満員なのでそれほど景色が見られるわけでもないが、お客がみんなすごい景色に感動しているのが伝わってくる。
ついさっき発車した黒部平が、もうあんなにずっと下の方に見える。黒部ダムは見えないが、さらに標高の低い場所なのだろう。
左右の山々も、それほど高い山という感じがしない。このロープウェイがすでに標高の高い場所まで来ているので、まわりの山がそれほど高く感じられないのだ。
あとで考えると、標高の高い場所は天気が悪くなりやすいものなので、この日こんなに天気が良かったのは、非常に幸運だったのかもしれないと思い返している。
さて、正面の目的地、大観峰が近づいた。相当に高い山の中腹やや頂上寄りである。そして無事到着した。ここで降りる。
ここからはトロリーバスで室堂(むろどう)に行かなければならないが、しばらく時間があるようだ。とりあえず予定より遅いロープウェイに乗ってしまったので宿への到着も遅れそうだ。ぼくは今日泊まる富山ステーションホテルに、到着が遅れることを電話することにした。
だいぶ待たされて乗ったロープウェイを大観峰で降りた。これから乗る室堂(むろどう)行きのトロリーバスは、さすがにロープウェイより運搬能力があるようで、整理券など必要ないようだ。
でも少し時間がある。とりあえず予定より遅いロープウェイに乗ってしまって宿への到着も遅れそうなので、今日泊まる富山ステーションホテルに、到着が午後10時ごろになりそうだと電話しておいた。
電話中、テレホンカードの減り具合を見ていたが、10円しかかからなかった。けっこう大観峰から富山市内って距離が近いのかもしれない。
まだ時間がある。今までのぼってきたロープウェイをながめよう。
展望台っぽい場所があり、ロープウェイを見下ろした。いい天気である。山々がくっきりと見えるのだ。
お盆のシーズンよりも、きょうみたいな8月の終わりの方が天気がいいかどうかは良くわからない。山の天気は変わりやすいと言うし。
しばらく景色を楽しんで、いよいよきょう2つ目のトロリーバスである。乗り場に行き、立山黒部アルペンきっぷを見せる。無事改札を通る。
数時間前に長野県側で黒部ダムまで乗ったトロリーバスと同じようなバスである。ロープウェイがあれだけ混雑していたにもかかわらず、トロリーバスはそこそこの客数である。そして発車。
こちらのトロリーバスも、暗いトンネルの中を進んでいく。もちろん動力はエンジンでなくモーターなので、モーターっぽい音が車内にひびく。
ずいぶん長いことかかってバスは終点に到着した。バスを降りる。
またみやげもの屋を通り抜けさせられるのかと思ったが、この室堂の駅は強制的に通り抜けさせられるわけではなく、通路を進むとみやげもの屋っぽい建物の外に出た。どうやら建物の外を通ればこれから乗る美女平(びじょだいら)行きのバス乗り場に行けそうだ。
さあ、バス乗り場を探そう。
大観峰(だいかんぼう)から乗ってきたトロリーバスを室堂(むろどう)で降りて、暗闇から外に出てきた。
けっこう大きなバスターミナルで、みやげもの屋や待合室も整備されているようだ。ケーブルカーの美女平(びじょだいら)行きの時刻まではそれほどないので、まずはバス乗り場を探す。
あったあった。けっこう並んでいる人がいるが、なんとか全員乗り切れそうだ。並んで待つとバスがやってきた。
乗ると出発である。でも、まわりにはそんなに植物はない。室堂はあまりにも標高が高いため、それほど植物があるわけではないのである。
ぼくは長いこと急行アルプスでゆられ、ロープウェイでも立ちづめだったので、ぐっすり眠ってしまった。
起きるとだいぶ標高が下がっているらしく、耳がつーんとする。
まわりを見ると、室堂では見られなかったたくさんの植物が見える。やっぱりこういう緑が見えるっていうのはいいものである。
晴れた日差しの中、澄んだ空の下をバスは進んでいく。いい景色である。
そしてようやくケーブルの美女平にやってきた。ケーブルカーはそれほど待たないが、ケーブルをおりてから電鉄富山行きの電車までは多少待つようだ。ぼくはバスを降り、美女平駅に入っていった。
室堂(むろどう)から乗ってきたバスを美女平で降りた。ケーブルカーの駅があった。立山駅行きの時刻を調べると、それほど待たなくてもいいようだ。降りた人たちはみんなケーブルカーに乗るが、なんとかすわれそうな人数である。
