遠雷 11
(11)
「塔矢行洋の息子という立場は、君にとってどんな意味を持つのだろう?」
疑問の形で結ばれてはいたが、答えを求めていないのは明らかな言葉だった。
「あの、塔矢名人の息子というだけで、温室育ちのお坊ちゃんと思われているのは、君にとって幸運なのかな。
君の天才を、名人の薫陶ゆえと過小評価する者も多い。
実際、対局すればわかるのだがね。君の碁は、力強い。
力と力がぶつかれば、双方が傷つくのは必至だ。私は、そんな危険を犯すつもりはない」
芹澤はにたりと笑うと、アキラの耳元で囁いた。
「君は知れば知るほど魅力的だ。覚悟しなさい」
声だけ取り沙汰すれば、とても甘い口調だった。
それは、芹澤の宣言だった。
芹澤は、サイドテーブルからチューブを取りあげると、たっぷりと指にとった。
そして小一時間に及ぶ直腸洗浄で、わずかに綻んでいたアキラの後孔に、ゆっくりと差し入れていた。
――――ウッ!
アキラの全身が揺れる。
シャワーホースより幾分細いとはいえ、意思を持って動く指は、痛みよりも生理的な嫌悪感をもたらす。
いまだに声を奪われたままのアキラは激しく首を振った。
その動きで、なめし皮が摩擦熱を持ち、アキラの柔肌を熱で焼く。
だが、その熱よりも今アキラを苛むものは、アキラの体内にもぐりこむ異物。
芹澤の指が、円を描くように腸壁を撫でまわす。
ぬるりと冷たい感覚が、悪寒となってアキラの背筋を這い上がる。
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