遠雷 10
(10)
芹澤は二度といったが、それはグリセリン溶液を使用した回数だ。
シャワーを使ったぬるま湯での洗浄は、数えていない。
内部を洗う湯が透明になるまで行われたそれは、紛れもなく拷問だった。
だが、気丈なアキラはその間、あらん限りの力で抵抗はしたが、涙だけは零さなかった。
卑怯な手で自分を陥れた者に、涙だけは見せたくなかった。
しかし、意に添わぬ行為は、容赦なく体力を奪っていく。
バスルームからベッドに移動する時点で、アキラは既に自力で歩くことも覚束なくなっていた。
芹澤と男に左右から抱えられずるずると引きずられるようにして、ベッドへと運ばれた。
乱暴に放り投げられたとき、自分は今この場で、ただの「物」でしかないのだと突き付けられた。
今時分らで切ることは。この醜い現実から、目を逸らすことだけ。
アキラは、硬く目をつぶる。
だが、薄いまぶたの先で震える睫が、陵辱者たちの目にどれほど可憐に映るか、彼は知らない。
可憐であることは、芹澤の嗜虐心に火をつける。
凛とした佇まいを持つ、この若く才能あふれる棋士を、汚してしまいたいと芹澤は思っていた。
しかし、可憐な姿を見てしまった今は、それだけでは満足できない。
自分に隷属させたいと願っていた。
自分のためだけに、綻ばせる花。
その想像に、胸が騒ぐ。
|