改札が始まった。立山・黒部アルペンきっぷでそのまま乗車である。今度は黒部ケーブルカーと違って地上を走るようだ。そして発車。
ここのケーブルカーは森の中を走るため、あまり見晴らしがいいものではない。あまりにも黒部平から大観峰まで乗ったロープウェイの見晴らしが良すぎたし、室堂からのバスもながめが良かったので、それと比べるとまあしかたないのかもしれない。
でも室堂近辺は標高が高すぎてたいした植物もなかったが、ケーブルカーからは夏の植物が見えて、これもいいながめである。
そんなふうにして登っていく車両とすれちがい、さらにおりていく。
そしてようやく終点、立山駅に到着した。車両を降りて改札を出る。ここの駅は富山地方鉄道の立山駅と直結しているようだ。
ケーブルカーはけっこう頻繁に出ているが、どうやらここから電鉄富山行きの電車はけっこう待たなければならないようだ。ぼくはほかのお客といっしょに待合室で電車を待った。
美女平から乗ってきたくだりのケーブルカーをふもとの駅の立山駅で降りた。この駅はケーブルカーの駅と電車の駅が直結していて便利である。
しかしダイヤはそれほど直結しておらず、しばらくとっぷりと待合室で待った。
ほかの客は、それほど若い客はいない。30代前半のぼくよりずっと年輩の人が多い。女性は少ないようだ。
まあ、山の景色を見るなんて、年輩向けの観光地なのかもしれないなと思う。きょうの景色は良かったが、若い人たちはもっといい景色をもとめて外国に向かう人も多いだろう。
さあ、電鉄富山行きの電車がやってきたので乗る。ケーブルカーの客は全員すわれてしまった。そして出発。
立山駅はどう考えても人家の集落がある場所ではなさそうである。そこからしばらくは人家が全然ない場所を進む。森の木々がレールのすぐそばまで迫っている。
そして木々の枝が窓ガラスに当たるのだ。こんな電車はJRでは見ることはできない。
もしかしたら、「枝を電車に当てないように枝を刈り込むルール」がJRと私鉄では違い、私鉄ではそんなにきびしくないのかな、と思った。電車もそんなに新しくなさそうだし、まあこれでいいのかなと思った。
それからも電車は人家の少ない場所を通り、ケーブルカーの客以外ほとんどいないまま進んだ。そして終点近くなってようやく人家が多くなり、富山の中心地に入っていく。
そして電車は終点、電鉄富山駅に到着した。電車を降りる。この駅はいかにも地方の私鉄といった感じの駅であった。
改札に立山黒部アルペンきっぷを見せて通った。このきっぷはあしたまで用がないのでしまっておく。
JR富山駅はどこだろう。案ずることはなく、ちょっと歩くとすぐあった。
富山には母親と青春18きっぷで来たことがある。あの時は駅ビルで買い物して終わりだった。今度も通過するだけだ。まあ富山は観光地が少なさそうなのでしかたないかと思った。さあ、行こう。
立山から乗ってきた富山地方鉄道の電車を電鉄富山で降りた。とても時間がかかってしまい、もうお昼の12時をまわっている。
でもなんとかこれから七尾線と氷見(ひみ)線と城端(じょうはな)線をまわって富山に戻ることができそうだ。まずは七尾線に行こう。
電鉄富山からそれほど歩かずにJRの富山の改札に着いた。青春18きっぷにスタンプを入れてもらって改札を通る。昼12時過ぎにスタンプを入れてもらうのはひさしぶりだ。
金沢の方に行く電車の出るホームに行く。はじめての石川県である。どんな景色が待っているのだろう。電車がやってきたので乗る。北陸本線っぽい電車だ。はるばる長野県から山を越えてやってくると、北陸にやってきたんだなあと思う。
それほど混雑もしていない電車は発車した。しばらくは富山の平野を走っていく。
そのうち人家が少なくなり、平野から離れて山あいを進むようになる。トンネルも通っていく。今日は長いトンネルをトロリーバスで抜けてきたので、JRのトンネルはたいしたことはなく感じる。
そして石川県入りである。そのうち乗換駅の津幡(つばた)が近づいてくる。到着。電車を降りる。
ちょっとだけ七尾行きの電車が出るまで時間があるので、駅前に何かお店がないかなと改札を出てみることにした。
富山から乗ってきた電車を津幡(つばた)で降りて、いったん改札の外に出て七尾行きの電車を待つ。
津幡は駅前にそんなに建物のない場所だった。時間があれば散歩とかしてみたいけど、そんなに乗り換え時間がないのでここにいることにしよう。
