storm 11 - 12


(11)
「どうかしてるよ。おかしいんじゃないのか、あんた達は。
そりゃ、ボクが女だって言うんなら、あんたの言う通りかもしれないけど、ボクは男だ。
いくらがっついてるからって、男のくせに男に欲情するなんて、どうかしてるんじゃないか!?」
「女じゃなくても、女以上に男心をそそるんだよ、おまえは。」
激しい怒りのために無防備になったアキラの両手首を捉える。だがアキラは抵抗しようともせず、
ギリギリと加賀を睨み上げる。
そんなアキラの身体を、両手首を押さえつけたまま、上から下までゆっくりと眺めた。
「髪も、目も、唇も、肌も、体つきも、そこらの女なんかかなわねぇくらい魅力的だよ。」
だがアキラは弄るようなその視線に、羞恥に目を逸らすよりも、抗議の意思を込めて加賀を睨みつけた。
「ほら、その目だ。
ゾクゾクするよ。そういう目を見ると。
そんな挑戦的な目で睨んだって、益々相手をその気にさせるだけだ。
おまえだってそうじゃねぇか?
弱っちい相手よりも勝つか負けるかの勝負の方がゾクゾクするだろう?」
「いい加減な事を言うな。
そんな事を言いながら暴力で無理矢理犯すのか?
ふざけるな。そんな事と、こっちの真剣勝負を一緒にするな。」
「変わんねぇんだよ、普通の男にとってはさ。
逃げるが勝ち、って言葉もあるんだ。
煽られたら煽り返すだけじゃなくて、逃げる事くらい覚えろ。」
「余計なお世話だ!!」


(12)
唐突にぱっと電気が点いた。
二人とも咄嗟に上を見上げた。
明るい蛍光灯の下だと、急にこの状況が馬鹿馬鹿しく見えてくる。
アキラの手首を掴んでいた手を放し、彼の身体から眼を逸らした。
そして床の上に捨てられていたジャージを投げるようにアキラの頭の上に放って、言った。
「服を着て、帰れ。」
その時また、ふっと灯りが消えた。

風がガタガタと窓を揺らす。
木々の梢がざわめく音が聞こえる。
吹きすさぶ強風の音に、ざわり、と背筋が震える。
一旦は鎮まりかけた獣性を嵐にまた煽られ始めているのを感じながら、必死にそれをこらえた。
けれど、目の前にうずくまる、熱く激しい瞳を持った美しい獲物から、目を離せなくなってしまった。
胸の中に荒々しく滾る熱い血を、どうやってこのまま押さえつけておく事などできるだろう。
投げかけられたジャージを掴んだ手が、小さく震えている。彼の身体を震わせるのは怒りなのか?
何をしている。
オレがオレの中の獣を抑えているうちにさっさと帰れ。オレの目の前から消えろ。でないとオレは…

声には出さない呼びかけが聞こえたかのようにゆっくりと彼が振り向いて顔を上げた。
更に濃さを増した暗がりの中で黒い目が光っている。
「とう…」
唐突に彼の手が伸びて強引に加賀の頭を引き寄せ、乱暴に唇を重ねた。
咄嗟の事に、加賀は抗えなかった。



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