storm 1 - 2


(1)
時刻はまだそう遅くはないはずなのに、真っ黒な雲のせいで、既にあたりは暗くなってきていた。
雨は一旦やんでいたが、今にもまた降り出してきそうだった。
風は益々凶暴さを増し、道行く人の足元をよろめかせた。
時折空を稲妻が走り、雷鳴が遠くでゴロゴロと鳴っていた。
嵐を避けようと、誰もが家路を急いでいた。

「あぶねぇっ!!」
叫んだときにはもう遅かった。
突風に煽られた看板が前から来た人物を直撃し、激しい音をたてて建物の壁に激突した。
「おい、大丈夫か?」
慌てて駆け寄り、激しい衝撃に気を失っているらしいその人の身体を抱き起こし、顔を覗き込んで、
息を飲んだ。
「塔矢…アキラ…?」
ポツリ、と雨粒が落ちてくるのを感じると、瞬く間に、雨はバラバラと音をたてて降り始めた。


(2)
看板で切ったらしく、黒いスーツの上着の袖が破けている。
救急車を呼んだ方がいいだろうか、そう思って携帯を探ろうとしていると、腕の中で彼が苦しそうな
うめき声を上げた。
「おい、大丈夫か?」
もう一度、声をかけると、彼は薄ぼんやりと目を開いた。
「さっきの風で、看板が飛んできて、ぶつかったんだ。大丈夫か?」
「…済みません、大丈夫だと…」
そう言って立ち上がろうとしてふらついた身体を、咄嗟に抱えた。
「思いっきりぶつかったみてぇだから、あんま急に動かない方がいいぜ。」
「…済みません。」
苦しそうな声で、彼は応えた。
「目ぇ覚まさなかったら救急車呼ぼうと思ったんだが、大丈夫か?」
「ええ、それ程ではないと思います。」
そうこうしている間に、雨が激しく降り出した。このままではずぶ濡れになる。
「とりあえず、こっち来い。」
そう言って彼の身体を引っ張って、庇の下で雨をよけようとした。
「止みそうにねぇなあ…」
雨は益々激しさを増し、道路は既に川のように水が流れ、地面に当たって跳ねる雨粒が足元をぬらす。
気まぐれに向きを変える強風のために、小さな商店の庇くらいでは雨をよけきれない。小さく舌打ちし
ながら、止みそうな気配など欠片もない豪雨を見ていると、横で彼がぶるっと身体を震わせた。
「…おまえ、怪我してるんじゃねぇか?おい、」
押さえている腕を放させると、破けているのは上着だけでなく白いワイシャツまで破け、そこから赤い血
が流れ出していた。
この通りにはタクシーは滅多に来ないし、駅まではまだかなりある。だがオレの家だったらすぐだ。
だが何を、オレは躊躇っている?



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