またホームに来て待つと七尾行きがやってきた。多少混雑していたが席は空いていたのですわると発車する。
今日は午前中はアルペンルートの高原の景色を見てきたわけである。しかも天気が良かった。
今も天気は良いが、七尾線の景色はなんとなく単調である。
日本全国いろいろな景色を見ているが、左右に山の広がる景色がけっこう多い。
しかしここにはそれがない。半島なんだからあたりまえかもしれない。
でも、こういう風景で思い出すのは、おととし去年と乗った下北半島の大湊線くらいである。他は房総半島とかでも多少高い山はあった。
山のない、平坦な景色が延々と続いているのがなんとなく不思議な感じがした。
そんなふうにして時間が過ぎて、ようやく電車は終点、七尾に到着した。
さて七尾線の終点は和倉温泉であるが、青春18きっぷでは普通列車にしか乗れないので、のと鉄道のディーゼル車に乗って行く必要がある。いったん青春18きっぷを見せて改札の外に出た。
津幡(つばた)から乗ってきた電車を七尾で降りて、いったん改札の外に出た。
駅前を見てみた。たいして大きな店はない。でも食堂っぽい店はある。
和倉温泉に行って戻ってきたら七尾で乗り換え時間がけっこうあるので寄ってみよう。
さてのと鉄道の改札が始まった。青春18きっぷで入れるか心配だったが、和倉温泉まではJR西日本でもあるので案ずることはなく乗れた。しかもけっこうお客がいてすわれない。まあ、1駅で降りるんだけど。
ディーゼル車は発車し、1駅にしてはけっこう長く進む。
そしてようやく目的地、和倉温泉に到着した。青春18きっぷを見せると無事降りられた。
駅前の広場を見てみる。どこかの本で見たが、和倉温泉の温泉街は和倉温泉駅からバスに乗ってけっこう離れたところにあるようだ。
だから駅前はバス停があるくらいで閑散としている。もし今後能登半島を観光してみることがあったら温泉街にも寄ってみたいな、と思った。
そしてホームに戻り、七尾行きを待つ。ディーゼル車がやってきた。今度はすわれるようだ。忘れずに整理券を取っておこう。
ディーゼル車は進んでまた七尾に戻ってきた。整理券を運賃箱に入れ、青春18きっぷを見せてディーゼル車を降りた。駅前に出る。
食堂に行ってみると、なんと午後5時から開店とある。でももうすぐ午後5時だ。
金沢行き電車が出るまでけっこう時間があるので午後5時になってから夕食をたのんでも間に合いそうだ。そんなわけで開店を待つ。
店が開いた。食事を注文する。それほど時間もかからずに出てきた。今日は朝食は信濃大町のセブンイレブンで食べることができたが、昼食はろくに食べていない。無事おなかがいっぱいになったのでありがたい。
すっかりおなかもいっぱいになったところで店を出て七尾駅に戻ることにした。
七尾駅前の食堂で夕食を食べ終わり、食堂を出た。
ちょうど金沢行きの電車の時間になったようである。改札に青春18きっぷを見せて通り、金沢行きの電車に乗る。どうやら定刻通り動きそうである。氷見線にも城端線にも乗れそうだ。富山港線はまたの機会にしよう。どうせ高山本線に乗っていないから、高山本線に乗った時にでも乗ろう。
けっこう席が空いていてすわれた。電車は発車する。
8月なので日は長いが、山の少ない景色を見ているうちに日が暮れていく。
この時間に金沢に向かう客は少ないようで、ずっと客が少ないまま進んでいった。
とっぷりと日が暮れたころ、電車は津幡に到着した。さあ、高岡まで行って氷見線と城端線に乗ろう。
七尾から乗ってきた電車を津幡(つばた)で降り、高岡に向かう電車を待った。じきに電車がやってきた。
それほど混雑もしておらず、暗い中を電車は進んでいく。トンネルをくぐる。暗いので景色は見えないが、数時間前に通った場所だしこれでいいだろう。
電車は目的地、高岡駅に着いた。ここは富山駅よりほど大きくはない市街地で、JRの路線が集まるターミナル駅にしては小さな駅である。まずは電車を降りて氷見線の出るホームに向かう。
氷見線のディーゼル車はにぎやかで客も多い列車だった。暗い中を発車する。1駅ごとに客が降りていき、けっこう使われているようである。若者が多く年輩の客はそれほど多くなさそうだ。そのまま10数分が過ぎる。
そして終点氷見(ひみ)駅に着いた。青春18きっぷを見せて改札を出て、まずは駅の外に出てみよう。
駅の外は駅前広場になっていた。送り迎えの車が来る場所である。でも海はそれほど近い場所にはないようだった。まずは満足して高岡行きのディーゼル車に戻った。
反対方向の列車は客がかなり少ないまま発車した。もう暗いので景色は見えないが、今日は立山黒部アルペンルートのながめを見られたことだし、こんなものでいいのだろう。
ディーゼル車は終点、高岡駅に到着した。さあ、降りて城端線(じょうはなせん)に乗ろう。
氷見(ひみ)から乗ってきたディーゼル車を高岡で降り、城端(じょうはな)線のディーゼル車に乗り換えるため階段を上がり、ホームを探した。
階段をおりて城端行きに乗る。氷見線と似たようなディーゼル車だが、さきほどより1時間ほど遅いせいかかなり客は少ない。
ディーゼル車は発車する。すぐに市街地を離れ、暗い中をディーゼル車は進んでいく。
家々の明かりが遠くに見える。それほど人家の近くは通っていないようである。昼間乗ったらどんな景色になるかわからないが、山々の見えるいい景色なのかもしれない。
今日は急行アルプスを信濃大町で降りて以来、ずっと忙しく動いていたので疲れてしまっている。そんなわけで眠ってしまった。
気がつくと車掌に起こされた。もう城端に着いているようだ。でも折り返しの高岡行きまでそんなに時間がないので、車掌に青春18きっぷを見せて、このまま降りないで高岡まで行きますと言った。
そしてまたディーゼル車は高岡に向けて発車する。窓の外を見たが、どうやら城端の近辺も山がすぐ近くにあるという雰囲気ではなく、まだまだ平野の途中のようであった。それだけ確認するとまた眠った。
今度は高岡の手前で目覚めた。そして市街地に入り、高岡駅に到着した。ディーゼル車を降り、富山行きの電車に乗り換えである。もうこんな夜遅くなので北陸本線の電車はたいして客もおらず、無事富山駅に到着した。このようにして青春18きっぷの4日目を無事使い切り、残すは来月の旅行のみになったわけである。
青春18きっぷを見せて富山駅の改札を出た。夕食は七尾駅前で食べているので富山では食べなくていいだろう。まずは今日の宿の富山ステーションホテルを探す。
駅から右手にあった。チェックインして風呂に入る。今日は朝早かったので、ただちに眠ることにしよう。おやすみなさい。
目が覚めた。わーっ、寝坊した!
ここは富山駅前の富山ステーションホテルである。予定の時刻より遅くなったが、急いでチェックアウトして富山駅に向かう。なんとか上野行きの白山には間に合うようだ。
なにしろ1日1本しか出ていないので乗り遅れるわけにはいかないのだ。
無事乗り、ぼくより年上そうな女性のとなりにすわる。そして富山を出発。
なにしろもうすぐこの特急白山は廃止されてしまうのだ。廃止される前に乗っておこう。やがて富山平野をあとにして親不知に来る。海が見える。
海の中に高速道路が走っている。フォッサマグナのせいで陸にトンネルを掘ることができなくて、それで海の上に高速道路があるのだ。いつか通ってみたい。
そのうち直江津に着く。進行方向が変わる駅だ。女性といっしょに立ち上がり、席を回して進行方向を変える。
女性が言った。
「ほんと、電車って冷房が効きすぎていて寒いですね。」
ぼくが言った。
「暑いんですが・・・」
会社の中でも、冷房は冷え性の女性に合わせているので、なにしろ男には暑いのである。
もっとも女性に合わせたというより、単なる省エネなのだろうが。
それにしてもこんなに暑いのにそれを寒いと感じるなんて信じられない。
さて、白山は信越本線に入る。長野までは新幹線ができてもしばらくは信越本線だ。
新幹線が長野から先延びるとJRでなくなりそうだが、あと何年後になるだろうか。それまであと何回JRとしてこの路線に乗れるだろうか。
快適な白山の特急に乗りながら長野を過ぎる。篠ノ井から先はあと1年ちょっとでJRでなくなる区間である。
車内販売が何度もやってくるが、昼食は東京で食べようと思っているので何も買わずにすごす。そして軽井沢を過ぎる。
この軽井沢から横川までの、トンネルを何本も通ってくだっていく区間が、もうすぐ廃止されるのだ。あと何回乗れるだろうか。しっかり乗って記憶に残しておこう。
横川から先はすいすい進んで上野に着いた。白山なので「下の」ホームである。
かなり体力を消耗した今回の旅だったが、来週も島根の方に行く高速バスの旅が待っている。でもひとまずここからアパートに行って、コンビニでめしでも買って食べようと思い、山手線のホームに急いだ。